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事件はすでに終わっている…

新しい刀──氷竜刀を腰に携えたゼンイチは、どこか浮き足立ったような足取りでティアと街道を歩いていた。


「いやー、軽いしバランスも最高。さすがローガンって感じだな」


「よかったですね。あの人、寝食を忘れて鍛冶場にこもってましたから……正直、心配してましたよ」


「……確かに、痩せてたよな。でも、ああいう満足した顔を見ると、こっちも嬉しくなるよな」


ふたりは並んで、城下の一角にある定食屋へ向かっていた。エルフの職人が営むその店は、木の温もりあふれる内装と素朴な味で、地元民にも長く愛されている。


店の角が見えたあたりで、小走りで近づいてくる男がいた。──ガルドだ。


「ゼンイチ、ティア!」


呼びかけと同時に足を止めたガルドの表情には、明らかな緊張が浮かんでいた。


「何かありましたか、そんなに急いで?」


ティアが不安そうに尋ねると、ガルドは軽く息を整えて口を開いた。


「警備隊が、ゼンイチ襲撃事件の主犯を確保した」


「──!」


ゼンイチの目が大きく見開かれる。


「誰……でした?」


ティアの声は普段の柔らかさを失っていた。冷たい響きが、空気をピンと張りつめさせる。


「塗装組合のゴウザと、配管屋のドルガンって奴だ」


「ゴウザ……あの塗装業者の!?」


ゼンイチの声が思わず上ずる。脳裏によぎるのは、あの軽薄な態度と、露骨な敵意。


「やっぱり、逆恨みだったんですね……」


ティアがぽつりとつぶやいた。


「今は取り調べ中で詳細は不明だ。ただ、別件で不法移民絡みの事件を追っていたときに、殺人依頼の情報が出てきた。それがゼンイチを狙ったもので、そこから依頼主が割れたらしい」


ゼンイチは視線を落とし、小さく息を吐いた。


「なんとなく……嫌われてるなとは思ってたけど……まさか、命まで狙われるとはな……」


ティアは黙ってゼンイチの横顔を見つめていた。その瞳には、何かを思案する静かな光が宿っていた。


空気の重さを和らげるように、ゼンイチが口を開く。


「まあ……とりあえず、一段落ってことかな。これで少しは安心できるな」


だが、ガルドは静かに首を横に振った。


「いや。護衛任務は、引き続き続行する」


「え? なんでです?」


「理由は──プーの森の件だ。あの時、俺たちは狂獣化したグリーングリズリー──マッドグリズリーに襲われた」


「あの金色のデカいやつですよね……」


「ああ。狂獣化は自然界でも稀に起きるが、人為的に造り出す手段もある。プーの森は魔力が滞留しやすい環境だから、偶然だった可能性もゼロじゃない。だが──あのタイミングで、あのサイズのグリズリーが現れたのは極めて異常だ」


「つまり……誰かが、意図的に放った?」


「そう考えてる」


ガルドは重々しくうなずいた。


「俺たちの推論だが──あのマッドグリズリーは、あの場にいた四人の誰かを狙った“刺客”だった可能性がある。そして狙われる理由がある人間は──ギルドマスターのゲイルか、既得権益を荒らして回ってるゼンイチ、お前しかいない」


「そんなつもりはないんだけどな……」


ゼンイチは口をつぐみ、腰の刀にそっと手を添えた。

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