第78話 城門に現れた神谷拓真は、政宗様に殺されに来たと言いました
「その男」
兵が言った。
「伊達政宗様に」
少し。
息を整える。
「殺されに来たと申しております」
俺は。
しばらく。
何も言えなかった。
それから。
聞いた。
「誰が?」
兵が。
少し困った顔をする。
「神谷拓真と名乗る男です」
「いや、そうじゃなくて」
俺は。
自分を指差した。
「どの俺?」
沈黙。
新八さんが。
深いため息をついた。
「だから紙に書け」
「人数管理で解決しないんですって!」
でも。
正直。
もう書いた方がいいのかもしれない。
眼帯。
傷。
死んだ。
戻った。
作られた。
昔の政宗様に会った。
今の俺。
何人。
俺。
いるんだ。
「会うぞ」
政宗が立ち上がった。
「待ってください」
俺は。
すぐ止める。
「何だ」
「殺さないですよね?」
「まだ会ってもおらぬ」
「でも」
「俺を何だと思っている」
俺は。
考えた。
「気に入ったら無茶振りして、気に入らなくても面白がる人」
政宗が。
少し笑った。
「だいたい合っておる」
「合ってるんだ!」
小十郎さんが。
静かに。
「まず、お話を伺いましょう」
と言った。
さすが。
まとも。
本当に。
まとも。
相対的に。
◇
城門。
いた。
男。
俺。
少し。
年上に見える。
痩せている。
髪。
乱れている。
そして。
右腕。
袖。
少し。
捲れている。
長い傷。
俺は。
止まった。
あの絵。
子供の政宗様。
隣。
右腕に長い傷のある。
神谷拓真。
「……あなた」
男が。
俺を見る。
そして。
笑った。
「四人目」
「その呼び方やめてください」
「じゃあ何て呼べばいい」
「拓真で」
「俺も拓真だ」
「ややこしい!」
男が。
少し。
笑った。
政宗は。
そいつを。
じっと見る。
いつもの。
人を見抜こうとする。
片目。
男も。
政宗を見る。
長い。
沈黙。
先に。
政宗が。
言った。
「お前か」
男の顔が。
少し。
動く。
「覚えてる?」
「声を」
政宗が。
低く言う。
「その目で天下を見ろと申した」
男は。
笑った。
でも。
嬉しそうじゃない。
むしろ。
疲れていた。
「そうだ」
俺は。
息を吐く。
「本当に」
見る。
右腕。
傷。
「あなたが、昔の政宗様に会った?」
「ああ」
「何で」
「必要だった」
「何が」
男は。
政宗を見る。
「こいつを天下へ向かわせることが」
俺は。
胸が。
少し。
ざわついた。
「あなたが」
「そう」
男が言う。
「俺が最初に政宗を天下へ向かわせた」
政宗が。
少し笑う。
「随分と偉そうだな」
「お前も昔から偉そうだった」
「子供の俺に申したか」
「何度も」
政宗の笑みが。
少し深くなる。
何だろう。
昔の知り合い同士。
みたいに。
見える。
でも。
俺は。
聞かないといけない。
「それで」
俺が言う。
男が。
見る。
「何で殺されに来たんです」
笑い。
消えた。
城門。
風。
夜。
兵。
誰も。
口を出さない。
男が。
静かに答える。
「俺が死なない限り」
少し。
間。
「神谷拓真は増え続ける」
俺は。
頭を抱えた。
「もうそれ本当にやめません!?」
「事実だ」
「じゃなくて!」
俺は。
男を指差す。
「また『俺を殺せば全部解決』ですか!」
男が。
黙る。
「便利すぎるでしょう!」
「……」
「紬を殺せば!」
「……」
「政宗様を殺せば!」
「……」
「俺を殺せば!」
声。
大きくなる。
「何で毎回、誰か一人死んだら全部解決するみたいに言うんです!」
紬が。
俺の袖を。
少し。
掴んだ。
たぶん。
怒りすぎ。
でも。
止められない。
「あなたが死んだら何が解決するんです」
男が。
答える。
「扉が止まる」
「証拠は」
「ある」
「本当に?」
「ある」
「じゃあ何で今まで死ななかったんです!」
男の顔が。
止まった。
