11 逃亡
11 逃亡
僕はその後、一人で町に出て冒険者ギルドに登録した。
王都の門を出てすぐの森の入口で、水の玉を出す練習をする。
十メートル先に出すことはできたが、遠くへ投げるのはまだ難しい。
ただ、自分のそばに出した水の玉なら、近くの木に向かって投げることができた。
(そうだ、石も……)
以前収納に入れた石を飛ばしてみる。
飛んだが、まったく的に当たらない。僕の運動神経を考えると当たり前のような気がする。
ほどほどのところで切り上げ、ペギーの店へ向かった。
フード付きのマントが欲しかったが、在庫がなかった。
入荷したら取っておくと約束してくれた。
◇◆◇◆◇
「いいですね、それを的に向かって投げてみましょう」と魔法士長が言った。
ミツルギは水の玉を投げた。
玉はひょろひょろと飛び、的の手前で落ちた。
僕は後ろから、ミツルギの水の玉に自分の魔力をそっと流し込んだ。
水の玉がわずかに固まり、飛距離が伸びる。
「素晴らしいですね。もう一度」と魔法士がうながす。
僕は再び魔力を流した。
水の玉は先ほどより速く的に向かい、かすめた。
何度か繰り返すうちに、速度を増した水の玉は的の真ん中に当たった。
「神子様、素晴らしいです。このまま魔力操作が熟達すると浄化ができるようになります。その前に清浄を試してみられますか?」と魔法士が言う。
王子も神官も、うなずいた。
「清浄とはご存じの通り、衣服や体をきれいにします。試してみられますか?」
ミツルギが手のひらを上に向けると、淡い青のモヤが現れた。
「もう一度やってみましょう」
穏やかな青い光がミツルギを包む。
周囲がどよめいた。
「神子様、さすがです」と魔法士長が声を震わせる。
「さすが神子だ。素晴らしい」と王子も言い、ミツルギの肩を抱いた。
ミツルギは満足げに微笑んだが、その視線が一瞬だけ僕に向いた。
その目は、ほんのわずかに鋭かった。
(……気づいた?)
胸がざわつく。
「今日はここまでに致しましょう」と魔法士長が言う。
続けて神官長が言った。
「神子様、神殿にお茶の用意がございます。帰ってからいただきましょう。王子殿下もご一緒に」
珍しく王子は素直にうなずき、ミツルギの腰を抱いて歩き出した。
(普段はごねるのに珍しいな)
そう思いながら、僕は後ろについていく。
神子の腰を抱いて歩く王子の後ろを、神官たちが戸惑いながらついていく。
僕は一番後ろで、自分の背後にホールを作り、石を吸い込みながら歩いた。
そのとき、前方から神官見習いが走ってきた。
王子への挨拶もそこそこに、彼らはブラウン神官へ口々に訴えた。
「神官さま、給金が無くなりました!」
「わたしたちの給金が……!」
「給金がないんです!」
「見たんです……こわくて……!」
王子は興味深げに眉を上げた。
「なにを見たんだ? そこの、お前。言ってみろ」と王子が言う。
指名された神官見習いは、震えながらも妙に自信のある声で言った。
「はい……わたしは、そこの恥知らずが忍び込むのを見ました。お部屋を探したらいいと思います」
(ああ、そういうことか)
神官長も神官の知らないと判断していいな。つまり、王宮の差し金ってことだな。
――ミツルギが、言わせた。
――そして僕の部屋に給金を隠させた。
ミツルギは王子の腕の中で、心配そうな顔を作っていた。
しかしその目は、僕を見たときだけ、冷たく光った。
そこに近衛隊と魔法士隊が駆けつけ、僕たちをまとめて取り囲んだ。
神官長も神官も王子も神子も一緒だよ。
「そこのオオヤナギが、王子殿下と神子様に危害を加える恐れがある! 気をつけろ!」と近衛が叫ぶ。
頭悪すぎだろ……王子と神子が離れてから囲んで欲しかったな。
僕は二人から距離を取るように動いた。だってそうしないと強制排除なんて武力行使されて怪我したらいやだもん。
僕の動きに合わせて近衛隊が動き、包囲の輪の中心に僕だけが残る。
よし、なんとかなったな。
剣を抜いた近衛隊が輪を縮めてくる。
僕はホールを出し、石を打ち出した。
相変わらず当たらないが、驚いた近衛兵が剣を取り落とした。
僕はその剣を拾い、水を雨粒にして周囲に降らせる。
彼らが目を気にしている間に、包囲を抜けた。
最短の道で門へ向かって走る。
剣は収納にしまった。
あちこち行かされたのに感謝だな。道を覚えられた
そのとき、声がかかった。
「色男、どうした」とケントが笑っている。
「あぁ、ケント。悪い、急ぐんだ」と僕は言う。
「外出か?」
「うん」
「残念だな。今日は朝から出入り禁止だ」とケントが答えた。
「なに?」
僕が焦ったのを見て、ケントの表情が変わる。
「どうした? なにかあるのか?」
そのとき、遠くから怒号が響いた。
「探せ!」
「どこに行った!?」
ケントは即座に判断した。
「色男、おまえ……こっちだ!」と叫び、走り出す。
振り返ってさらに言う。
「なにをしてる! ついてこい! お前は恩人だ!」
僕も走った。
長屋形式の建物が並ぶ場所でケントは足を止め、周囲を確認すると、一番端のドアを開けた。
「ついてこい」とケントが言う。
中に押し込まれ、ケントは続けた。
「俺はまだ仕事がある。ここで待て。帰ってから事情は聞くが……俺たちは恩知らずじゃない。頼っていい。じゃあな」
ケントは出て行った。
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