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「神子の余分」と言われましたが、中身は最強の神子でした ~入れ替わり召喚で捨てられた僕が、木の実と石で世界を浄化するまで~  作者: 朝山 みどり
第二章

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27 目がまわった

 27 目がまわった


 出発してすぐに、今日は薬草採りは無理だと悟った。


 いつもはこうじゃないよね。


「ルーク、今度はいつ休むの?」

「え、それって休みすぎじゃない?」

「休みの日って何してるんですかぁ?」


 次から次へと話しかけられて、返事が追いつかない。


 僕は……どう返せばいいのか、わからない。


 結局、薬草を探すこともほとんどできなかった。


 その時だった。


 空気が変わった。音が消えたみたいに、静かになる。


 嫌な感じ。


「静かにしろ。来るぞ」とハロルドが言う。


 その前に、僕はもう気づいていた。


「鎧熊……三頭」


 言葉にした瞬間、自分でも少しだけ違和感を覚える。


 見えていないのに、わかる。


 でも、間違いじゃない。


 木々の奥から、重たい気配が近づいてくる。


 姿が現れた瞬間、体が勝手に動いた。


 一頭目の前足を縛る。

 踏み込もうとした動きが止まる。


 二頭目がつまずく。

 転んだところを、そのまま拘束する。


 三頭目は止まった。

 でも、逃がさない。後ろ足を縛る。


 全部、見えているみたいに動ける。


「なんだ、あの正確さ」とローリーさんの声が聞こえた。


 その声に、少しだけ混ざっているものに気づく。


 怖がられている。


 戦闘の途中で、ミリーさんの魔法が少し逸れた。

 ローリーさんにかすめる。


 でも、問題ない。


 その程度なら、すぐに立て直せる。


 僕はそのまま拘束を続ける。


 止めない。


 止めたら、危ない。


「ソロでもやっていけるわけだ」とハロルドが言った。


 その言葉に、なぜか胸の奥が少し冷える。




 結局、鎧熊は全部は持ち帰れなかった。

 肉は置いていくことになる。


「仕方ないね。でも魔石だけでも十分だよ」

「今日は大当たりだよね」


 リズとミリーが楽しそうに話している。



 帰ってきて、そのまま断りきれずに食事にも付き合うことになり、今はこうしてテーブルに座っている。


 リズもミリーもかなり酔っている。

 僕はもう帰りたかったけど、二人が僕の腕をしっかり掴んで離さない。


 けれど、ハロルドが二人にエールを次々と飲ませているうちに、二人はそのまま眠ってしまった。


 ようやく、解放された。



 ……どうして、今日は一人で先に帰るのが嫌だと思ったんだろう。


 答えはすぐに浮かんだ。


 フェルナンドさんが、いないからだ。


 そう気づいた瞬間、胸がきゅっと縮んだ。


「行くよ」


「……」


「ルーク」


「あっ、ハロルド。ごめん、ぼっとしてた」


「疲れただろ。いろいろあったしな。送っていくよ」


「いや、二人は?」


「ローリーとデイブが送る。大丈夫だ」


 そう言われても、僕は首を振る。


「僕は一人で帰れるよ」


 と立ち上がる。でも、ハロルドは引かなかった。


「話したいことがある。送らせてくれ」


 そこまで言われては断れず、僕たちは並んで歩き出した。


 話の内容は、いつものパーティへの誘いだけでなかった。


 たまに二人で会わないか?といったものだった。


 僕はどちらも断った。


「そうか、そうだよな。でも言いたかったんだ」


「あぁ」


「でもこれからも、話はしてくれるよな」


「あぁそれはもちろんだ」


「ありがとな」


 肩を叩かれる。少しだけ痛かった。


「明日はどうする?」


「明日は……休む」


「そうか。ゆっくりしろよ」


「ハロルド、森がおかしい。あまり奥へは行かない方がいい」


「俺もそう思った」


 そう言って、ハロルドは「おやすみ」と手を振って去っていった。


 ◇◆◇◆◇


 翌日、僕は図書館で一日を過ごした。


 静かな場所なのに、落ち着かない。


 本をめくりながら、気づけばフェルナンドさんのことばかり考えている。


 ここで、よく話しかけてきたな。

「休憩しよう」と言って、お茶に誘ってくれたな。

 僕が黙っていても、気にせず隣に座ったな。

 困っていると、何も言わずに助けてくれたな。


 そして――


 出発前の、あの短い時間。


 どうして僕は、あんなに黙っていたんだろう。


 言えなかった言葉が、胸の中で渦を巻く。


「気をつけて」だけじゃ、全然足りなかった。


 もっと、もっと言いたいことがあったのに。


 彼がいないと、心が落ち着かない。

 彼がいないと、何をしても楽しくない。

 彼がいないと、世界が少しだけ寒い。


 僕は……寂しいのだろうか。


 ずっと一人でいるのは嫌じゃなかったはずだ。

 むしろ、そのほうが楽だったのに。


 夕日の中、僕は自分に言い聞かせるように歩いた。


「いいか、ルーク。笑え。せっかく色男なんだから」


 小さく呟く。


 胸の奥に空いた場所を、ごまかすみたいに。


 ゆっくりと、家へ向かった。


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

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