おくりびと
その日、昼食を終えた俺は、図書館の近くでティアと別れた後、ひとりで大通りを歩いていた。目指すのは、ヴェール銀行。魔法武器の試作を進めたいと思っていて、その材料費を考えると、自分の預金状況をちゃんと確認しておく必要があった。
「まぁ、大通りだし、昼間に襲われることなんてないだろ」
自分にそう言い聞かせつつ、歩く。銀行に来るのは、もう一年ぶりくらいだ。国からの給付金は現金手渡しで受け取っているし、そもそもこの世界って、生活に必要な範囲ではあまりお金を使わない。娯楽が少ないって言った方が正しいかもしれない。
ここしばらくは、マンションの大規模修繕工事や謎の襲撃事件で慌ただしく、特許料の確認なんてすっかり頭から抜けていた。
久しぶりに入った銀行は、やっぱり印象的だった。高い天井に、磨き上げられた白い石の床。差し込む自然光が静かに広がり、どこか美術館のような荘厳さと落ち着きを感じさせる。うん、やっぱりこの銀行、洗練されてるな。
受付のカウンターに向かうと、青い制服を着た女性の行員が微笑みながら対応してくれた。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「あ、預金の確認をしたくて。記帳、お願いできますか?」
「かしこまりました。通帳をお預かりいたします。本人確認のため、こちらの石板に手をお載せください」
女性が差し出した黒い石板は、中央に小さな魔石が埋め込まれていて、俺が手を置くとそれが柔らかく光り始めた……いや、なんか、前よりも光が強くないか?
「……あれ? これ、ちょっと強く光ってません?」
思わずつぶやくと、受付の女性が少し目を細めて俺の手元を見て、穏やかに頷いた。
「もしかして、最近《気力》を鍛えられましたか?」
「え? あ、まあ……多少は」
「でしたら納得です。照合用の魔石は、気力の強さにも反応しますので。気力の増加によって前より強く光っているのだと思います」
なるほど、たしかに気力って鍛えれば増えるって話だったし、こういうとこでも差が見えるんだな。
本人確認が済むと、女性は通帳を持って奥の部屋へと消えていった。俺は待合用の椅子に腰掛けながら、ぼんやりと思い返す。たしか、ティアが言ってたな。特許料の支払いは年に二回、12月末と6月末。登録が去年の10月だったから、去年の12月分と今年の6月分は入ってるはず。あとは、ティアに言われて《ヘドロソウジ》の魔石を一時期造ったくらいか……まあ、そこそこ入ってるといいけど。
しばらくして、受付の女性が戻ってきた。手には通帳。でも、その表情が……どこか動揺してる?
「お待たせいたしました。こちら、通帳になります」
「……ありがとうございます」
通帳を受け取り、その場で中を開くと――
「……は?」
思わず声が漏れた。目を疑う。記載されている金額を、三度見した。
昨年11月末、金貨3,000枚。12月末、1,000枚。今年3月、3,000枚。6月末、5,000枚。合計――金貨12,195枚。
……って、これ、ざっと見積もっても1億2千万円!? どういう計算になってるんだよ……!
脳内がフリーズしていると、受付の女性が静かに口を開いた。
「あの……お客様。もしよろしければ、資産の運用などにつきまして、ご案内させていただくことも可能ですが……お時間、いかがでしょうか?」
「……すみません、ちょっと、相談したい人がいて……また改めて伺ってもいいですか!?」
「かしこまりました。いつでもお待ちしております」
俺は通帳をしまうと、ほとんど反射的に頭を下げ、図書館に向かって走り出していた。
えっほ、えっほ、えっほ、えっほ、金持ちになったって伝えなきゃ♪
えっほ、えっほ、えっほ、えっほ、どうして良いか分からないって伝えなきゃ♪
えっほ、ティアさんに伝えなきゃ♪
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