俺は。
息。
荒い。
でも。
言う。
「死ねばいいなら!」
「……」
「何で今まで生きてたんです!」
長い。
沈黙。
男が。
ゆっくり。
言った。
「怖かったからだ」
俺は。
止まった。
男は。
自分の右腕。
傷。
見る。
「死ぬのが」
「……」
「怖かった」
それだけ。
本当に。
それだけ。
俺は。
何も言えなくなった。
男が。
笑う。
「情けないだろ」
「……いいえ」
自分でも。
驚くくらい。
すぐ。
出た。
「普通です」
男の目が。
少し。
揺れた。
「でも」
俺は続ける。
「だからって、今死んでいいにはならない」
「俺が死ねば」
「それ!」
また。
声。
大きくなる。
「死んで謝るな!」
全員。
静か。
俺。
自分でも。
何で。
そんな言葉が。
出たか。
分かった。
田中さん。
俺。
助けなかった。
逃げた。
忘れた。
自分を。
責めた。
でも。
死ねば。
終わる。
何も。
考えなくていい。
「生きて謝ってください」
男が。
俺を見る。
「誰に」
「知りませんよ!」
本当に。
知らない。
「政宗様かもしれない!」
「……」
「紬かもしれない!」
隣の紬。
少し。
顔を上げる。
「俺かもしれない!」
「お前に?」
「何か腹立つので!」
新八さんが。
「それは私怨だな」
と言った。
「今はいいでしょう!」
男が。
少し。
笑った。
でも。
その笑い。
すぐ。
消えた。
◇
「紬」
男が。
今の紬を見た。
紬の手。
俺の袖。
少し。
強くなる。
「何」
声。
冷たい。
男は。
しばらく。
言えなかった。
「俺は」
やっと。
言う。
「一度、お前を助けなかった」
紬が。
眉を寄せる。
俺も。
見る。
「どういう意味です」
男。
俺を見る。
「今の紬が」
「……」
「まだ名前もなく」
「……」
「道端で」
俺の胸。
冷える。
「腹を空かせていた頃」
紬の顔が。
固まる。
「見た」
「……」
「俺は見つけた」
俺。
何も。
言えない。
だって。
それ。
俺が。
紬を拾う。
前。
「じゃあ」
俺が。
ゆっくり聞く。
「あなた」
喉。
乾く。
「紬を見つけたのに」
男が。
頷く。
「何もしなかった」
腹。
熱くなる。
「何で」
「俺が関われば」
「……」
「未来が変わると思った」
頭。
真っ白。
「だから?」
「通り過ぎた」
俺は。
男の胸ぐらを。
掴んでいた。
自分でも。
気づかなかった。
「未来のせいにするな!」
男。
抵抗しない。
「紬が!」
声。
震える。
「腹減って!」
「……」
「一人で!」
「……」
「その後、売られて!」
「……」
「人買いに!」
男。
目。
閉じる。
「知ってる」
「知ってるなら!」
「だから」
男が。
静かに。
言った。
「死にに来た」
俺の手。
止まる。
本当に。
腹が立った。
「だから何で死ぬんですか!」
男。
少し。
驚く。
「それで謝ったことになると思ってるんですか!」
「……」
「紬は!」
俺は。
隣を見る。
でも。
止まった。
紬の代わりに。
俺が。
何を。
決める。
また。
やるところだった。
だから。
聞く。
「紬」
「何」
「怒ってます?」
「うん」
即答。
男の顔。
少し。
歪む。
紬は。
続ける。
「気持ち悪い」
「……」
「腹立つ」
「……」
「助けなかったくせに、死ねば済むと思ってるのも嫌」
男。
何も言えない。
紬は。
一歩。
前へ出る。
「でも」
少し。
間。
「私は、あんたに死んでほしいとは言ってない」
男が。
顔を上げる。
「……何で」
「知らない」
紬。
言う。
「まだ、そこまで考えてない」
それ。
すごく。
紬らしい。
今すぐ。
許さない。
でも。
今すぐ。
死ねとも。
言わない。
分からないまま。
置いておく。
◇
政宗が。
ずっと。
黙っていた。
そして。
ようやく。
言った。
