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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第84話 小十郎さん本人も、自分が本物か分からなくなりました

「私にも」


小十郎さんが言った。


静かな声だった。


いつもと。


同じ。


だからこそ。


余計に。


怖かった。


「分からなくなって参りました」


俺は。


何も言えなかった。


小十郎さんが。


本物か。


分からない。


それ。


俺が。


何度も。


自分に聞いたことだった。


俺は。


本当に神谷拓真なのか。


一人目。


二人目。


三人目。


四人目。


作られた。


複製された。


記憶を受け継いだ。


死んだ。


戻った。


もう。


どれが本物か。


俺にも。


分からない。


なのに。


今。


俺は。


小十郎さんに。


聞いた。


『あなた、本当に小十郎さんですか』


最悪。


「すみません」


俺は言った。


小十郎さんが。


俺を見る。


「何がです」


「今の質問」


「当然の問いでしょう」


「当然だから」


俺は。


少し。


言葉を探した。


「傷つかないわけじゃないでしょう」


小十郎さんの顔が。


止まった。


紬が。


俺を見る。


政宗も。


小十郎さんを見る。


長い。


沈黙。


そして。


小十郎さんが。


小さく。


息を吐いた。


「ええ」


俺は。


少し驚く。


「少々」


さらに。


間。


「腹が立っております」


俺は。


思わず。


「よかった」


と言った。


小十郎さんが。


眉を寄せた。


「何がです」


「怒ってくれて」


「……」


「平気な顔された方が嫌だったので」


小十郎さんが。


俺を見る。


本当に。


呆れたような。


困ったような。


それから。


少しだけ。


笑った。


「拓真殿は」


「はい」


「人を怒らせて安心するのですか」


「場合によります」


「面倒な方ですね」


紬が。


「知ってる」


と言った。


「今、俺の悪口で仲良くなるのやめません!?」


少しだけ。


空気が。


緩んだ。


でも。


すぐに。


戻る。


愛姫様の証言。


小十郎の顔をした男。


政宗しか知らない秘密。


そして。


『本物の片倉小十郎は、もう死んでいます』


重い。


     ◇


「確認しましょう」


俺が言った。


小十郎さんが。


見る。


「何を」


「記憶です」


政宗が。


少し。


目を細める。


俺は。


続ける。


「愛姫様に薬を飲ませた小十郎さんは」


自分で。


言ってて。


嫌。


「政宗様が右目を失った夜のことを知っていた」


「はい」


愛姫様が。


答える。


「今の小十郎さんも」


俺は。


本人を見る。


「覚えてます?」


「ええ」


「詳しく?」


小十郎さんは。


すぐには答えなかった。


政宗が。


言う。


「申せ」


小十郎さんが。


少し。


嫌そうな顔をした。


珍しい。


「殿」


「何だ」


「これは」


「俺が許す」


「……承知しました」


嫌々。


小十郎さんが。


話し始めた。


右目を失った夜。


幼い政宗。


怒った。


誰にも会いたくないと。


暴れた。


物を投げた。


小十郎さんへも。


帰れと言った。


でも。


小十郎さんは。


帰らなかった。


夜。


遅く。


誰もいない。


政宗が。


初めて。


泣いた。


「何て」


俺は。


聞いてから。


少し後悔した。


でも。


政宗本人が。


答えた。


「怖い、と」


俺は。


黙った。


政宗が。


そんな。


普通の。


子供みたいなこと。


言った。


いや。


子供だった。


当たり前。


「片目で」


政宗が。


低く続ける。


「この先、何を見ることになるのか分からぬ」


「……」


「皆が俺を哀れむのか」


「……」


「恐れるのか」


「……」


「笑うのか」


政宗は。


少しだけ。


笑った。


「そんなくだらぬことで泣いた」


小十郎さんが。


すぐに。


「くだらなくはございません」


と返す。


政宗が。


小十郎さんを見る。


俺も。


二人を見る。


いつもの。


二人。


長く。


一緒にいた。


二人。


「その時」


俺が聞く。


「小十郎さんは、何て言ったんです」


小十郎さん。


少し。


黙る。


「私は」


政宗を見る。


「殿がお泣きになったことを、誰にも申しませんと」


「それだけ?」


「はい」


政宗が。


少し笑う。


「こいつは本当に、それしか申さなかった」


「何か励まさなかったんですか」


「下手な慰めなど、殿はお嫌いでしょう」


「それは分かる」


俺が言うと。


政宗が。


「お前に分かられても嬉しくない」


