03.遥かなる大都会の中で
リリアが暮らしていたのはソムスロリア王国にある小さな町。人口は2万人にも満たない。
町のはずれにある森の中で魔女として生活していた。
現代日本でいえば、まさにスローライフの生活。小鳥のさえずりで目を覚まし、暖かい日差しを浴びながら朝ごはんを食べる。
森でつんできた薬草で薬を作ったり、町の人々を魔法で癒したり。
時には一日中書庫にこもり、魔術書を読みふけったり。魔女狩りにあうまでは小さな町の静かな森で穏やかに生活していた。
そんなリリアが山の手3大副都心の一つである、池袋の町に放り出されたのだ。
池袋の集客数は1日で約100万人とも言われ、リリアが暮らしていた町の約50倍相当である。
人口密度が違うので、体感としては100倍も200倍も人がいるように感じるだろう。
エレベーターを1Fで降ろされたリリアは、あれよあれよと人の流れに押し流された。
どこに向かっているかなんてリリアにもわからない。とにかくなるようになれと流されるままに地下道を進み、エスカレーターで登った先はサンシャイン通り。
魔女人生240年、リリアは日常の中でこんなにも人を見たことがあったであろうか。
「何なのよ、ここ!!」
日が暮れたサンシャイン通りの電飾は田舎暮らしのリリアには眩しすぎた。行き交う人々のしゃべり声の多さは、まるで不協和音だ。重なり合う音の多さに耳を塞ぎたくなる。
サンシャイン通りまでは人の流れに流されてきたものの、あまりの喧騒に限界を感じたリリアはふらつきながら道を左にそれた。
かすかに感じる木々の香り、大都会の中に感じる故郷の香りを頼りに進むとビル群の中に大きな芝生を見つけた。
「南池袋公園...」
大きな芝生に木々が生え、遊具があるスペースにはウッドチップが敷かれている。
都会的な公園ではあるが、池袋の喧騒につかれたリリアに森を思い出させるには十分な自然がそこにはあった。
リリアは人々が座る段差に近くと、一人分あいたスペースに腰かける。
やっと落ち着ける場所を見つけ、一息つくと、少しだけ周りの様子を気にかけることができるようになってきた。
南池袋公園の時計は17時30分を少し過ぎたあたりをしめし、日が暮れ始めていた。
眠らない町・東京に夜が近づいてきているのである。
池袋が眠らない町であるなんてこと未だ知らないリリアは、ただただ人々であふれ返る目の前の芝生に目をやっていた。
ーーーーーそろそろ夜がくるけど、1日くらいなら眠らなくても大丈夫だわ。魔女狩りはなさそうだとはいえ、やっぱり怖いもの。この世界は野犬はでるのかしら。でるとしたら火をたきたいわ。とにかく情報収集を優先させて、安全を確保していきましょう。お腹もすいてきたわ。そういえばこの公園では木の実がとれるのかしら。
リリアの頭の中には不安が文字となって浮かび上がっては消え、消えては浮かび上がっている。
まさに混乱しているとはこのことで、考えが全くまとまらない。
そうしているうちに、公園から人がぽつり、ぽつりと消えていく。気がつくとリリアは公園に残った最後の一人になっていた。
状況がつかめないリリアの元に、男性が1人近づいてくる。
「お姉さん、南池袋公園は閉園の時間だよ。」
「え!?」
気がつけば時計は夜の22時をさしていた。はじめて腰をおちつけたリリアは3時間半も考え事をしていたのである。
「ここに一晩おいてもらうこ...」
「だめだめ、防犯上それはできないんだ」
言葉を言い終わる前に言葉を重ねられ、公園から出ていくことを余儀なくされたリリアは公園から一歩外にでると締められた門の前にへたり込んでしまった。
「私としたことが、考え事をするとすぐに時間がたってしまうわ。それにしてもこれから本当にどうすればいいのよ...」
体育座りした足をかかえ、顔をうずめる。
転生してきて半日ほどしかたっていないが人生で一番疲れた。そして状況がつかめなくてどうしていいかわからない。
でもここに座り込んでいても何も変わらない。とにかく動かないといけないのは分かるんだけど...
「あれ、リリアさん?こんなところに座り込んで何をしているの?」
リリアが再度、考え事の海入りかけていたところ、一度聞いたことがある声がした。
「星那さん!」
渡りに船か、地獄に仏か。
星那は疲れ切った表情で、一人寂しく公園の門の前にうずくまるリリアを見てこういった。
「もしかして、家出で帰るところがないとか?」
「あはは」
とにかく今のリリアには笑ってごまかすのが精一杯だ。




