61 王室はまっぴらごめん
61 王室はまっぴらごめん
僕とフェルナンドは、騎士団と一緒に先行して王都へ戻っていた。
冒険者は手分けして、散らばった魔獣を始末している。
先行して帰ることに胸がざわついている。
フェルナンドが、静かだ。絶対なにかある。
馬の蹄の音だけが、やけに耳に残る。
しばらくして、フェルナンドがぽつりと言った。
「すまない、ルーク。食事会に出てくれ」
来た!
「いやですけど」
ぶつ切りで答えた。
だって絶対に王族と貴族だ。
面倒な人たちが、ずらっと並ぶやつだ。
「すまない」
フェルナンドは本当に申し訳なさそうに言う。
でも、そこで引き下がるつもりはなかった。
「いや、絶対に嫌です。僕、そういうの無理です」
「分かっている」
「分かっているなら、断ってください」
僕がそう言うと、フェルナンドは少しだけ困ったように息を吐いた。
そして、低い声で続ける。
「それ以上のことはない」
「……」
「だが、いくら普通でいたいと言っても、もう無理だと分かっているだろう」
胸が、少しだけ痛くなる。
分かっている。
本当は、ずっと前から、石に付与をして、剣に付与をして。
騎士団も、冒険者も、それで瘴気と戦っている。
目立ちたくないなんて言う方がおかしいよね。
「ルークは、もう人々を見捨てられないよな」
静かな声だった。
ただ、僕を見透かしている声だった。
僕は、視線を落とす。
否定できなかった。
静かな町で、薬草を採って、普通に暮らしたい。
でも、瘴気に飲まれた魔獣を見た。
怪我人を見た。
町の人たちの顔も見た。知ってる人だ。
知らないふりなんてできない。
「ずるいですよ」
小さく言うと、フェルナンドが苦く笑った気配がした。
「ああ。ずるいな」
否定しない。
そのままフェルナンドは続けた。
「俺の全力と、国の全力で守る」
その声は、驚くほど真っ直ぐだった。
「だから挨拶だけだ」
「……」
「こちらから何かを求めることはない」
フェルナンドは、僕を見る。
「挨拶するのは、あちらだ」
静かに、しかし確かに圧をはらんだ声で言った
「あちらの挨拶を受けて欲しい」
その言葉に、僕は思わず顔を上げた。
受ける、だけ。
僕から何かをするわけじゃない。
「絶対、変なの来ますよね」
「来るだろうな」
即答だった。
「嫌です……」
「分かる」
「絶対に囲まれます」
「囲むだけだ」
「話しかけられます」
「耳をす通りさせろ」
「怖い人いたら?」
「俺のほうが怖い」
真顔で言われて、僕は思わず吹き出した。
「それは、そうかもしれませんけど……」
「安心したか?」
「ちょっとだけ」
そう答えると、フェルナンドが小さく笑った。
でも次の瞬間、その顔がすっと凪ぐ。
「ただし」
「え?」
「お前に手を出そうとするやつは、全員こちらで止める」
低い声だった。
ぞくりとするくらい静かなのに、妙に迫力がある。
「お願いしますよ」
「安心しろ」
僕は小さくため息をつく。
王都の門が、遠くに見えてきていた。
ちらりと隣を見る。
フェルナンドは、まっすぐ前を見ていた。
その姿を見ていると、不思議と少しだけ落ち着く。
怖い。本当に怖い。そして面倒だ。
だから、「挨拶だけですよ」と念押しした。
「ああ」
フェルナンドは即座にうなずいた。
「神子らしく慈悲をもって受けてやってくれ」
吹き出してしまったよ。