と言った。


「何で!」


でも。


この記憶。


今の小十郎さんは。


持ってる。


偽物も。


持ってる。


あるいは。


誰かから。


聞いた。


「待ってください」


俺が言う。


全員。


見る。


「また、すぐ超常現象に行くのやめません?」


新八さんが。


「お前が言うのか」


と言った。


「俺だから言うんですよ!」


本当に。


最近。


何でも。


時間。


複製。


未来人。


記憶移植。


そこへ。


行きすぎ。


「もっと普通の可能性」


俺は。


指を折る。


「誰かが聞いた」


一本。


「どこかに書いてあった」


二本。


「誰かが盗んだ」


三本。


「そういうのを先に潰しましょう」


小十郎さんが。


少し。


目を細める。


「記録庫」


俺は。


見る。


「はい?」


小十郎さんが。


静かに言う。


「焼けた記録庫には」


少し。


間。


「殿の幼少期に関する私的な記録もございました」


俺は。


止まる。


「じゃあ」


「全てが記されていたとは限りません」


「でも」


「誰かが事前に持ち出した可能性はあります」


つまり。


燃やした。


消すため。


だけじゃない。


盗んだ後。


証拠。


隠すため。


「だとしたら」


俺は。


息を吐く。


「偽の小十郎さんが秘密を知ってても、おかしくない」


愛姫様が。


静かに。


頷いた。


「ええ」


俺は。


少し。


安心した。


でも。


その時。


捕らえていた白面衆の男が。


笑った。


嫌な。


笑い。


「何がおかしい」


新八さんが。


睨む。


男は。


俺たちを見る。


「本物かどうかなんて」


言う。


「顔でも」


「……」


「記憶でも」


「……」


「決まらない」


俺の胸が。


ざわついた。


「何が言いたいんです」


男が。


小十郎さんを見る。


「片倉小十郎は」


笑う。


「もう三人いる」


俺は。


頭を抱えた。


「また増やすな!」


新八さんが。


「今さらだ」


と言う。


「麻痺しないで!」


でも。


三人。


今の小十郎さん。


愛姫様へ薬を飲ませた偽小十郎。


もう一人。


「三人目は誰です」


俺が聞く。


男。


答える。


「ずっといる」


「どこに」


「伊達家の中に」


政宗の顔が。


冷える。


「いつからだ」


男が。


笑う。


「輝宗が死んだ時から」


空気。


変わった。


政宗の父。


輝宗様。


死。


伊達家。


大きな傷。


そこから。


もう一人の小十郎。


いる。


「どうやって」


俺は聞く。


「三人も」


男が。


言った。


「作る」


俺。


黙る。


「顔を覚える」


「……」


「声を覚える」


「……」


「歩き方を覚える」


「……」


「筆跡を覚える」


「……」


「癖を覚える」


「……」


「好きなもの」


「……」


「嫌いなもの」


「……」


「昔の話」


「……」


「十年」


男が。


笑う。


「十年見れば、人は人を演じられる」


ぞっとした。


未来技術じゃない。


時間。


観察。


訓練。


嘘。


それだけ。


それだけで。


人間一人。


作る。


「白面衆」


小十郎さんが。


低く言う。


「ええ」


男が。


嬉しそう。


「我らは顔を変えるだけではない」


「……」


「人を作る」


俺は。


小十郎さんを見る。


今の。


本人。


たぶん。


本人。


でも。


その『たぶん』が。


怖い。


     ◇


「古傷」


政宗が。


突然言った。


全員。


見る。


「小十郎には」


片目。


鋭い。


「幼い頃、俺を守った時の傷がある」


小十郎さんの顔が。


少し。


変わる。


「偽物に」


政宗。


続ける。


「同じ傷までは作れまい」


俺は。


少し。


安心しかけた。


小十郎さんが。


衣服を。


少し。


ずらす。


肩。


古い傷。


ある。


政宗が。


見る。


でも。


小十郎さん自身が。


眉を寄せた。


「……違う」


俺の胸。


冷える。


「何が」


小十郎さんが。


自分の傷を見る。


「私の記憶では」


指。


沿わせる。


「もう少し」


場所。


示す。


「下です」


誰も。


動かない。


俺は。


喉。


乾く。


「この傷」


聞いた。


「本当に昔からありました?」


小十郎さんが。


俺を見る。


答えない。


「確認したことは」


「……」


「いつ」


小十郎さん。


何も言えない。


記憶。


ある。


昔。


傷。


できた。


でも。


今の傷。


いつから。


そこにある。


誰が。


確認した。


分からない。


俺自身。


そう。


記憶。


ある。


でも。


