01.はじめての交流
少女の名前はリリア・サクラトパーズ。
ソムスロリア王国にある森の中でひっそりと魔女をしていた。
薬を作っては人々に売り、病気を治し、人々の生活を少しだけよくすることを生きがいとして200年以上生きてきた魔女だった。
自慢は金色に輝く髪と、雪のように白い肌。
身長が低いために、長命な魔女にも関わらず幼く見られるのがコンプレックスだった。
そんな彼女は東京は池袋に転生し、あろうことか技術同人誌販売イベント降り立ってしまったのだ。
最期は魔女狩りにて命を落としてしまったとはいえ、240年も生きれば数々の修羅場をくぐり抜けている。
240年の人生の中でも、今が一番の非常事態であるということはリリアが一番分かっていた。
「コスプレの方ですかー??」
振り向くとそこには同じ金髪の少女。その少女の髪はリリアよりも黄色がかっていて、頭に大きなリボンがつけている。
「ぼくはゲームエンジンのキャラクターをやってるっす!」
少女はくるっと回って衣装を見せると、リリアに問いかける。
「あなたは何のキャラっすか?」
つまり、リリアの服装はこの世界ではコスプレというカテゴリに入ってしまい、特別な衣装となっているようだ。
「えっと、あの...私はコスプレとかではなく...」
「ロリータとかそういうカテゴリもいるから、この子にとっては私服なんじゃないの。」
口ごもるリリアに助け舟を出してくれたのは少々背が高く、メガネをかけた細身の男性。
「このイベントはコスプレ参加が少ないっすからねー!技術書が中心だからしかたないっすね。」
「そうだぞ。ここは技術書典だ。売り切れる前にほしい本買ってこないと。」
「ぼくはデータ派だからなー。イベント後半でもどうにかなるっすよ。とはいえ、DL用カードもなくなっちゃったら困るからもう一周回ってくるっすー。じゃあね、魔女子ちゃん!」
コスプレをした人物はそういうと人混みの中に消えていった。
どうやら自分はこの世界では浮いているようだが、存在していてもおかしくはない存在らしい。
「で、君はここにどんな本を買いに来たの?」
メガネの男性はリリアに問いかける。
突然の質問かつ、この世界を把握しきれてないリリアはどう答えていいか分からなかった。
「えーっと、黒の魔術についた本があればと...」
「黒の魔術?」
メガネの男性はリリアの発言に首をかしげる。その様子をみたリリアは慌てた。
同時に嫌な考えが頭の中に広がる。
もしかしてこの世界でも魔女狩りが行われているのではないか、しかも黒の魔術はこの世界では禁忌とされているのではないか、また当局に通報されて火あぶりになってしまうのではないかと。
「え、あ、その...えっと...決して魔法だとか..そういうことではなくて...」
慌てて言葉を重ねたリリアをみた男性は笑い出し、こういった。
「ああ、君はそういう設定なのね!魔法とか魔術みたいな技術の本ってことかな?どんな本を探しているか分からないけど、このイベントではマニアックな技術の本もあるからね。会場を一周回ってみるといいよ。」
『そういう設定』という言葉の意図を理解しきれないリリアであったが、どうやら当局に通報はないようだ。
安心したリリアは「そ、そうなの!少し珍しい魔術でね。ここにきたら魔術書が手に入るかと思って!」と話をあわせることにも成功した。
「あはは、魔術書ね。徹底した話し方をするね。僕の名前は星那、君の名前は?」
メガネの男はリリアの素振りをキャラクターになりきった演技だっと理解して、気に入ったようだった。
リリアもメガネの男に敵意がないとわかり、安心して名乗ることにした。
「リリア・サクラトパーズといいます!」
「リリア・サクラトパーズ。また異世界からきたような名前だね。完璧な設定だよ。」
星那は笑いながらそう答えると、おもむろにスマホに目をやり、慌てたように通知を確認した。
「おっといけない。友達と合流するんだった。じゃあ、またねリリアさん。ここにいるってことは開発に興味があるようだから、同業界の人間としてまた会いそうだね。君、目立つから。」
そう言い残すとエレベーターホールの方に向かっていった。
星那とのやりとりで、リリアはいくつかの情報の収集に成功した。
この世界では魔女や魔法は存在していないこと。よって魔女狩りは行われていないということ。
自分の姿は浮いてはいるがおかしくないこと。
まだまだ油断はできないが、うっかり火あぶりなんてことはないことに、リリアは安堵をしたのだった。




