武器をつくろう ~冒険者ギルドでの聞き込み4~
気を取り直して、俺は持ってきた紙束の中から、一枚の大きな画用紙を取り出す。
「それで今日は……これを見てもらいたくて」
「……なんだこりゃ」
ゲイルが画用紙を覗き込む。
そこには、俺が昨夜ひたすら夢中で描き殴った、武器の素案があった。
イメージは“蒸気の力で敵を内部から破壊する刀”。ティアが見せてくれた風魔法のレイピアの蒸気版だ。荒削りなスケッチとともに、ところどころに注釈も添えてある。正直、厨二病と言われても仕方ないが……俺は本気でカッコいいと思った。
「……うわ、自分で見ても痛いなこれ」
俺が思わず顔をしかめると、ゲイルは逆に感心したように頷いた。
「お前はほんと、多彩だな。頭の中どうなってんだ……。この“蒸気”や“急激な沸騰”ってのは……もしかして、お前、魔法でお湯作れんのか?」
「まぁ、水魔法で水出して、それを加熱すれば」
ゲイルは目を丸くした。
「……マジかよ。こないだ嫁に“贅沢したい”ってせがまれて、仕方なく高っけぇ“お湯を造る魔石”買ったとこなのに。なんだよそれ……。お前、武器なんか作らんで、魔石作れ。それだけで一生食っていけるぞ」
「じゃあ、また近いうちにお湯の魔石もどき、作りますよ」
冗談めかして答えると、ゲイルは笑いながら注釈を読んでいく。
「“刀を刺した後に蒸気を勢いよく噴出させる。突沸――つまり、加熱された水が急激に気化して一気に爆発する現象――を利用して水蒸気爆発”……って、おいおい、発想がエグいな……」
「実現できるかはわかりませんけどね」
「いや、可能性はあるかもしれん。ただな……これ、水を取り込むところの構造をしっかり考えねぇと、爆発したときに、剣先からじゃなく蒸気が刀の柄から逆流して……お前、手元から爆発するぞ?」
その一言で、俺は自分が刀を構えているイメージを脳内再生してみる。
……たしかに、これ、そのまま構えると危険すぎる。手首が大火傷どころか、吹っ飛びかねない。
「……うわ、構造、要検討だな」
「だろうな。で、“突沸”ってなんだ?」
「あー、なんて言えばいいんだろ。水が一気に過熱されて、突然、爆発みたいに沸騰する現象っていうか」
「……蒸気の爆発か。まぁ、魔鋼以上の素材なら耐えられるだろう。」
ゲイルがあっさりとそう言ったのに、ちょっと驚く。
爆発って言ったのに、問題ないって即断できるあたり、さすがはギルドマスター。
ゲイルは次の紙をめくる。
「おい、まだあるのかよ……」
現れたのは、氷をまとったような、細身の剣のデザインだった。
「“切った相手を凍らせる”……って、お前、氷まで作れんのか……」
「まあ、ちょっと練習中ですけど」
ゲイルは呆れたようにため息をついたあと、真顔になる。
「……でもな、切ったところが凍ると、出血が止まってダメージ入らねぇぞ?」
「……あ、そっか。たしかに」
冷静に言われて納得してしまった。氷の剣、ロマン武器ではあるけど、実用性はイマイチかも。
「でも、氷が扱えるなら――金はかかるが、“何でも切れる剣”が作れるかもしれん」
ゲイルがにやりと笑う。その一言に、俺の目が一気に輝いた。
「それって、どういうことですか?」
「アイスドラゴンの牙だよ。北方大陸に生息してるモンスターなんだが、あいつの牙はな、どんな硬い表皮も切り裂くって言われてる。まぁ氷魔法とも抜群に相性がいいはずだ。多分だがな」
「アイスドラゴン……!」
本で見たことはある。北方大陸でも最強クラスのモンスター。噂には聞いていたが、武器の素材として使えるとは。
「……手に入りますか?」
俺の問いに、ゲイルが少し口を噤み、腕を組んでから答えた。
「希少素材だ。牙一本でも金貨三千枚はくだらねぇな」
その額に、少しだけ喉が鳴った。でも――俺は即答する。
「……お願いします。どうしても、手に入れたいんです」
ゲイルの目が一瞬だけ見開かれる。
「……マジかよ。お前、本気で言ってんのか」
ゲイルはもう一度、俺の顔をじっと見つめた。
冗談で言っているわけじゃないことを、目で確認するように。
俺は真っすぐうなずいた。
「使える素材があるなら、使いたいです。もちろん、信用してもらえるように、前金も出せますし、足りない分は分割でも」
「金の話じゃねぇよ」
ゲイルは苦笑する。
「そうじゃなくて、お前がそこまでやるなら……俺も本気出さねぇとなって話だ」
言いながら、ゲイルは画用紙の束を丁寧にまとめて、脇に置いた。
「アイスドラゴンの牙は、滅多に市場に出回らねぇ。でも、全くルートがないわけじゃない。北方の交易商会とか、冒険者の独自ルートを使えば、ワンチャンある」
「お願いします。どんなルートでも」
「分かった。ただし――これはお前の信用もかかってくる話だ。下手に途中で話を投げたり、資金が尽きたりすれば、俺の顔が潰れる」
「……了解です。その覚悟はあります」
しばらくの沈黙の後、ゲイルは満足そうにうなずいた。
「じゃあ、交渉を始めてみるか。とりあえず今日のところは、信頼できる商会に手紙を出してみる」
そう言って、カウンター奥にある扉を指さす。
