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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第82話 千代が消え、部屋には紬の血がついた短刀が残されていました

『今度こそ』


井戸の底から。


俺の声がした。


『楓を見捨てろ』


俺は。


井戸を睨んだ。


誰もいない。


さっき。


灯りを下ろして。


確認した。


水。


石。


泥。


それだけ。


なのに。


声。


俺の声。


「……もう」


俺は。


ゆっくり。


息を吐いた。


「未来のせいにはしませんよ」


誰に言ったのか。


分からない。


井戸に。


犯人に。


昔の俺に。


それとも。


自分に。


「誰かが俺たちを動かしてる」


新八さんが。


低く言う。


「ああ」


「未来を知っているのではなく?」


「知ってるかもしれません」


俺は答えた。


「でも、それだけじゃない」


紙。


予言。


声。


幻。


香。


変装。


全部。


俺たちに。


誰かを疑わせる。


誰かを選ばせる。


誰かを見捨てさせる。


ため。


「千代を探します」


俺は言った。


隣。


楓の顔が。


少しだけ変わった。


すぐ。


気づいた。


だから。


続ける。


「俺は行きません」


今度は。


みんなが。


俺を見る。


「……え?」


紬が聞く。


俺は。


楓を見る。


「俺は楓のそばにいます」


楓が。


眉を寄せる。


「千代は」


「探します」


「誰が」


俺は。


紬を見る。


「お願いします」


紬。


少し。


黙った。


それから。


「うん」


即答。


俺は。


胸の奥が。


痛くなった。


だって。


危ない。


本当は。


行かせたくない。


紬も。


ここに置いておきたい。


小鈴も。


千代も。


楓も。


愛姫様も。


全員。


鍵のかかる部屋へ。


押し込めたい。


でも。


それをやった俺は。


たぶん。


また。


誰かの人生を。


守るふりして。


奪う。


「新八さん」


「行く」


「まだ頼んでない!」


「紬と行く」


「話が早い!」


一度目の紬が。


少し。


前へ出た。


「私も」


俺は。


見る。


「腕、大丈夫ですか」


「痛い」


「なら」


「でも行く」


「……」


今の紬が。


一度目の自分を見る。


「無理しないで」


一度目の紬が。


少し。


笑った。


「それ、あんたが言う?」


今の紬。


黙る。


俺は。


「本当に同じですね」


と言った。


二人同時に。


「うるさい」


と返された。


新八さんが。


「増えると面倒だな」


と言う。


「今さら!?」


でも。


少し。


息ができた。


     ◇


千代の部屋。


血のついた短刀。


俺は。


近づかなかった。


楓が。


しゃがむ。


じっと。


見る。


「触らないでくださいね」


俺が言う。


楓が。


「分かってる」


と返す。


俺。


何か。


最近。


全員に。


同じこと言ってる。


危ない。


触るな。


一人で行くな。


食べるな。


飲むな。


俺。


保護者?


