森の奥の会話
――森のさらに奥、月光すら届かぬ湿った静寂の中。
フードを被った二つの人影が、倒木の陰で佇んでいた。片方がぽつりと呟く。
「……まさか、マッドグリズリーで殺せないとはな」
その声には苛立ちよりも驚きが混じっていた。
「昨日の今日で雑な作戦立てるからじゃねぇの?」
もう一人が肩をすくめ、責めるように返す。だが相手は落ち着き払った声で言い返した。
「街中じゃ手が出しづらかった獲物が、自分から森に出てきたんだ。最高のタイミングだった。多少の損失は承知で“狂獣化の魔石”まで使ったんだがな……誤算だったよ」
「誤算、ねぇ。あの転移者はともかく、同伴してた連中――ギルドマスターは、おそらく今回の襲撃が偶然じゃないって気づいてるぜ。しばらくは静観しときな」
その忠告にも、もう一人はわずかに首を振る。
「ダメだ。ゼンイチはもう、死ななければならない。我が一族が再び繁栄を築くための礎になってもらう必要がある」
「……次の手は?」
「警戒は強まるだろうな。だが、それでも隙はある。気づかれぬよう、追い詰めればいい。好機は必ず訪れる」
会話の間、ひとりがマッドグリズリーの死体へと歩み寄り、その額に透明な魔石を当てた。
「……やはり、死体からじゃ回収効率が落ちるな」
魔石が、じわじわと薄紫に変色していく。変化が無くなったところで、それをポケットにしまい込む。
「……まだ、小型のモンスターであれば使えるな…」
フードの男たちは、何も言わず森の奥へと消えていった。残された地には、グリーングリズリーの死体と、次の不穏の匂いだけが漂っていた。
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