47 あるギルドマスター
47 あるギルドマスター
朝一番に届いた通達書を読んだとき、わたしはしばらく言葉を失った。
紙の上に並ぶ文字は簡潔だったが、その一行一行に込められた重みは、軽く受け流せるものではなかった。
フェルナンドの名で出された命令。
思わず、低く息を吐く。
「あのフェルナンド、か……」
知らない者はいない。あの男が動くとき、それは単なる対処ではない。事態はすでに、放置できる段階を越えているということだ。
通達書に目を戻す。
国内すべてのギルド、騎士団に対しての一斉指示。
瘴気の偵察。
討伐ではない。まず確認。
だが、これはただの注意喚起ではない。
「完全な動員だな」
思わず口に出る。
瘴気の報告は、ここ最近じわじわと増えていると連絡があるが、このあたりは、平和なもんだ。
黒い網のような瘴気。気配がなく、魔獣に取りつき、強化する。
今日、報告がないからと言って明日が安全とは言えない。
どうしたもんか?なんでこの時期にギルドマスターなんかになったんだ。
そのとき、扉が叩かれた。
「マスター、こんなものが届きました」
「入れ」
短く返すと、職員が箱を抱えて入ってくる。
机の上に置かれたそれを見て、眉をわずかにひそめた。
蓋が開けられる。
中身を見て、思わず目を細めた。
「この石か」
ただの石にしか見えない。
だが、通達にはこの石のことも書いてある。
「これ、石ですよね。なんでこんなものを……」
職員が首をひねる。
「そうだな」
短く返し、箱を見つめる。
だが、内心では別の考えが浮かんでいた。
石を投げて瘴気を消す。防ぐ。
馬鹿げている。
だが、実際にそうやって瘴気を浄化したと書いてある。
「いいだろう。使わせてみる」
そう決めて、顔を上げた。
今、町にいるパーティを確認する。
「赤い疾風を呼んでくれ」
職員が慌てて出て行く。
しばらくして、五人が揃って部屋に入ってきた。
「呼び出して悪いな」
そう言って、全員を見渡す。
「今朝、上から通達が来た。瘴気の偵察を行え、だ」
リーダーのポールが一歩前に出る。
「偵察……ですか?」
「ああ。討伐じゃない。確認だ」
机の書面を指で叩く。
「瘴気って、どんなものなんですか?」
弓を持ったキールが尋ねてくる。
「あくまで報告ベースだがな」
少し間を置いてから言う。
「黒い網のような形で、地面を這う」
「網……?」とミントが呟いた。
「霧に近いが、形がある。だが気配がない」
場の空気が一瞬で変わる。
「気配がないって、それ……」
「ああ。近づかれるまで分からん」
はっきりと言い切る。
「さらに魔獣に取りつくと強化される」
「強化って……」
「大きくなり、硬くなり、理性も飛ぶ。別物になると思え」
沈黙が落ちる。
「やばいですね」
「ああ、やばい」
迷いなくうなずく。
「この辺りでそんな魔獣がでたんですか?」
「いや、報告はまだだ」
マギーがほっと息を吐いた。
「だから言う。見つけても戦うな」
視線を鋭くする。
「確認して戻れ。それが最優先だ」
五人がうなずいた。
一拍置いて、箱を指さした。
「それと、これだ」
一人が箱を開ける。
「石ですね」
「そうだ。通達と一緒に送られてきた」
腕を組む。
「瘴気に接触された場合、それを使え」
「どう使うんです?」
「投げろ、としか書いていない」
「投げるだけ?」
「ああ。投げると瘴気の動きが止まるそうだ」
ゆっくりと、三本の指を立てる。
「任務は三つ」
「一つ。瘴気の有無を確認」
「二つ。発見次第、即撤退」
「三つ。接触された場合のみ、その石を使え」
最後に、はっきりと言い切る。
「生きて戻れ。それが最優先だ」
リーダーが力強くうなずく。
「了解しました」
「行け。準備して出発だ」
「どの方向へ?」
「西門の森だ。出来るだけ奥まで行ってみてくれ」
少し視線を細める。
「分かりました」
「無理はするな」
念を押す。
「異常を感じたら、即戻れ」
「はい」
一礼して、五人は部屋を出ていった。
扉が閉まる。
静かになった部屋で、わたしは再び通達書に目を落とした。
フェルナンドが、ここまで動く。
それは
「もう、始まっているということか」
小さくつぶやき、石の入った箱に視線を向ける。
ただの石。
だが、それが命を分けるかもしれない。
わたしは深く息を吐いた。
「面倒なことになったな」
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