暗殺計画
時は少し遡りー
王都・北区、石畳の裏通りにある場末の酒場《酔いどれ炉》。陽が落ちてしばらく経つ頃には、職を失った者や、今にも潰れそうな商売人たちが集まり、静かに、あるいは荒々しく酒をあおっている。
ゴウザもそのひとりだった。
塗装組合の長だったはずの男は、今やくたびれた革の上着に酒の染み。両肘をカウンターに突き、半ば空になったジョッキを恨めしそうに見つめていた。
「……ちくしょう……なんで俺が、こんな目に……」
「おう、兄ちゃんも仕事飛んだ口か?」
ガラガラ声とともに横から声をかけてきたのは、ドワーフの男だった。頬に古い火傷の痕があり、灰色の髭を三つ編みにしている。
「オレぁ、ドルガンってもんだ。王都で四代続く配管鋳造屋よ。……だった、って言った方が正確かもな」
ゴウザは相手を見ると、やけに手が分厚く、爪の間まで煤けているのに気づいた。
「……ゴウザ。塗装屋だ。いや、だった、か」
しばし、二人は黙って杯をあおる。
「おれのとこはよ……配管業者に売る用の鋳鉄管を少ない時でも月に千本は出荷してたんだ。それがよ、みるみる注文が減ってよ、半年前から……全てキャンセルだ」
ドルガンはジョッキを乱暴にカウンターに置いた。
「排水管ってのは、十四、五年で詰まるのが当たり前だったんだ。詰まったら交換、交換したら古管を溶かして、また新しく造った鋳鉄管を売る。そうやって回ってきたんだよ、うちの工房は…それがよ…」
「分かるぜ……うちも、いきなり悪い噂が立ってな。『ゴウザは詐欺師だ』だの、『技術が無いのに高い値段を吹っ掛ける』だの……ふざけんな、俺が何年、この仕事してきたと思ってんだ!」
ゴウザは空になったジョッキを机に叩きつけた。
「あそこで、ゼンイチさえいなけりゃ…」
ドルガンがゴウザを見た。血走った目で、低くつぶやいた。
「お前もゼンイチにやられた口か……クソが……殺っちまうか、あの異世界人」
ゴウザは言葉を失いかけた。だが、すぐに唇を噛み、酒を一気に飲み干した。
「……あぁ、殺っちまおう。あいつは疫病神だ……ほっといたら皆潰されちまうぜ……だが、どうする?」
「不法移民の連中を使えば足はつかねぇ。最近じゃ腕の立つ奴らも多い。冒険者登録できないせいで、日陰の仕事をやってるが、カネさえ出せば何でもするって話だ」
「それなら……うまくいくか…」
ドルガンが目を細める。
「悪いのはアイツだ……俺たちは、自分らの仕事と誇りのために、ケリをつけるだけだ。確実にな」
ゴウザがうなずいた。
「あぁ、ゼンイチのせいで、みんな混乱してる……だったら、責任とって消えてもらおうじゃねぇか」
ジョッキがカウンターに打ちつけられた鈍い音が、静まり返った店内に響いた。




