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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第83話 疑われた楓は、自分から消えようとしました

「少し」


楓が言った。


「一人にして」


俺は即答した。


「嫌です」


楓が顔を上げた。


目が赤い。


さっき落ちた涙を、慌てて拭った跡がある。


「何で」


「今のあなたを一人にしたら」


俺は一度、息を吸った。


「俺、たぶん一生後悔するからです」


楓は何も言わなかった。


俺も。


次に何を言えばいいか分からなかった。


気の利いた言葉なんて出てこない。


大丈夫。


信じてる。


あなたは大切な仲間です。


そう言えばいいのかもしれない。


でも、今の楓にそれを言って、どれだけ届くんだろう。


俺は。


こういう時。


本当に。


役に立たない。


「……何、その顔」


楓が言った。


「考えてます」


「珍しい」


「紬と同じこと言わないでください!」


少しだけ。


本当に少しだけ。


楓の口元が動いた。


でも。


すぐに消えた。


「拓真」


「はい」


「私は何?」


俺は。


止まった。


「何って」


「紬は」


楓が言う。


「拓真が拾った」


少し離れたところで、紬が眉を寄せる。


「千代には紬がいる」


「……」


「小鈴は、みんなが心配する」


「……」


「愛姫様には政宗様がいる」


政宗が何も言わずに楓を見ていた。


「じゃあ」


楓が。


俺を見る。


「私は何?」


答えられなかった。


本当に。


すぐには。


楓は笑った。


嫌な笑い方だった。


自分で自分を傷つける時の。


「ほら」


「違います」


「何が」


「今、考えてるだけです」


「考えないと出てこないんでしょ」


「そうです」


正直に言った。


楓の顔が。


少し。


傷ついた。


でも。


嘘はつけない。


「紬みたいに」


俺は続けた。


「拾ったわけじゃない」


紬が。


「物みたいに言わないで」


と怒る。


「今そこ!」


でも。


少しだけ。


助かった。


俺は楓へ向き直る。


「千代みたいに、誰か一人と強く繋がってるわけでもない」


「……」


「小鈴みたいに、みんなが放っておけない感じでもない」


「ひどい」


小鈴が弱々しく言った。


まだ横になってる。


「すみません!」


本当に。


言い方。


最悪。


「でも」


俺は続ける。


「だから何なのかって聞かれたら」


楓を見る。


「分かりません」


楓の目が細くなる。


「最低」


「知ってます」


「もっと良いこと言えないの」


「言いたいですよ!」


俺は。


少し声を大きくした。


「大切な仲間ですとか!」


「……」


「家族ですとか!」


「……」


「あなたが必要ですとか!」


楓が。


じっと見る。


俺は。


喉が詰まった。


「でも」


少し。


言葉を探す。


「今それを言ったら」


「……」


「あなたを引き止めるために、都合のいい言葉を選んでる気がして」


長い沈黙。


「だから」


俺は。


言った。


「分かりません」


「……」


「でも」


今度は。


迷わなかった。


「いなくなられたら嫌です」


楓の目が。


揺れた。


「曖昧」


「俺の得意分野です」


「自慢しないで」


「すみません」


少しだけ。


笑った。


楓が。


本当に少しだけ。


     ◇


「私ね」


楓が言った。


みんながいる。


でも。


不思議と。


二人で話してるみたいだった。


「役に立つから、ここにいていいと思ってた」


俺は黙る。


「薬草を知ってる」


「……」


「縫い物ができる」


「……」


「飯も炊ける」


「……」


「畑も見られる」


「……」


「少しなら帳簿も分かる」


「……」


「だから」


楓が。


自分の手を見る。


「置いてもらえる」


胸。


痛い。


「でも」


愛姫様の部屋に。


楓の薬袋。


犯人に。


された。


「薬草を知ってるから疑われる」


「……」


「薬を作れるから、人を殺せると思われる」


「……」


「役に立つと思ってたものが」


声。


震える。


「全部、私を疑う理由になる」


俺は。


何も言えなかった。


だって。


本当。


そう。


薬草に詳しいから。


疑った。


俺も。


一瞬。


井戸の時。


楓を。


見た。


「拓真も疑ったでしょ」


刺さった。


「……はい」