いや。


違う。


違うはず。


たぶん。


「この血」


楓が言った。


「新しいですか」


「新しく見える」


「見える?」


俺が聞く。


楓は。


短刀の刃。


床。


鞘。


順番に見る。


「でも変」


「何が」


「乾き方」


俺。


見る。


分からない。


血。


赤黒い。


それだけ。


「井戸でできた傷の血じゃない」


一度目の紬の腕。


傷。


確かに。


出血していた。


「どうして分かるんです」


「この血は」


楓が。


少し。


眉を寄せる。


「もっと前についた」


俺の背中。


冷える。


「つまり」


小十郎さんが。


静かに言う。


「犯人は事前に、一度目の紬の血を手に入れていた」


「でもどうやって」


誰も。


すぐには答えない。


一度目の紬。


今まで。


どこにいた。


誰と。


接触した。


美月さん。


志乃。


最初の千代を名乗る女。


さよ。


未来。


扉。


分からない。


多すぎる。


でも。


一つ。


確かなこと。


「これ」


俺は。


短刀を見る。


「千代と紬を疑わせるためですよね」


小十郎さんが。


頷く。


「おそらく」


千代が消える。


部屋に。


紬の血。


誰かが見れば。


紬が千代を。


あるいは。


千代が紬を。


そう。


考える。


「趣味悪い」


楓が言った。


俺は。


楓を見る。


「はい」


「人間が疑うところを知ってる」


「はい」


「嫌になるくらい」


楓。


少し。


顔を伏せる。


俺は。


紙を思い出す。


――次は、楓。


――でも拓真は助けない。


「楓」


「何」


「怖いですか」


「また聞くの」


「はい」


楓は。


少し。


黙った。


「怖い」


前なら。


たぶん。


平気。


そう言った。


でも。


今は。


違う。


俺は。


少し。


嬉しかった。


こんな時に。


嬉しいって。


変だけど。


「俺もです」


「拓真はいつも怖がってる」


「そこまで!?」


「うん」


「否定できない!」


楓が。


ほんの少し。


笑った。


そして。


すぐ。


真顔に戻る。


「千代のこと考えてるでしょ」


俺は。


止まった。


「……はい」


「私のそばにいるのに」


「はい」


「千代のこと考えてる」


「悪いですか」


少し。


強く。


言った。


楓は。


首を振る。


「悪くない」


「……」


「でも」


俺を見る。


「私だけ見てるふりはしないで」


胸。


刺さった。


俺は。


しばらく。


何も言えなかった。


「すみません」


「何で謝るの」


「何となく」


「変」


「よく言われます」


でも。


そう。


俺は。


楓を守りたい。


千代も心配。


紬も心配。


新八さんも。


一度目の紬も。


小鈴も。


政宗も。


小十郎さんも。


全部。


心配。


一人だけ。


見られない。


「楓」


「何」


「俺」


少し。


考える。


「あなたのそばにいます」


「うん」


「でも千代も心配します」


「うん」


「紬も」


「うん」


「みんな」


「欲張り」


「政宗様の家臣なんで」


楓が。


「便利な言葉」


と言った。


「最近覚えました」


     ◇


紬たちは。


千代を探した。


城。


門。


道。


人。


足跡。


聞き込み。


今の俺は。


行けない。


だから。


待つ。


待つの。


苦手。


本当に。


苦手。


何かしてる方が。


楽。


でも。


楓のそば。


離れない。


一刻。


二刻。


いや。


実際。


そこまでじゃない。


でも。


長く感じた。


そして。


夕暮れ前。


新八さんが戻った。


「見つかった」


俺は。


立ち上がる。


「千代は!」


「生きている」


力。


抜ける。


「どこです」


「城外の古い水路」


「何でそんなところに」


「眠らされていた」


俺は。


拳。


握る。


「誰に」


新八さんが。


少し。


嫌な顔をした。


「紬だそうだ」


俺は。


止まった。


「……どの?」


新八さん。


深いため息。


「今のところ、本人にも分からん」


「また!」


     ◇


千代は。


水路のそば。


毛布。


包まれていた。


泣いてる。


今の紬。


隣。


腕組み。


ものすごく。


機嫌悪い。


一度目の紬。


少し離れてる。


もっと。


機嫌悪い。


俺は。


近づく。


「千代」


千代が。


俺を見る。


「拓真」


泣く。


「大丈夫ですか」


「分からない」


正直。


いい。


「どこか痛い?」


「頭」


「他は」


「怖い」


「それは」


俺は。


少し。


笑う。


「俺もです」


千代。


また。


泣く。


今の紬が。


言った。


「それで」


俺は。


見る。


「何があったんです」


千代。


震えながら。


言う。


「紬が」


今の紬。


眉。


動く。


「私を連れてきた」


「私じゃない」


即答。


千代。


泣く。


「でも紬だった!」


「違う!」


「顔も!」


「違う!」


「声も!」


「知らない!」


「二人とも!」


俺。


止める。


二人。


俺を見る。


「喧嘩は後!」


今の紬。


「別に喧嘩じゃない」


「今のは喧嘩です!」


一度目の紬が。


小さく。


「私でもない」


と言う。


俺は。


そちらを見る。


「本当に?」


「疑ってる?」


「はい」


正直。


言った。


傷ついた顔。


された。


でも。


嘘。


つきたくない。


「今のところ」


俺は続ける。


「二人とも疑ってます」


今の紬が。


ものすごく嫌そう。


「最低」


「知ってます!」


でも。


俺は。


千代を見る。


「その紬」


「……」


「何か変なところは」


千代が。


泣きながら。


考える。


「匂い」


全員。


見る。


「何の」


「甘い」


楓が。