「それと……こっち来い。せっかくだ、今のお前の剣の腕を職人に見せておきたい」
「おい!誰かローガン読んで来い!」
「わかりました!少々お待ちください。」
受付にいた女性がギルドを飛び出した。
「え?」
「試し切りってやつだよ。どんな武器を作るにしても、使う側の技量が分かんなきゃ、設計の段階で迷走する。実際の動きを見て調整した方が、完成度は上がるからな」
「……なるほど」
俺は頷きながら、ゲイルの後を追う。
ギルドの裏手には、訓練場のような広場が広がっていた。そこには、木製の人形やら、砂袋やらが並んでいて、まさに訓練真っ最中の冒険者たちが何人もいた。
その中でゲイルは声を張り上げる。
「おい、訓練の邪魔するぞ! ちょっとスペース開けてくれ!」
すぐに人々がざわつき、視線がこっちに集中する。
「ゲイルさん自ら……誰だ、あの男?」
「あの見た目は……まさか、異世界人ってやつか?」
「おい、あそこに置いてある武器から好きなの一本持ってきな」
周囲の冒険者たちの好奇と警戒が入り混じった視線を感じながら、ゲイルに促されて、立てかけてある武器から自分のイメージに合うサイズの刀を1本手に取った。1mってとこだろうか、日本刀に比べれば少し長いだろう。ただ、モンスターと戦うのであればもっと長くてもいいくらいだ。
武器を選び終わると入口からドワーフの男が入ってきた。
「おい、ゲイル!なんだってんだ!作業中に呼び出すなんて、くだらねぇ用だったらぶち切れッぞ!」
「ちょうど来たな。ゼンイチ紹介するぜ、こいつはギルド専属の武器職人のローガンだ。俺の知る限りじゃ一番の職人だ」
「よろしくお願いします。ゼンイチです。異世界から来ました。」
ローガンは品定めするような目でゼンイチを上から下まで見た。
「おめぇが依頼人か、じゃ、ちょっと見せてもらおうか。お前の“戦い方”ってやつを」
俺は深く息を吸って、構えた。
訓練用の模造刀以外、刀を持ったことは無い。でも、訓練で得た知識はある。イメージはある。
あとは、それを動きに乗せられるかどうかだ。
「――いきます!」
踏み込み、斬撃、回転、打突、人との戦闘を想定した連続の型。
ティアに教えてもらい、ガイルに殴られながら調整した動き。
ゼンイチなりの“戦いのかたち”が、訓練場に刻まれていく。
その様子を、ゲイルとローガンは腕を組みながらじっと見ていた。
途中、ローガンが口元に笑みを浮かべながら、ぽつりと呟いた。
「……面白ぇ」
ローガンは腕を組んだまま、最後まで黙ってゼンイチの動きを見届けた。そしてゼンイチが最後の一太刀を振り抜き、静かに刀を納めたところで、ふん、と鼻を鳴らす。
「……悪くねぇ。いや、初めて握った刀でこれだけ動けりゃ、上等だ」
率直な賛辞だったが、それが職人の口から出たことで、どこか嬉しさが込み上げてくる。だが、ローガンはすぐに渋い顔に戻った。
「――ただし。動きは悪くねぇが……斬るって感覚がまだ薄いな。多分、木刀でしか練習してねぇんだろ」
「……たしかに、模造刀で訓練する際は体の動きばかりで、実際に切るイメージができてなかったかもしれません。」
「あとは、魔法か…剣を振りながら、しれっと蒸気を出していたが、その魔法を武器と組み合わせてぇんだろ?」
その言葉に、ゼンイチは目を見開いた。
「そうなんです。蒸気と冷気を武器に使えないかと思って。」
「……本当に器用な奴なんだな…」
ローガンは呆れたようにうなずき、ゲイルに目をやった。
「おい、ゲイル。おめぇが持ってるのが武器の素案か?材料がそろったら俺に最優先で回せよ」
「もちろんだ。“アイスドラゴンの牙”が手に入ったらな」
「アイスドラゴンだとっ?!おめぇら、素材代だけでいくらするのか分かってんのかよ!」
「あぁ、ゼンイチはやる気らしい」
「まじかよ…まぁ素材が手に入ったら声かけな、伝説の武器を造ってやるぜ」
そう言い残して、ローガンは訓練場を後にした。
入れ替わるように、ゲイルがゼンイチの肩を軽く叩く。
「……いいモン見せてもらったぜ。これで俺も、胸張って商会に話を持ってける」
「ありがとうございます」
「ただな、ゼンイチ。これから先、お前が作るモンは、たぶん普通の武器じゃねぇ。“異世界人が作った”ってだけで注目もされるし、敵も増えるだろう」
「だからこその武器なんです。俺はまだまだこの世界でやりたいことがあるから」
ゲイルはしばし黙り込み、ふっと笑った。
「……気に入った。じゃあ今夜は、飲みに行くか?」
「え、ええっ!? いきなりですか?」
「お前がどんなヤツか、もうちょっと見ておきたいだけさ。ま、飲めないなら無理すんな」
「……じゃあ、ほどほどにお願いします」
そんな風に笑い合いながら、俺たちは訓練場を後にした。
アイスドラゴンの牙――それは、遠くて険しい目標かもしれない。でも、この世界で俺にしか作れない武器があるなら。
きっと、それは誰かの未来を変える一歩になる。
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