その記憶が。


本物か。


証明できない。


「やめましょう」


俺が言った。


全員。


見る。


「今すぐ」


小十郎さんを見る。


「自分が偽物だって決めるの」


小十郎さんが。


何も言わない。


「証拠がない」


「しかし」


「俺も」


声。


少し。


強くなる。


「何回、自分が偽物かもしれないって言われたと思ってるんです」


紬が。


「多すぎ」


と言う。


「でしょう!」


でも。


続ける。


「そのたび」


「……」


「今の自分がしたことまで、なくなるわけじゃないって」


小十郎さんを見る。


「教えてもらった」


小十郎さんの目が。


少し。


揺れる。


「今度は俺の番です」


言った。


「あなたが本物か偽物か」


「……」


「まだ分からない」


正直。


「でも」


一度。


息。


吸う。


「俺が知ってる小十郎さんは、あなたです」


小十郎さん。


黙る。


政宗も。


何も言わない。


紬が。


ぼそっと。


「ちょっと気持ち悪い」


「今いいところ!」


でも。


小十郎さんが。


少しだけ。


笑った。


本当に。


少し。


その時。


新八さんが。


部屋へ入ってきた。


手。


古い。


巻物。


いや。


絵。


「見つかった」


嫌な予感。


俺。


最近。


分かる。


「何がです」


新八さんが。


広げる。


若い頃の。


小十郎さん。


肖像。


今と。


同じ顔。


若い。


でも。


俺は。


気づいた。


右頬。


小さな。


ほくろ。


今の。


小十郎さん。


ない。


俺は。


本人を見る。


本人も。


絵を見る。


そして。


新八さんが。


絵の裏。


見せる。


文字。


俺には。


読めない。


小十郎さん自身が。


読んだ。


顔。


真っ白。


「何て」


俺が聞く。


返事。


ない。


「小十郎さん」


政宗が。


低く言う。


「読め」


小十郎さん。


長い。


沈黙。


それから。


声。


出した。


「片倉小十郎景綱」


一度。


止まる。


「死去」


俺の胸。


冷える。


日付。


小十郎さんが。


読む。


俺が。


この時代へ来る。


半年前。


誰も。


何も言えなかった。


今。


目の前。


小十郎さん。


生きている。


でも。


記録では。


死んだ。


半年前。


そして。


絵の中。


若い小十郎には。


右頬に。


ほくろ。


今の小十郎には。


ない。


政宗が。


小十郎さんを見る。


小十郎さんも。


政宗を見る。


長い。


本当に。


長い。


沈黙。


そして。


小十郎さんが。


静かに。


言った。


「殿」


「何だ」


「もし」


声。


少し。


震えた。


初めて。


「私が、本物の片倉小十郎でなかったなら」


政宗の片目が。


鋭くなる。


「何だ」


小十郎さんは。


続けた。


「それでも」


一度。


息。


吸う。


「私は、あなたの家臣でいてもよろしいでしょうか」


俺は。


何も。


言えなかった。


政宗は。


すぐには答えなかった。


でも。


次の瞬間。


小十郎さんの胸ぐらを。


掴んだ。


「馬鹿者」


俺は。


息を止める。


政宗が。


低く。


怒る。


「お前が誰であろうと」


「……」


「俺が小十郎と呼んだ」


「……」


「それで足りぬか」


小十郎さんの目が。


揺れた。


政宗は。


続ける。


「偽物だろうが」


「……」


「死者だろうが」


「……」


「三人いようが」


俺が。


思わず。


「三人は困ります」


と言った。


政宗が。


「黙れ!」


と怒鳴った。


「はい!」


でも。


小十郎さんが。


笑った。


涙。


一滴。


落ちた。


そして。


その瞬間。


肖像画の裏から。


もう一枚。


薄い紙が。


落ちた。


俺が。


拾う。


現代日本語。


また。


嫌な予感。


読んだ。


――本物の片倉小十郎は死んでいない。


俺は。


止まった。


その下。


もう一行。


――ただし、今の小十郎を見たら、本物は必ず殺しに来る。


俺は。


顔を上げた。


そして。


廊下の向こう。


足音。


一つ。


近づく。


ゆっくり。


一定。


小十郎さんと。


まったく同じ歩き方。


戸の向こうから。


声。


聞こえた。


「殿」


小十郎さんと。


同じ声。


「お迎えに上がりました」


俺は。


隣の小十郎さんを見る。


本人。


青ざめている。


戸が。


ゆっくり。


開いた。


そこには。


右頬に。


小さなほくろのある。


もう一人の片倉小十郎が。


立っていた。


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