「ほら」


「はい」


言い訳。


しない。


「でも」


「何」


「疑ったからって」


俺は。


楓を見る。


「いなくなってほしいとは思わない」


楓が。


少し。


顔を歪める。


「疑われるの、嫌」


「はい」


「平気じゃない」


「知ってます」


「みんなに見られるのも嫌」


「はい」


「役に立てないのも嫌」


「はい」


「迷惑になるのも嫌」


「分かります」


「分からないくせに」


「そうですね」


楓が。


少し怒った顔をする。


俺は。


続けた。


「全部は分かりません」


「……」


「でも」


会社。


思い出す。


役に立つ。


成果。


数字。


売上。


できない人間。


価値がない。


そんな。


空気。


俺も。


いた。


「役に立たなくなったら消えた方がいいって考えるのは」


喉。


少し。


痛い。


「ちょっとだけ分かります」


楓が。


見る。


「拓真も?」


「会社辞めましたからね」


「逃げたの」


「はい」


俺は。


笑った。


「かなり」


でも。


逃げて。


ここへ来た。


政宗に捕まった。


紬を拾った。


新八さんに怒られた。


小十郎さんに助けられた。


本当に。


人生。


分からない。


「だから」


俺は言う。


「消えたいと思うのを、今すぐやめろとは言いません」


楓が。


少し驚く。


「止めないの」


「止めますよ!」


「どっち」


「思うのは止められないでしょう!」


俺は。


少し。


声を荒らげた。


「でも、消えるのは止めます!」


楓の顔が。


少し。


呆れたようになる。


「勝手」


「知ってます!」


「私の人生でしょ」


「そうです!」


「じゃあ」


「だから!」


俺は。


言葉を探す。


難しい。


本当に。


「あなたが決めることです」


「……」


「でも」


「……」


「あなたが決めたことに、俺たちが反対するのも自由でしょう!」


楓が。


黙る。


「一人で決めていい」


「……」


「でも一人で決めたから、みんな黙って従えは違う」


「……」


「俺は嫌だって言います」


「……」


「紬もたぶん言う」


その瞬間。


紬が。


前へ出た。


「言う」


俺は。


「早い!」


と叫んだ。


紬は。


楓を見る。


真正面から。


「私は楓が嫌いな時もある」


「そこから!?」


俺が。


思わず。


言う。


楓も。


少し。


目を丸くした。


紬は。


続ける。


「偉そうだし」


「紬も」


「言い返すし」


「紬も」


「すぐ人の顔見るし」


「それは拓真」


「俺!?」


今。


関係ない。


でも。


紬は。


少し。


唇を噛む。


「嫌いな時もある」


楓が。


静かに聞く。


「じゃあ、いなくなった方がいい?」


紬が。


即答した。


「もっと嫌」


楓の顔が。


止まる。


「楓がいなくなる方が」


紬は。


目を逸らす。


「ずっと嫌」


「……」


「だから勝手に消えないで」


「……」


「腹が立ったら喧嘩すればいい」


「……」


「嫌いになったら嫌いって言う」


「……」


「でも」


紬が。


楓を見る。


「いなくなるのは嫌」


楓の目から。


また。


涙が落ちた。


俺は。


何も言わなかった。


今は。


それでいい。


たぶん。


     ◇


その頃。


捕らえた白面衆の男が。


口を割った。


というより。


小十郎さんが。


割らせた。


何をしたか。


聞かない。


怖いから。


「誰の命令です」


俺が聞く。


男は。


口元の血を拭いながら。


笑った。


「白面衆は金で動く」


「誰が払った」


答えない。


新八さん。


一歩。


近づく。


男が。


少し。


顔をしかめた。


俺は。


「新八さん、何したんです」


「まだ何もしておらん」


「まだ!?」


怖い。


男は。


諦めたように。


言った。


「未来人じゃない」


俺の胸。


少し。


ざわつく。


「依頼人は」


「……」


「伊達家の中の人間だ」


部屋。


静か。


政宗。


笑わない。


小十郎さんの目が。


冷える。


「目的は」


男が。


俺を見る。


「神谷拓真を」


少し。


間。


「伊達政宗から引き離すこと」


俺は。


止まった。


「何で」


「知らん」


「五人を殺すのも?」


「お前を壊すためだ」


胸。


冷たい。


「紬」


「……」


「小鈴」


「……」


