日本の税金は高すぎる!
その後、俺は何度か、新しく立ち上がった法律の検討委員会に招かれることになった。出席者は法務官僚のほか、都市設計の担当者、法学者など様々だったが、異世界からの視点を持つ俺の意見は、意外にも真剣に受け止められた。
中でも議論が白熱したのが、「所有」と「借地」の概念の違いについてだった。
この国では、すべての土地は国王のものであり、民間の個人や団体が土地を「所有する」という概念は存在しない。その代わりに、人々は土地を「借りる権利」を国から買い受け、その権利を自由に売買して生活しているらしい。面白いのは、その借地料が年初に土地評価額の1%ほどと非常に安価で、しかも国家事業など特別な事情がない限り、権利は基本的に永久に保証されるという点だった。
「……借地なのに永久権か。しかも、1%だけ払えばいいって……」
ある会議の帰り道、俺はついティアの前でぼそりと呟いた。
「日本は“所有してる”って言いながら、持ってるだけで毎年税金がかかる。借りてるこっちの方が、ずっと所有に近い気がするよな……」
ティアは首を傾げて、「なんだか不思議な話ですね」と小さく笑ったが、確かにこの違いには文化的な深みがある。法の仕組みとは、国の成り立ちや価値観が反映されるものだと、改めて感じさせられた。
とはいえ、それ以外の点――たとえば、集合住宅の共用部の管理や修繕積立の仕組み、住民の合議による意思決定制度など――については、考え方をうまく噛み合わせれば、この国の制度とも十分にすり合わせが可能だった。
そうして数ヶ月が過ぎたある日、大通りの掲示板に新たな法律制定の告知が貼り出された。
『集合住宅における共有財産の管理および住民による合議制度に関する特別法、施行は来年初頭より』
簡潔な見出しの下には、マンションごとに代表者を定め、最寄りの役所で説明を受け、施行までに必要な届け出を行うよう指示が書かれていた。
通りすがりに立ち止まって読み上げる人々の声が、ざわざわと交差する。内容を理解している者は少ないかもしれないが、それでも街の一角に新しい風が吹いたような空気があった。
もちろん、古い建物や地域ほど、この法の浸透には時間がかかるだろう。慣習や既得権益、情報格差――どれも一朝一夕には変わらない。
けれど、それでもいい。
一歩ずつでも、誰かが仕組みを作っていかなければ、何も変わらないのだ。
俺の知らないこの国の街角に、いつか当たり前のように掲げられた掲示板の一枚に、俺の言葉が反映された制度が残っていくなら――それはきっと、俺がこの世界に来た意味のひとつになるのかもしれない。
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