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国王の独り言 ≪国王目線≫

ゼンイチ・タカタ……異世界より来たりし者。


 名前と顔が一致するようになったのは、そう時間はかからなかった。最初は、定期的に現れる者「転移者」のひとりとしか思っていなかった。だが――


「……“ヘドロソウジ”、だと?」


 報告書の一節に目を走らせながら、ルシアン・ヴェールはわずかに眉をひそめた。魔法名にしては無粋で俗っぽい。だがその効果と運用方法を読み進めるうちに、やがてその眉は思索の皺へと変わる。


 魔力導電性パッキンによる配管清掃――既存の生活魔法を応用し、住環境の改善に現実的な成果を挙げた者など、ここ百年では見た記憶がない。しかも、それは単なる思いつきや偶然ではなく、理論と実践をもって体系化されている。報告書には、ゼンイチがその知見を住民と共有し、管理者に指導し、試験運用まで行った経緯が記されていた。


 そして今度は、集合住宅の運営に関する特別法の草案作成。区分所有という概念と、住民による合意形成を前提とした管理規約の導入。……それは、まるで国家運営の縮図だ。数百年ぶりの、社会構造への介入。


 ルシアンは視線を窓の外へと移した。白い光を帯びた朝日が王都の塔のひとつを照らしている。


(……これほどの成果を、わずか一年足らずでか)


 脳裏をかすめるのは、直近の転移者たちのことだった。


十年前に転移してきたコスモ・スエナリ

奴は「異世界といえばスローライフ。楽園を求めて旅に出る」と言って、国を後にした。だが、隣国で盗賊に襲われて殺されてしまった。


三十年ほど前に現れた転移者の男は、謁見するや否や、「俺にはチートがある」と豪語し、ろくに我が国の仕組みも学ばずに旅立っていった。数か月後、冒険者の墓地にその名が刻まれたと報告が入ったとき、ルシアンは何の感慨も抱かなかった。


八十年前に来た女は最初こそ、スライムの調教に執着していたが、すぐに諦めてからは、死ぬまでだらしない生活をしていた。


最後に我が国に貢献したのは、二百年前の転移者――タング・マス。

 火魔法を安定して起動できる魔導具の開発者。着火石と魔石を組み合わせたその装置は、今や世界中で認知されてる。他国に渡ると危険と判断し、我が軍でのみ運用させてはいるが…

 あれほど、功績を残した者でさえ、最後まで執念のように追い求めた「魔力による土壁の生成」には至らなかった。



ゼンイチ・タカタはどうだ。

 魔王を倒すと言い出すわけでもなく、それでいて世界に確かな“修復”をもたらしている。

 都市構造、住環境、そして法――目に見えぬ仕組みに手を加え、確かに世界を動かしているのだ。


「……最近の転移者にしては、有能だな」


 ルシアンは卓上の報告書にそっと手を置き、窓の外を見た。


「取り込んでおくか……」


 誰に聞かせるでもなくそう呟くと、側近を呼びつけた。


「ゼンイチ・タカタに伝えよ。王の名において、その功績を称え、勲章を授与することとする。……あくまで“城に呼び寄せる名目”だ。わかるな?」


 影のように現れた老執事が深く頭を垂れ、「御意」とだけ答えて消える。


 ルシアン・ヴェールは目を閉じ、ほんの一瞬、深く息を吐いた。


(異世界の来訪者よ。貴様は果たして、“王の駒”として価値を持つのか――)


 その答えは、やがて自ずと明らかになる。

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