「俺はお前を殺さぬ」
男が。
政宗を見る。
「なぜ」
「証拠がない」
即答。
「俺が死ねば」
「だから」
政宗の片目。
鋭い。
「証明しろ」
男が。
黙る。
「お前が死ねば未来が残る」
「……」
「拓真が増えなくなる」
「……」
「天下も紬も未来も残る」
政宗が。
少し笑う。
「ならば証明しろ」
「できる」
男が言った。
俺は。
見る。
「どうやって」
「明日の朝」
「……」
「城の東にある古井戸へ行け」
政宗の顔が。
少し。
変わる。
「古井戸?」
「ああ」
男が。
政宗を見る。
「お前が子供の頃」
少し。
笑う。
「俺と一緒に箱を埋めた」
政宗。
黙る。
「誰も知らない」
「……」
「小十郎も」
小十郎さんが。
少し。
目を細める。
「中には」
男が言う。
「お前が俺に渡したものが入ってる」
「何だ」
「見れば分かる」
政宗が。
嫌そうに。
笑う。
「俺に隠し事をするな」
「昔のお前にも言われた」
「何と」
「お前もするだろって」
政宗が。
少し。
笑った。
「俺らしい」
「子供の頃からですか!」
俺は。
本当に。
頭が痛い。
◇
翌朝。
東の古井戸。
使われていない。
草。
石。
土。
新八さんが。
掘る。
俺も。
手伝う。
少し。
紬も。
小十郎さんも。
政宗。
見てる。
「政宗様」
「何だ」
「手伝って」
「嫌だ」
「殿様!」
「命じた」
「権力!」
傷の男が。
少し。
笑った。
「昔も同じだった」
「俺が?」
「違う」
「政宗様が?」
「ああ」
「やっぱり!」
土。
掘る。
深く。
そして。
新八さんの手。
何か。
当たる。
木。
箱。
古い。
小さい。
取り出す。
全員。
見る。
政宗が。
蓋。
開ける。
中。
木札。
一枚。
古い。
子供の字。
政宗が。
拾う。
読む。
顔。
止まる。
「何て書いてあるんです」
政宗。
黙る。
俺。
覗く。
読めない。
小十郎さんが。
静かに。
読み上げた。
『神谷拓真を殺すな』
俺は。
止まった。
傷の男も。
目を閉じる。
政宗が。
木札を。
強く。
握る。
「俺が書いたのか」
「そうだ」
男が言う。
「お前が」
「覚えておらぬ」
「知ってる」
「なぜ」
「時間が変わったからかもしれない」
「またそれか」
政宗。
嫌そう。
でも。
木札。
本物。
らしい。
俺は。
ため息。
「子供の政宗様」
「何だ」
「まともですね」
「今もまともだ」
「それは審議!」
政宗。
睨む。
俺。
目。
逸らす。
その時。
紬が。
木札を。
指差した。
「裏」
全員。
見る。
裏。
文字。
もう一つ。
小十郎さんが。
読む。
『こいつを殺した時』
少し。
間。
『俺は伊達政宗ではなくなる』
誰も。
何も言わなかった。
政宗。
木札。
見る。
男。
政宗を見る。
俺は。
胸。
冷たい。
未来を残すには。
政宗が。
神谷拓真を殺す。
でも。
子供の政宗は。
殺すな。
殺したら。
自分じゃなくなる。
そう。
残した。
「政宗様」
俺が言う。
「何だ」
「どうします」
政宗は。
すぐには答えない。
珍しく。
長く。
黙った。
そして。
木札を。
男へ投げた。
「生きろ」
男が。
受け取る。
目。
揺れる。
「何」
「聞こえなかったか」
政宗が。
片目。
細める。
「俺はまだ伊達政宗でいたい」
男。
何も言えない。
俺も。
胸。
変。
熱い。
でも。
その瞬間。
木札。
男の手の中。
割れた。
ぱき。
小さい音。
二つに。
中から。
薄い紙。
落ちる。
俺が。
拾う。
現代日本語。
俺だけ。
読める。
一行。
――その判断で、五人死ぬ。
俺は。
息を止めた。
政宗が。
聞く。
「何と書いてある」
俺は。
紙を見る。
そして。
答えた。
「あなたが、この人を殺さなかったせいで」
喉。
乾く。
「五人死ぬって」
政宗の顔から。
笑みが。
消えた。