「千代」


「……」


「楓」


「……」


「愛姫」


男が。


笑う。


「一人ずつ失えば」


俺を。


見る。


「お前は自分から政宗を離れる」


俺は。


何も言えなかった。


たぶん。


思う。


俺がいるから。


みんな死ぬ。


なら。


俺が消えれば。


その考え。


もう。


何度も。


した。


「よく知ってますね」


俺が言う。


男。


笑う。


「そうなるだろ」


「たぶん」


俺は。


正直に答えた。


「少し前なら」


政宗が。


俺を見る。


紬も。


見る。


「でも」


俺は。


息を吐く。


「今は、たぶん一人で決めたら怒られるので」


紬が。


「怒る」


と即答。


「ですよね!」


     ◇


小十郎さんが。


地図と。


帳簿を。


並べた。


米が消えた村。


武器蔵。


白面衆。


人買い。


未来人の噂。


全部。


一つの方向。


政宗を。


天下から遠ざける。


俺を。


政宗から離す。


「誰が得をするんです」


俺が聞く。


小十郎さんは。


すぐには答えなかった。


「伊達家が天下へ進まぬことで得をする者は」


「多いですね」


「ええ」


「でも伊達家の中」


「はい」


嫌な話。


身内。


また。


裏切り。


その時。


薬師が。


部屋へ来た。


「愛姫様がお目覚めに」


政宗が。


すぐ。


立つ。


俺たちも。


続く。


     ◇


愛姫様は。


まだ。


顔色が悪かった。


でも。


目は。


開いている。


政宗が。


そばへ座る。


「愛」


「殿」


声。


弱い。


でも。


生きてる。


俺は。


少し。


安心した。


愛姫様が。


最初に。


楓を見た。


楓。


少し。


身構える。


そして。


愛姫様が言った。


「楓は悪くありません」


全員。


静かになる。


楓の顔。


揺れる。


「私に薬を飲ませたのは」


少し。


息。


整える。


「小十郎です」


誰も。


動かなかった。


俺は。


ゆっくり。


小十郎さんを見る。


本人。


いる。


顔。


変わらない。


でも。


政宗。


笑わない。


「愛」


政宗が。


低く聞く。


「間違いないか」


「はい」


「顔だけではないかもしれません」


俺が。


口を挟む。


白面衆。


変装。


小十郎さんの顔。


真似た。


それなら。


あり得る。


でも。


愛姫様は。


首を振った。


「顔だけではありません」


「じゃあ」


「その小十郎は」


愛姫様が。


政宗を見る。


「殿しか知らないはずのことを、知っていました」


政宗の目。


変わる。


「何を」


愛姫様は。


答えようとして。


止まる。


躊躇。


政宗が。


静かに言う。


「申せ」


愛姫様が。


小さく。


息を吸う。


「殿が幼い頃」


「……」


「右目を失った夜」


小十郎さんの顔が。


初めて。


少し。


動いた。


「殿が」


愛姫様。


続ける。


「誰にも言わず、小十郎にだけ泣いたこと」


部屋。


静か。


政宗。


何も言わない。


小十郎さんも。


何も。


俺は。


知ってはいけないことを。


聞いた気がした。


政宗が。


低く聞く。


「他には」


「その小十郎は」


愛姫様の声。


震える。


「私にこう言いました」


全員。


息を止める。


「本物の片倉小十郎は」


少し。


間。


「もう死んでいます」


俺は。


何も言えなかった。


小十郎さん本人が。


そこにいる。


ずっと。


俺たちと。


いた。


でも。


本物?


また。


その言葉。


俺自身。


何度も。


苦しんだ。


俺は。


本物の神谷拓真なのか。


そして。


今度は。


小十郎さん。


「小十郎さん」


俺は。


呼んだ。


本人。


俺を見る。


「はい」


声。


いつもの。


静か。


落ち着いた。


でも。


俺は。


聞いてしまった。


「あなた」


喉。


乾く。


「本当に、小十郎さんですか」


言った瞬間。


後悔した。


小十郎さんの目が。


ほんの少しだけ。


傷ついたからだ。


そして。


彼は。


静かに。


答えた。


「私にも」


少し。


間。


「分からなくなって参りました」


俺は。


何も。


返せなかった。


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