62 お前は色男 フェルナンド目線
62 お前は色男 フェルナンド目線
宿へ戻ると、仕立て屋が待っていた。
部屋の中には、すでにいくつもの服が並べられている。
深い色合いの上着。肩章。
軍服だ。
「ずいぶん本格的ですねぇ」
ルークは、並べられた服を見ながら感心したように言った。
本来なら、神子に着せるような服ではない。
もっと白く、清廉で、神殿じみた服のほうが、周囲は喜ぶだろう。
だが、そんなものを着せる気はなかった。
神殿に取られるつもりもない。
あいつは俺の側に置く。
ならば、必要なのは神子の衣装ではない。
俺の隣に立つ服だ。
「着ろ」
短く言うと、ルークは素直に「はい」とうなずいた。
仕立て屋が手際よく服を合わせていく。
最初は濃紺。
悪くない、だが違う。
次は灰色。
これも似合う。だが、まだ足りない。
「次を」
仕立て屋が慎重な手つきで黒の軍服を差し出した。
ルークが袖を通す。
その瞬間だった。
息が止まった。
仕立て屋も、動きを止めている。
別人のようになった。
細身の体躯。金茶の髪。白い肌。
そこへ黒が乗ることで、全部が際立つ。
視線を奪われる。
危険なほどに。
「……」
言葉が出ない。
ルークは鏡を見ながら、のんきに首をかしげていた。
「これだと葬式ですね」
さらりと言う。
「向こうでは、黒って葬式か、逆にすごくかっこいい人が着る服なんですよ」
軽く返された言葉を聞き流しながらも、視線を逸らせない。
駄目だ。これは駄目だ。
目立ちすぎる。
軍人を通り越して、別の何かになる。
危うい。
「黒はやめろ」
「え?」
「目立つ」
「そうですか?」
「あぁ」
仕立て屋も慌ててうなずく。
「た、大変お似合いですが……少々、迫力がありすぎますね」
ルークは不思議そうにしながらも、素直に着替えた。
結局、落ち着いたのは茶色だった。
軍服らしさを残しながら、黒ほど攻撃的ではない。
それでも軍人だ。神子に見えない。
「こちらでいきましょう」
仕立て屋が慎重に言う。
「あぁ」
短く返しながら、俺は細部を見ていく。
問題はデザインだ。
俺と同格にするか。
それとも部下側に寄せるか。
迷った。
「俺の格より上で仕立ててくれ」
仕立て屋が目を見開く。
「よろしいのですか?」
「あぁ」
迷いなく答える。
「俺が神子に仕えることを示す」
部屋が静まり返った。
仕立て屋は一瞬だけ固まってから、深く頭を下げた。
「承知いたしました」
ルークはきょとんとしている。
意味を理解しているのか怪しい顔だ。
だが、そのくらいでいい。
下手に理解されると、また逃げる。
そのときだった。
試着を終えたルークが、なぜか急に姿勢を正した。
右手を額へ持っていく。
ぴたり、と止まる動作。
妙に板についていた。
「なんだ、それは」
ルークは軽く笑った。
「これは敬礼って言って、軍関係者の挨拶です」
そう言って、また同じ動きをする。
やけに様になっている。
「軍隊はあるのか?」
「ありますよ。かなり厳しいらしいですね。国によっては徴兵制度もありますし」
そういえば、あいつの世界について、詳しく聞いたことはあまりない。
だが、この動きに立ち姿。
黒の軍服を着たときの空気。
妙に馴染みすぎている。
胸の奥がざわついた。
俺は平静を装いながら口を開く。
「それなら、軍関係者の振る舞いで行けるか?」
「それが無難ならそうしますが……映画の知識ですが」
「それがいい」
さっさと決める。
「口も、あまり聞かなくて済む」
ルークは、ほっとしたように笑う。
「それは楽ですね。映画でいいなら」
「まぁそうしてくれ」
すると、ルークは急に背筋を伸ばした。
「イエスサァー」
勢いよく敬礼する。
その瞬間、仕立て屋が固まった。
俺は危うく心臓が止まるところだった。
なんだ、その破壊力は!
本人は、まったく分かっていない。
分かっていたら、あんな顔で笑わない。
「ルーク」
「はい?」
「武闘派が似合う」
「そうですか? 我が身を守りますね」
「あぁ守る」
神子を自由にできると思っているやつらは腰を抜かすだろう。




