魔法の再確認2
ゼンイチが一通り魔法を披露し終えると、ティアは頷いて言った。
「どの魔法も応用の幅が広く、しかも希少性があります。今後はそれを生かす方向で訓練していくと良いと思います」
「希少性か……そういえば、戦闘用の魔法ってどんなのがあるんだ? 軍とか冒険者が使うやつ」
ゼンイチの問いに、ティアは「では少しお見せしましょうか」と微笑みながら、背中のリュックを下ろした。
「まず、軍隊でしか使用許可が下りない攻撃魔法……《火炎》ですね」
ティアはリュックの中から金属製の器具を取り出した。メリケンサックとライターを組み合わせたような形状をしたその器具は着火石と魔石の組み合わせで出来ており、その名もライターというらしい。そのままである。
ティアはライターに指を通して構え、近くの噴水の横にある滝の水景へと向ける。
「いきます」
呟いた次の瞬間、親指ではじいた着火石から出た火花が前方に走ったかと思ったら、轟音と共に炎が噴き出した。強烈な熱気が辺りに広がり、まるで火炎放射器のような炎が、滝の水景を叩きつけた。
「うわ……こんなのくらったら、防ぎようがないよな……」
ゼンイチが思わず息を呑んで呟く。
「《水球》を応用すれば、防御は可能ですよ。厚めの水の盾を作れば、ある程度の熱と衝撃は抑えられます」
ティアはそう言いながら、ライターを外し、再び立ち位置を変えた。
「次は《風切り》です」
ティアが右手を突き出して小声で魔法名を唱えると空気が鋭く震えた。その瞬間、前方の木の枝がスパッと音を立てて切り落とされた。
「これは風魔法の応用で、空間に一瞬だけ真空を作り出して、遠くの敵を斬る魔法ですね。我々エルフは風を感じる力が鋭いらしく、風系魔法には特に長けています。衝撃波を発生させたり、《火炎》でやったように、特定の可燃性ガスを操作したりもできますよ」
「もう、ティア無敵じゃん……」
ティアは少し微笑みながら続けた。
「上には上がいます。ちなみに、国王陛下が本気を出せば、半径五十メートルの真空領域を一瞬で作り出すことができるとか……火魔法でも風魔法でも、まず太刀打ちできないので逆らってはいけませんよ?」
その冗談めいた口調に、ゼンイチは苦笑いしつつも震えた。
「……想像しただけでゾッとするな……」
「次は《水砲》です。これは水に圧力を加えて、一方向に強い水流を生み出す魔法ですね」
ティアが手を前に出すと、空中に水球が浮かび上がり、その瞬間、轟音と共に前方へ猛烈な水流が放たれた。水は一直線に地面を抉るように進み、噴水の石の縁を激しく叩いて跳ね返った。
「うわっ、マンションの外壁洗浄より全然強い……」
ゼンイチが思わずつぶやく。まるで消防士の高圧放水のようだ。隣を見ると、ティアは少し肩で息をしていた。
「大丈夫? さっきのって……」
「はい。《水砲》は魔力消費が大きいんです。でも、これくらいなら大丈夫です」
ティアは笑顔で答えると、再びリュックを開き、中からいくつかの武器を取り出し始めた。
「さて、こちらが攻撃用の魔法武器になります」
ティアが手にしたのは、小ぶりなレイピアだった。柄の部分には小さな魔石が埋め込まれている。
「この剣は中心が空洞になっていて、刺突と同時に魔力をグリップから流すことで、先端から圧縮空気が噴出します。大型モンスターの内部破壊を目的とした武器で、非常に危険です」
さらにティアは、風魔法で加速する細身の剣、振ると同時に真空を生み出して斬撃の射程を伸ばす特殊な剣なども取り出し、一つひとつ丁寧に説明していく。
「これは空気銃です。こちらの世界では火薬が存在しないので、風魔法で弾を撃ち出す仕組みです。軍用で、民間所持は禁止ですが……闇市場では出回っているという噂もあります。気をつけてくださいね」
ゼンイチは次々と出てくる武器の数々に目を見張った。魔法とテクノロジーの中間のような世界。現代日本とはまるで違う危険と知恵が共存している。
(でも、俺の魔法で、何ができるんだろう)
ゼンイチは自然と自問していた。今までの経験から、風魔法の才能は自分にはないと感じていた。水分は蒸気になってもそれを「感じる」ことはできるのに、空気の動きは無風の中で目を閉じているような感覚で、どれほど意識を集中しても何も感じ取れなかった。ティアのように空気の流れや気体の性質はまったく分からない。
思案に沈むゼンイチに、ティアがふと呟いた。
「たとえばですが……戦闘中に大量の熱湯を浴びせられたら、防げる手段って限られると思いませんか?」
「お湯? お湯魔法なんて、ゲームでも聞いたことないけど……」
ゼンイチは眉をひそめた。
「ですが、量と温度によっては盾でも鎧でも防ぐのは難しそうですし、質量があるので風魔法でも止めにくいと思いますよ。唯一の対抗手段は《水球》くらいでしょうか。でも、ゼンイチさんは魔力がかなり多いようですから、水の精霊ウンディーネの末裔でもない限り、打ち合いでも負けないんじゃないでしょうか」
ティアの言葉に、ゼンイチはしばらく黙って考え込んだ。
「……お湯、かぁ。なんかカッコよくはないけど……」
だが、実用性はある。確かに、戦場で「効く」かどうかが重要なのだ。ゼンイチは心の中で決意した。
「……OK、ティアを信じてやってみるよ」
(で……こっそりダイヤモンドダストの練習もするか………やっぱりカッコよさも大事だし…)
彼は新しい訓練の方向性を見つけ、密かに笑みを浮かべた。




