42 高嶺の花
42 高嶺の花
わたしは、お礼にかこつけてルークに詰め寄っていた。
ルークは困ったように視線を落として、断ってきた。
でも、お礼を言いたいからと詰め寄った。
もう一歩、踏み込もうとした、そのときだった。
「ルーク。探したぞ」
低く、よく通る声が、空気を断ち切った。
振り返るより早く、威圧が背中を打った。
気づけば、見知らぬ男が立っていた。服も、立ち姿も、ただ者じゃない。ギルドの誰もが、一歩引いている。
「女、下がれ」
鋭い視線が、わたしを射抜いた。
「な、なんで?」
「聞こえなかったか」
言葉を遮るように、怒鳴りつけられる。
足が、勝手に一歩下がった。
反論なんて、できなかった。
その人は、もうわたしなんて見ていなかった。
まっすぐルークに歩み寄ると、その腕をつかんだ。
「ルーク、静かにしてもらおう」
「え、ちょっと……」
ルークの声が揺れる。でも、その手は振りほどけない。
「すぐに行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください。何が……」
「説明は後だ。今は動くな」
そのまま外へ、ルークを連れて行った。
ギルドの扉が開かれ、光が差し込む。
豪華な馬車が止まっていた。
こんなもの、見たことがない。装飾も、車体も、まるで別世界のものみたいで。
周りの冒険者たちも、誰一人として動けない。
あれに手を出したら、ただじゃ済まない。
そんな空気が、はっきりとあった。
「ルーク!」
気づいたときには、わたしは走り出していた。
馬車が動き出す。
石畳を打つ車輪の音が、やけに大きく響く。
息が苦しい。でも、止まれなかった。
そのとき、通りの先で、誰かが立ちふさがった。
馬に乗った男。
その姿を見た瞬間、空気が変わるのがわかった。
さっきの男とは違う。けれど、同じくらい……いや、それ以上に目を引く。
威厳があり、鋭い目をしている。
そして、なにより、ルークとは、まるで正反対のかっこよさだ。
馬車が止まる。
短いやり取りがあったのかもしれない。でも、わたしの耳には入らなかった。
ただ、心臓の音だけがうるさかった。
やがて、馬車の扉が開く。
中から、ルークが見えた。
「ルーク……!」
思わず、声が漏れる。
ルークが降りようとした、その瞬間だった。
あの男が、すっと手を伸ばした。
そして、迷いなく、ルークを抱き上げた。
「……え」
思わず、足が止まる。
そのまま地面に降ろすのかと思ったのに。
違った。
男は、そのままルークを抱きしめた。
ぎゅっと、逃がさないみたいに。
大事なものを、確かめるみたいに。
ルークも、抵抗しなかった。
むしろ、力を抜いて、その腕に身を預けているように見えた。
ルークだって背が高い。男らしく筋肉もある。だけど、あの人は大きくてルークを囲い込んでいる。
ああ、と思った。
そこで、全部わかった。
わたしがどれだけ近づこうとしても、越えられなかった距離。
優しいのに、どこか一線を引いていた理由。
その全部が、あの腕の中にあった。
二人の間には、入り込めない。
そう、はっきりと理解してしまった。
ふと、視線を感じた。
横を見ると、パン屋の前にメアリーが立っていた。
同じものを見た顔をしていた。
驚きと、納得と、それから少しの寂しさ。
目が合う。
言葉はなかったけど。なんとなく、わかった。
この子とは、友だちになれそうだと。
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