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おくりびと2

図書館までの道を、俺はほとんど全力疾走していた。走りながら、ずっと通帳の金額が脳裏に浮かんで離れない。


(……いやいや、金貨一万二千って……何に使うんだよ、俺!?)


 息を切らしながら王立図書館に飛び込み、ティアが仕事で使用している個室の扉を勢いよく開ける。


「ティアッ!」


 木製の扉が軽く軋む音と同時に、中にいたティアが驚いたようにこちらを見た。手にはいつもの資料の束。


「ゼンイチさん? ……どうしたんですか、そんなに慌てて」


「大事件……いや、個人的大事件……! とにかく、これ見て……!」


 俺は通帳を差し出す。ティアは一瞬きょとんとした後、落ち着いた手つきでそれを受け取り、中を開いた。


「……これは、預金記録ですね。ふむ……金貨一万二千……?」


 目を細めて見直したティアが、少し考えるそぶりをした後、通帳を机に置き、指をさしながら説明を始めた。


「……思っていたより、すごい金額になりましたね。えっと、おそらくですが、昨年十一月と今年三月分は《ヘドロソウジ》の魔石を売却した分だと思います。そして、十二月末と六月末が特許の使用料のはずです」


「いやいやいやいや! 魔石は結構作った気がするけど、金貨三千枚は多すぎでしょ!? 配管掃除の魔法を流通させるって言って、ティアが持ってった魔石って二十個くらいじゃなかったっけ!? それに、特許料も五千枚って……」


 俺は頭の中で計算するが、どうしてこんなに高額になるのか理解できなかった。


「……ゼンイチさん、落ち着いてください。まず、魔石の値段は想定内です。ゼンイチさんに作ってもらった魔石は、術式を記録したあと、工房で小さな魔石に加工しています。つまり、実際にはゼンイチさんが作った数の百倍は流通した可能性があります。材料費や加工費用を引いても、これくらいの額にはなるでしょう。……この売れ方だと、どこかの商会がまとめて買い占めているのかもしれませんね」


「……じゃあ、特許料は?」


「特許料の増え方は……正直、私も驚いています。これほど急激に伸びるとは思っていませんでした。潜在的な需要があったのでしょう。それに、この様子だと、王都だけでなく他の地域でも、配管の定期交換から定期洗浄にメンテナンス方法が切り替わっているのかもしれません」


「もしかして……俺が狙われたのって、これが原因じゃないかな。この規模で特許料が入るってことは、元々配管を作っていた業者からすれば……もう、既得権益に喧嘩を売るってレベルじゃなく、殲滅しにいってるようなもんだよな……」


「……恨みを買った可能性は高いですね。私も、ここまで急激に広がるとは思っていませんでした。申し訳ありません」


「いやいや、ティアは悪くないでしょ。俺ももうちょっと、既得権益に配慮するべきだったな。魔法が上手くいったからって、調子に乗ってたよ」


「実際の流通状況は調査しておきます。あと、襲撃犯については既得権益の関係者に絞って調査するよう指示しておきます」


「ありがとう。……なんか、驚きすぎてどっと疲れたよ」


 俺は頭を抱えて机に突っ伏す。そんな俺を見て、ティアがふっと小さく笑った。


「でも、素晴らしいことですよ。きちんと評価されて、報われたということです。……お金の使い道は、考えないといけませんけど」


「……だよなぁ。銀行の人にも、資産運用の案内されたし」


「当然でしょう。一年足らずで金貨一万枚を超える資産なんて、このまま数年たてば王侯貴族級の資産になるでしょう。今後は、信用面でも社会的な扱いが大きく変わると思います」


「お、おおぅ……」


 頭を抱えたままの俺に、ティアがそっと通帳を返してくれた。


「とりあえず、ゼンイチさんが言っていた魔法武器の材料費は、これで心配いりませんね。よほど希少な素材を選ばない限り、足りなくなることはないでしょう」


「……俺、ついにファンタジー世界で成金になっちゃったのか……。ねぇティア、半分いらない?」


 ティアが信じられないという表情で、こちらをじっと見つめてくる。


「どういう冗談ですか……?」


「いやいや、ティアには本当にお世話になってるし、そもそも俺一人でできた魔法じゃないでしょ」


「ダメです! これはゼンイチさんの成果ですから、きちんと受け取ってください。……ゼンイチさんは、欲がなさすぎです」


「ははは……まぁ、元の世界でも俺は普通のサラリーマンだったからさ。急に大金を手に入れると、落ち着かないんだよな。でもまぁ、魔法武器の開発が一段落したら、お金の運用についてもじっくり考えてみるよ」


 ティアは少し呆れたような顔で、それでもどこか楽しそうにうなずいた。


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