顔を上げる。


香。


また。


それ。


「それから」


千代が。


続ける。


「顔」


「顔?」


「途中で」


「何です」


「ずれた」


俺は。


止まった。


「ずれた?」


千代が。


自分の頬。


触る。


「ここ」


楓と。


小十郎さん。


同時に。


顔が変わる。


     ◇


水路。


近く。


草。


泥。


探す。


そして。


見つけた。


薄い。


布。


肌色。


顔料。


膠。


人の顔に。


見える。


作り物。


「仮面」


俺が言う。


新八さん。


持ち上げる。


「こんなものを」


小十郎さんが。


静かに。


見る。


「旅芸人などが、顔を変えるため使うことがあります」


俺は。


思った。


やっぱり。


複製じゃない。


時間。


じゃない。


未来。


じゃない。


人。


騙してる。


「つまり」


俺は。


偽物の顔を見る。


「楓も」


「……」


「紬も」


「……」


「今まで見た『もう一人』の全部が」


言い切れない。


でも。


「少なくとも一部は、ただの変装かもしれない」


新八さんが。


「ただの、というほど簡単ではない」


「ですよね」


でも。


できる。


未来人じゃなくても。


     ◇


小十郎さんが。


少し。


考え込んでいた。


政宗が。


後から来る。


「何だ」


小十郎さん。


顔を上げる。


「一つ、心当たりがございます」


「誰に」


「組織です」


俺は。


嫌な予感。


「黒脛巾組?」


「似ていますが、違います」


「じゃあ」


小十郎さんが。


低く言う。


「白面衆」


聞いたこと。


ない。


「旅芸人を装い」


「……」


「化粧」


「……」


「声真似」


「……」


「潜入」


「……」


「情報の売買」


「……」


「時には人買いにも関わる」


紬の顔が。


冷える。


志乃。


山ノ瀬。


人買い。


赤い糸。


全部。


繋がる?


「未来人じゃない」


俺が言う。


小十郎さん。


頷く。


「おそらく」


「未来人が残した情報を」


「利用している」


俺は。


腹が立った。


未来。


知ってる。


そう。


見せる。


でも。


実際は。


人を。


誘導。


してる。


     ◇


その時。


城の方から。


また。


鐘。


二回。


今度。


俺。


すぐ分かった。


嫌な知らせ。


兵が。


走ってくる。


「殿!」


「申せ」


「愛姫様が!」


政宗の顔。


変わる。


俺の胸。


冷える。


「倒れられました!」


全員。


走った。


俺も。


楓も。


走る。


途中。


俺。


つまずく。


「痛っ!」


新八さんが。


「こういう時まで!」


「分かってますよ!」


立つ。


走る。


愛姫様の部屋。


薬師。


兵。


小十郎さん。


政宗。


愛姫様。


横たわる。


でも。


息。


ある。


俺。


少し。


安心。


その時。


床。


薬袋。


見えた。


楓が。


止まる。


「それ」


全員。


見る。


小さな袋。


楓。


持っているものと。


同じ。


「私の」


楓が。


言った。


部屋。


静か。


兵。


楓を見る。


女中。


楓を見る。


俺も。


楓を見る。


楓の顔。


初めて。


はっきり。


怖がっていた。


「私じゃない」


声。


少し。


震える。


俺は。


即答した。


「知ってます」


楓が。


俺を見る。


「まだ何も」


「知ってます」


「でも」


「楓じゃない」


俺は。


言った。


証拠?


ない。


でも。


今。


それだけは。


言いたかった。


すると。


愛姫様の枕元。


紙。


一枚。


見つかる。


俺が。


拾う。


現代日本語。


――あと二人。


俺の胸。


冷える。


楓。


そして。


愛姫様。


つまり。


犯人。


楓を。


殺人犯に。


見せてから。


殺すつもり。


その時。


廊下。


騒ぎ。


新八さんが。


一人。


連れてくる。


男。


顔。


半分。


化粧。


剥がれている。


白面衆。


らしい。


俺は。


詰め寄る。


「楓に何をした!」


男。


笑う。


「何も」


「嘘をつけ!」


「本当だ」


「じゃあ何で!」


男が。


楓を見る。


そして。


笑った。


「楓は」


少し。


間。


「もう自分で死ぬ」


俺は。


胸ぐら。


掴む。


「何をした!」


男。


まだ。


笑う。


「何も」


「ふざけるな!」


「みんなに疑われれば」


男が。


静かに。


言った。


「あの女は勝手に消える」


俺は。


止まった。


楓を見る。


楓。


目。


逸らした。


そして。


俺は。


その瞬間。


気づいた。


怖かった。


楓が。


死ぬことより。


もっと。


怖い。


この人。


本当に。


そうするかもしれない。


役に立たないなら。


疑われるなら。


迷惑なら。


自分が。


いなくなればいい。


そう。


考える顔だった。


「楓」


俺が呼ぶ。


返事。


ない。


「こっち見てください」


「嫌」


「見て」


「嫌」


初めて。


子供みたいに。


言った。


俺は。


何も。


言えなかった。


そして。


次の瞬間。


楓が。


立ち上がった。


「ごめん」


俺の胸。


冷える。


「何が」


楓は。


俺を見ない。


「少し」


声。


震える。


「一人にして」


俺は。


即答した。


「嫌です」


楓が。


顔を上げた。


目。


赤い。


「何で」


俺は。


答えた。


「今のあなたを一人にしたら」


一度。


息を吸う。


「俺、たぶん、一生後悔するからです」


楓の目から。


初めて。


涙が落ちた。


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