18 ギルドマスターの頼み フェルナンド目線
18 ルークという冒険者
彼らより少し早くギルドに戻ってきた。
若いのに囲まれつつ、ルークたちを観察した。
精算を終えると、赤毛の男が周囲をけん制するように声を上げた。
「ルーク、やっぱり俺たち、いい組み合わせだよな」と赤毛の男が言う。
「そうだ、今日よくわかった!」と弓の男が声を張る。
「間違いない!」と剣の男が続く。
「やりやすかった」と盾の男も加わる。
男たちはルークを取り囲み、口々に言った。
ルークは苦笑して肩をすくめる。
「悪いが、やっぱりソロが気楽でいい」とルークが答える。
「そうか。しつこく誘って嫌われたくないが……時々は一緒に行こうぜ。明日はどうする?」と赤毛の男が聞く。
「明日は休みだ。図書館に行く」とルーク。
「そうか。ゆっくり休め」と赤毛の男。
「ありがとう。それじゃ」とルークは軽く手を上げ、そのままギルドを出ていった。
仲間だの絆だのと言いながら、いざとなれば切り捨てる連中を何度も見てきた。
だからこそ、ああして最初から踏み込みすぎないのは、ある意味で誠実だ。
ルークが去ったあと、弓の男が口を開く。
「お高く止まってるよなぁ」
「お高くないさ。話せばちゃんと返事が来る」
と赤毛の男が肩をすくめる。
「一緒にいてやりやすいのは確かだ」と盾の男がうなずく。
「確かに、やりやすい」と剣の男も言う。
赤毛の男が笑う。
「とりあえず飯に行こう。今日は少し贅沢できる」
四人は上機嫌でギルドを出ていった。
悪くない連中だ。
ああいう連中が増えれば、無駄死には減る。
だが現実は違う。
判断を誤るやつ、欲に負けるやつ、命の重さを軽く見るやつ。
そういう連中が、結局は周りを巻き込んで死ぬ。
その尻拭いをするのが、いつも決まった側だ。
俺が考えを巡らせていると、受付から声がかかる。
「フェルナンドさん、マスターがお呼びです」
やはり来たか。
呼ばれる前からわかっていた。
この状況で、放っておかれるはずがない。
案内されてマスター室に入ると、マスターは深刻な顔でこちらを見た。
「あぁフェルナンド、戻ってくれて助かる。予想より遅かったが……瘴気はやはり広がってきている」
遅かった、か。
わざわざ口にするあたり、焦りが滲んでいる。
「ハイタック王国の神子は?」
「二人現れたと聞いたが、はっきりしない。浄化を始めたらしいが……どうにも遅いようだ」
期待している顔じゃない。
あてにしていない顔だ。
賢明だな。
「魔獣はなんとか倒せるが、負担が大きい。神子に頼るのもいいが、ハイタック王国は……強気というか、扱いづらい国だからな」とマスター。
扱いづらい、で済ませているが、実態はもっと厄介だ。
あの手の国は、恩を売ることには貪欲だが、責任は取らない。
こちらが消耗したあとに、成果だけ持っていく。
そういう連中だ。
「確かに。自分たちでなんとかできるなら、それに越したことはない」
誰かに任せるということは、主導権を渡すということだ。
それだけは避けたい。
マスターは机の地図を指で叩く。
「冒険者を集めて訓練する案が出ている。国が冒険者を正式に雇う形だ」
ようやくそこまで来たか。
遅い。だが、悪くない。
「国で冒険者を……?」
「あぁ。騎士団も頑張っているが、魔獣相手は冒険者のほうが慣れている。連携して対処すれば被害も減るだろう、という意見だ。それにこの近くで瘴気が増えてきている」
そうか、迷ってる暇はないってことか。
統率が取れるか。
命令が通るか。
そして――誰が責任を取るのか。
そこが決まらない限り、この案はただの理想論だが、瘴気も魔獣も待ってくれない。
少し考えてから口を開く。
「冒険者を無駄に死なせないという意味では、悪くない」
マスターは静かにうなずいた。
「だが、まとめ役が必要だ。冒険者に尊敬され、国にも顔が利き、騎士団とも話ができる人間が」とマスター。
来ると思っていた言葉だ。
視線がまっすぐこちらに向けられる。
逃げ道は最初から用意されていない。
「お前が帰ってきて良かった。この町に戻ってきてくれて良かった」
そう言うしかない状況に追い込まれているのは、理解できる。
だが、それでも軽くは受け取れない。
背負うことになるのは、人の命だ。
一つでも判断を誤れば、簡単に崩れる。
それを知っていて、なお頼んでいる。
「神子が来てくれればいいが、頼む気はないようだ。あてにせず、我々で対処する」とマスターは言い、深く頭を下げた。
やめろ。
頭を下げられれば、断る選択肢が消える。
いや、最初からそんなものはないか。
ここで引けば、この町は崩れる。
その先に何が起きるかも、想像できる。
逃げる理由はいくらでもある。
だが、残る理由は一つで十分だ。
「あぁ。できるだけのことはする」と俺は答えた。
口にした瞬間、すべてが決まる。
「助かる」とマスター。
しばらく沈黙が流れる。
その沈黙は、確認だ。
互いに引き返さないという確認。
「動きやすいように、こちらも協力する」とマスター。
当然だ。それがなければ話にならない。
俺は短くうなずいた。
もう後戻りはない。
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