理事会発足
マンションの運営に関する話になりましたが・・・果たして誰が興味を持ってくれるのか・・・
ミリアとの対話から数日後、ゼンイチの提案を受けて、ミリアはさっそく行動に移していた。彼女が長年の信頼関係を活かして声をかけた二人――几帳面な若いエルフ職人のリネアと、腰の低い獣人の中年男性フォルム――が、最初の理事候補として手を挙げてくれたのだ。
ゼンイチ自身も、「実務経験者として手本を示すべきだろう」とミリアに押される形で理事候補となり、後日、全住民を集めた総会が開催された。
マンションの吹き抜け部分にある広場に集まった住民たちの前で、ミリアが理事会の発足を宣言し、候補者たちが紹介されると、異論はほとんど出なかった。むしろ、待ってましたと言わんばかりの表情も多く、無事に承認が得られた。
こうして、このマンション初の理事会が結成された。
初回の理事会は、集会室で開かれた。円卓を囲み、古い書類や帳簿を広げながら、住民から集めた管理費や修繕費の現状を一つひとつ確認していく。
「……予想していたより、資金が残ってますね」
ゼンイチがそう漏らすと、ミリアはふふんと鼻を鳴らした。
「当然じゃよ。長年やっておると、節約も、回収も上手くなるものさ。……それに、この建物は32の住戸のうち、半数を国が所有しておる」
「国が……ですか?」
「ああ。このマンションは国が主導して造られた後、市民に売却されたんじゃが、当時は急激に景気が悪くなった時期でな、半数以上が売れ残ったんじゃ。なので、国が買い取って宿舎としたのじゃ。だから、わしは少しだけ――ほんの少しだけじゃよ?――国からは多めに徴収しておったのさ」
ミリアは口元を緩め、不敵な笑みを浮かべた。
「その“ほんの少し”ってのが、どれくらいなのか気になりますねぇ……」と、フォルムが低い声でくすりと笑った。
「でも、今まではうまくいってたんですよね。だったら、いきなり変える必要もないんじゃ……」と、やや控えめにリネアが言う。
ゼンイチは思わず苦笑しながら言葉を継いだ。
「……まぁ、結果的に積み立てがしっかりしてるのは助かりますけど。とはいえ、今後は“国から多く取ってる”なんて話が広まったら問題になります。制度が変わる以上、公平性と透明性は避けて通れません」
ミリアの笑みがすうっと引いて、表情が少し曇る。
「……そうじゃな。昔からのやり方が、通じなくなるのは、やはり寂しいものよ」
「でも、理事会がちゃんとできたことで、そういう透明性ってやつも示せるようになるんですよね?」と、フォルムがゼンイチに目を向ける。
「ええ、そうです」とゼンイチはうなずいた。「ただ、国に“協力金”という形で負担してもらうのは、十分ありだと思います。住民じゃない以上、理事会のメンバーになることも無いわけですし、その分、運営や管理の苦労も負わない。なら、金銭で協力を得るのは、合理的です」
その言葉に、ミリアの顔がぱあっと明るくなった。
「なるほど!それならば名目もはっきりしておる。まこと、そなたも悪じゃのう」
「協力金か……それなら俺も納得できそうだな」とフォルムが腕を組みながら頷く。
ゼンイチは微笑を返しつつ、手元の帳簿に目を戻した。
「あと、以前言ってた配管交換の費用……あれ、結局不要になりましたよね。実地試験で詰まりも解消されてるので」
「ああ。おぬしのおかげじゃ。ほんに助かったよ。その分、資金には余裕がある」
そう言ったミリアの顔が、今度は少しだけ引き締まる。
「……だが、問題はまだある。この建物も前回の塗装工事から二十年近い。外壁も、塗装が剥げてきておる。見た目だけの話ではない。雨風に晒されて傷みが進めば、構造にも影響が出る」
「……塗装、ですか」
「うむ。資金があるうちに、やっておかねばな。早めに業者を当たって、見積もりを取るとしようか」
「分かりました。もし、業者と話しをするなら俺も参加させてもらえませんか。この世界の工事業者とも話をしてみたかったので」
「もちろんじゃ。前に塗装してくれた業者に声掛けしておくわい」
「こうして見ると、やることは山積みですね」とフォルムが苦笑交じりに言うと、リネアも頷いた。
「でも、なんだか……楽しみかもしれません。住んでる場所を自分たちで良くしていけるって、ちょっと誇らしい感じがします」
そんな彼女の言葉に、理事たちの顔に自然と笑みが広がっていった。
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