06.デスマーチは向こうからやってくる
「リリアさんのことは大体わかったよ。そしてつかぬことをきくけど...リリアさんはきっと無一文だよね?」
若い女性が南池袋公園の門の前にただただ座っていたのである。
お金があればビジネスホテルにネットカフェ、ファミレスやカラオケなどどんな方法でも夜をあかせるのが東京だ。
その選択肢がとれないということは、さしずめ無一文であろう。
「...はい。」
リリアは俯いてそう答えた。
「だからこの山音のところにつれてきたの。お前のところの木賃アパートの山音荘、一部屋空いてるだろ?ちょっと置いてやってくれないか?」
「そうねぇ、このまま池袋をほっつき歩いて大変なことになってもね...リリアさん。木賃アパートって聞いたことある?」
「木賃...??」
「ここからすぐそこにね、僕が管理してるアパートがある。山音荘というんだけど、トイレ共同風呂なし。部屋は6畳間。いわゆる木賃アパート、単身者向けに貸してる部屋ってわけ。」
「...なるほど、そのような部屋がここにはあるのですね。」
木賃アパートとは高度経済成長の際、都市部に大量に増えた人口を支えた木造アパートである。
とりわけ、東京や大阪に多く見られたものだった。
つまりはリリアの反応を見る限り、茨城にはあまり馴染みのないものだろう、と山音は考えていた。
リリアはまだよくわからないこの世界の状況を、せめてぼんやりとした輪郭だけでも分かろう、山音と星那の言葉の端々から状況を把握しようと必死だった。
「そこ、1部屋あいてるから取り合えずそこに泊まりなよ。山音荘はクリエイターが多いから、リリアさんも住みやすいと思うよ。」
「でもそこはお金を払って住んでいるんですよね!!?それなら私も...」
「君、無一文でしょ?」
リリアは無償で住まわせてもらうなんてとんでもないと、払うものは払うと言おうとしたが、星那に割って入られた。
「まぁ、(茨城から)東京に出てきたってことは東京で仕事も始めるってことだよね?そしたらお給料が入ったら家賃を払ってもらう。それでいいかな?」
山音は笑顔で話をまとめる。
星那もそれがいいんじゃないかと、うなづいていた。
しかし、リリアには働く意思はあるが、この世界の仕事の見つけ方がわからない。
「もちろん、お金を得たらすぐにお支払いします!それまでここに置いてください。早速仕事を探したいのですが、この街のギルドはどこにありますか?」
「ギル...ド?」
山音は突然の言葉にきょとんとしてしまった。
ギルドなんてゲームでしか聞いたことのない言葉だ。
「えっと...それは仕事を得る場所ということかな?」
星那はリリア語を現代語訳しようと、踏み込んで聞いてみる。
「はい。お仕事の斡旋をしてくれるところで。色々な職業の方が集まるところです。」
(ハローワークだ)
星那と山音は同時に同じことを思っていた。
ギルドと聞くとかっこいいが、これはきっとハローワークのことだ。
そんなことを思っていると、二人の後ろから威勢のいい声が聞こえた。
「あれ、君は技術書典にいた子だよね?仕事探してるの?職種は?プログラム書ける?書ける言語は?いつからこれる?」
怒涛の質問に驚いて振り向くと、そこには山音荘の住人がいた。
風呂なしアパートの山音荘は、管理人住居兼コミュニティースペースになっているかしのき荘に風呂を借りに来るのだ。
手には風呂セット。今帰ってきたばかりなのか、笑顔だけど隠しきれないつかれきった顔。
「塩野谷くん、今日も仕事?」
「あっはっは!デスマ炎上案件でまじ大変で。書典をちょこーっとだけ覗いたあとは出社してたんですよー」
塩野谷と呼ばれた男はどうやらエンジニアのようだ。
それも大変な案件にぶっこまれた状態で、今日も働いていた様子である。
多分、風呂も3日ぶりやそこらと見える。
「で、そこの美人さんの名前はー...」
「リリア・サクラトパーズです!」
「リリアちゃんね。その名前HNかな?まぁいいや。でさ、プログラム書ける?」
この男がいうプログラムというのは技術書典で見かけた言語を練成してものを作り上げていくもののようだ。
リリアは技術書典の立ち読みコーナーで見本誌を技術書を全て読んでいた。
プログラムは書いたことは考え方は魔法に似てると思ったのだ。
「多分書けます!」
とにかく仕事を得ないと、と考えていたリリアには渡りに船だった。
その船の楽団はデスマーチを奏でているとも知らずに...




