勲章授与
深紅の絨毯が敷かれた王城の大広間。左右には列席者たちが整然と立ち並び、その中央に、ゼンイチ・タカタの姿があった。どこか場違いな気がしてならず、落ち着かない手つきで礼装の袖を直す。
だが視線は否応なく集まってくる。
「……あれが“ヘドロソウジ”の開発者か?」
「異世界人らしからぬ、落ち着いた男だな」
「魔法も使えるらしいぞ。水魔法が得意だとか――」
小声のささやきがあちこちで交わされる。耳に入ってはきたが、ゼンイチは顔に出さず、ひたすら正面を見据えていた。
やがて、王座の奥から一人の近衛が進み出て、虹色の光を放つ勲章を盆に乗せて運んできた。中央には大粒の魔法石。光の加減で七色に輝き、観客席からもどよめきが起こる。
「ゼンイチ・タカタ。貴殿のこの国への貢献、まことに目覚ましいものである。王の名において、ここに勲章を授与する」
王位に座したままそう宣言したのは、あのルシアン・ヴェールだった。冷たい目で見下ろされるかと思っていたゼンイチは、その穏やかな声色にかえって困惑する。
「……ありがたく、頂戴いたします」
ゼンイチはぎこちなく頭を下げ、勲章を受け取った。虹色の魔法石が手の中できらめくたび、実感が胸に満ちていく。――この世界で、自分は何かを成したのだ、と。
――式典の後、王宮の奥にある応接室。重厚な扉が閉ざされると同時に、場の空気が一変する。
同席しているのは、国王ルシアン、宰相アレス・バンド、そして案内役のティア・リスフェルト。
「ゼンイチ・タカタよ。改めて、貴殿の成果に感謝する。魔法、法整備、そして民との信頼構築。どれも並の者には出来ぬ業だ」
そう語るルシアンの表情は柔らかく、あの謁見のときの冷淡さは影も形もなかった。
「……あの、正直、ちょっと驚いてます。前は随分、距離を感じたので」
「うむ、それについては謝罪しよう。実のところ、ここ二百年ほどの転移者は、あまりに酷かったのだ」
ルシアンは重く語る。力を過信し、無謀に旅立っては死ぬ者。楽園を夢見て、現実から逃げた者。努力もせずに力を欲しがるばかりの、怠惰な来訪者たち。
「私は、貴殿をも同類かと思っていた。だが……違ったな。私の見る目が浅かった」
ゼンイチは少し居心地悪そうに頭をかいた。
「まあ……今も全然、強いわけじゃないですし。魔法もまだ勉強中です。将来、旅に出たいとは思ってますけど、それも先の話です」
「旅に出たい、か……」
ルシアンの声に、どこか寂しげな響きが混じった。ゼンイチはすぐに付け加える。
「この国に来て、たくさんの人に助けてもらいましたし、ティアにも世話になりっぱなしです。恩返しは、出来る範囲でちゃんとしたいと思ってます」
その言葉に、宰相がゆっくりと頷く。
「思慮深い男だ。最近の転移者には珍しい」
ルシアンも、再び微笑んだ。
「ならば、これからもこの国の力となってくれ。無理強いはせぬ。だが、困ったことがあれば、王を頼るがよい」
「……はい。ありがとうございます、陛下」
ゼンイチは素直に頭を下げた。王が、自分のことを“使える道具”として見ていたことには気づいていたが――今の言葉に、真心を感じたのもまた事実だった。
応接室を出て、ティアと共に城の廊下を歩くゼンイチ。その足取りは、思いのほか軽い。
「……あの王様、思ってたより、ちゃんとしてるじゃないか」
つぶやくゼンイチに、ティアが小さく笑った。
「ふふ。陛下は、信頼するまで時間がかかるだけです。でも、信頼した相手には、本当に誠実ですよ」
「そういうの、ちょっと嬉しいな」
虹色に光る勲章が、ゼンイチの胸元で静かに揺れていた。




