20 ルークの不思議 フェルナンド目線
20 ルークの不思議
俺は「邪魔されるのに慣れれば、邪魔だと思わなくなる」という妙な理論のもと、ルークに積極的に声をかけた。
「ルーク、俺も薬草図鑑を見て少し勉強した。これは……見惚れ草だな。おっと、角兎が来る。すぐに片付けるから採集を続けてくれ」と俺が言う。
ルークは困った顔をした。
だが、構わない。
嫌がられていることくらい、わかっている。
それでも、離すつもりはない。
「角兎を解体するから、採集しててくれ。今度これをご馳走するよ。うちに来てくれ」と俺は続ける。
ルークは聞こえないふりをしている。
だが、薬草を摘む手――魔力の流れが、わずかに乱れている。
(……やっぱりな)
嫌がっている。距離を取りたがっている。
だからこそ、逃がすわけにはいかない。
「移動します」とルークが小さく言って歩き出す。
逃げるような足取りだ。
俺はすぐに追いついた。
「このあたりには魔獣はいないようだ」と俺が言ってルークの目を見る。
ルークは視線をそらした。
逃がさない。
途中で角兎と深森猪を倒した。
深森猪はルークが解体した。
その手際の良さは異常だった。迷いがない。無駄がない。
経験だけでは説明がつかない。
(やっぱり、ただの薬草採りじゃない)
だから余計に、手放す理由がなくなる。
採集を終え、ルークが言う。
「フェルナンドさん、終わりました。帰りましょう」とルークが言う。
帰す気はない。
「飲み物でもどうだ」と俺は言い、果実水を差し出した。
ルークは受け取る。拒絶はしない。
そのわずかな隙が、たまらなく都合がいい。
「ありがとう、いただきます」とルークが言って一口飲む。
「おいしいですね」と笑う。
その笑顔を見た瞬間、
(――ああ、やっぱり欲しい)
この笑顔を、他のやつに向けさせたくない。
自分だけが見ていればいい。
そんな考えが、自然に浮かぶ。
翌日も護衛をした。
ルークは用が済むと、さっさと帰ろうとする。
当然だ。俺から離れたいのだから。
だが、そうはさせない。
「約束通り、肉をご馳走する」
「約束なんてしてませんよ」
「水臭いこと言うなよ。俺とルークの仲だろ」と俺は笑う。
「護衛と薬草採りの仲ですよ」とルークが言い返す。
線を引こうとしている。
なら、踏み越えるだけだ。
俺はルークの肩をつかみ、そのまま馬車に押し込んだ。
逃がさないように、しっかりと力を込める。
ルークはため息をつき、
「……ご馳走してくれるのは嬉しい。世話になる」と言う。
完全な拒絶はしない。
その甘さが、助かる。
「水臭い。飯を一緒に食うのは仲良しってことだ」と俺が言うと、ルークは小さく笑った。
――ほら、捕まえた。
馬車を降りたルークが言う。
「すごい家だな」とルークが言う。
「冒険者で儲けている」と俺は答える。
そのとき、気配を感じた。
だが、振り向かない。
ルークの靴とローブが、いつの間にかきれいになっていた。
(……やっぱりな)
隠している。能力も、素性も。
ますます手放せない。
食堂に案内すると、ルークは食卓を見て目を輝かせた。
「おぉ……結婚式みたいだ」
けっこんしき?
結婚式って……こんなにナイフとフォークを使うのか?
だがルークは戸惑うことなく、外側から正しい順番でナイフとフォークを使いこなしている。
この国の正式なマナーではないが、どこかの国の貴族のような所作だ。
驚きはそれだけではなかった。
胡椒のかかったソースを見て、
「あぁ、胡椒の香りがいいな。挽きたてってこと? すごいな」
知ってるお前がすごいんだよ。
わかるお前がすごいんだよ。
食後にコーヒーを出すと、
「おぉ、コーヒーは久しぶりだ。この辺はお茶だもんな」
コーヒーを知っている……?
この世界では珍しいはずだ。
(……やはり、何者なんだ?)
こいつは、ここにいる人間じゃない。
だからこそ――
俺が捕まえておくべきだ。
食後、泊まるように勧めた。
だがルークは断った。
当然だ。まだ警戒している。
それでもいい。
逃げ場は少しずつ潰していけばいい。
ルークは帰っていった。
その背中を見送りながら、俺は静かに思う。
――逃がさない。
理由なんていらない。
欲しいから、手元に置く。
それだけで十分だ。
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