ニナクリーシャへの誘い 1
春の陽射しが柔らかく差し込む応接室で、ゼンイチは湯気の立つハーブティーに口をつけながら、目の前の男の言葉を反芻していた。
「──要するに、再開発が進んでいないんですね、ニナクリーシャ」
男はうなずいた。国家土地管理局副所長、ユーヴァン・ディルベルト。髪は整えられているものの、目の下には薄く隈が浮かび、いかにも仕事に追われているといった風貌だった。
「ええ。昔から防衛と物流の要だったのですが、ここ数年、施設の老朽化が進んでいることから、領主が再開発を望んでいるのですが……正直に申し上げて、現地は問題の巣窟です。土地利用の権利関係だけでなく、昔の防衛施設の遺跡が再開発の邪魔をしています。加えて、一部の古い貴族が既得権益を守るために住民を誘導して開発を妨害している。困ったことに、領主殿──国王陛下の弟君も、貴族たちとの折衝で手一杯のようで」
ゼンイチは軽くため息を吐いた。
この世界に来て三年。最初は戸惑うばかりだったが、今では冒険者ギルドや街の人々とも信頼を築き、ようやく穏やかな日々を過ごせるようになってきた頃だ。わざわざ火中の栗を拾うような真似は……したくなかった。
「……それで、なんで俺に?」
ユーヴァンは、言いにくそうに一呼吸おいてから続けた。
「これは……あくまで“相談”です。命令ではありません。ですが──陛下は、貴方の力を高く評価されています。これまでの功績は一朝一夕でできるものではないと」
ゼンイチは黙った。
評価はありがたい。だが、それに応える責任の重さも理解していた。
「もちろん、お引き受けいただけるなら、現地での生活支援や護衛は万全の体制を整えます。ティア殿にも随行をお願いできれば、文化的な摩擦もかなり軽減されるでしょうし」
ティアの名を聞いて、ゼンイチの眉がかすかに動いた。
「……少し、考える時間をもらえますか?」
ユーヴァンは微笑を浮かべてうなずいた。
「ええ、もちろん。ニナクリーシャの開発はすぐに進むものではありません。ただ、少しでも貴方の力をお借りできれば、それだけで現地の士気も変わる……そう信じています」
そう言って、彼は丁寧に立ち上がると、挨拶をして部屋を後にした。
静けさが戻った室内で、ゼンイチは再びハーブティーを口に運びながら、窓の外に目をやった。
──ニナクリーシャ。
古い城塞都市。国王の弟が治める、南東の要衝。
そして、問題だらけの土地。
(また、厄介な話が舞い込んできたな……)
だが、それでも心のどこかが、ざわついている。
かつて自分の知識で人々の役に立てたこと。
あの充実感と、街の人々の笑顔。
(……ティアにも相談しないとな)
カップを置き、ゼンイチはゆっくりと立ち上がった。
次章への導入です。頑張って続き書くので
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(人´ω`*) ★★★☆☆




