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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第73話 屋根の上にいた女は、最初の千代だそうです

「今度は」


屋根の上の女が。


俺を見て。


笑った。


「私も助けてよ」


俺は。


何も答えられなかった。


月明かり。


長い髪。


細い体。


今の千代より。


少し年上に見える。


でも。


目元。


笑う時の。


少し困ったような顔。


似ている。


似てる。


でも。


違う。


「……千代まで増えるんですか!?」


結局。


最初に出た言葉が。


それだった。


新八さんが。


屋根の上を睨みながら言う。


「今さら一人増えたくらいで驚くな」


「麻痺するな!」


俺。


二人どころじゃない。


紬。


二人。


美月さん。


二人。


千代。


二人。


もう。


本当に。


紙に書いた方がいい。


嫌だけど。


「最初の千代って」


俺は。


志乃を見る。


「どういう意味です」


志乃は。


答えない。


いや。


答えられない。


顔。


青い。


屋根の女を。


怖がっている。


「志乃」


紬が。


低く呼ぶ。


「答えて」


「……一度目の」


志乃の声。


掠れている。


「一度目の世界で」


「世界?」


「美緒と」


紬の眉が。


動く。


「千代は、一緒に売られた」


空気。


重くなる。


俺は。


紬を見る。


今の紬。


あの夜。


言った。


千代を。


置いてきた。


よく泣く。


弱い。


帰りたいって。


泣く。


私より弱かった。


だから。


置いて逃げた。


ずっと。


後悔している。


「やっと会えたね」


屋根の女が言った。


紬を見る。


「美緒」


紬の顔が。


固くなる。


「私は紬」


「そうやって」


女が。


笑う。


「また逃げるんだ」


俺の胸が。


ざわついた。


「名前を変えて」


「……」


「知らないって顔して」


「……」


「自分は別人だからって」


紬が。


一歩。


前へ出た。


「別人だから」


声。


強い。


「私は、その時のこと知らない」


「でも覚えてるでしょう?」


「何を」


「私を置いて逃げたこと」


紬の顔が。


揺れた。


俺は。


すぐ。


分かった。


覚えている。


自分で。


話した。


千代を。


置いてきた。


でも。


それは。


今の紬の記憶なのか。


一度目の紬の記憶なのか。


もう。


分からない。


「やめてください」


俺が言った。


屋根の女が。


俺を見る。


「何を」


「今の紬に」


俺は。


隣の紬を見る。


「一度目の紬の罪を、全部背負わせるな」


女の顔から。


笑みが消えた。


「じゃあ」


静かな声。


「私が苦しんだことは?」


俺は。


止まった。


「誰が覚えてくれるの」


何も。


言えない。


「私は置いていかれた」


「……」


「泣いた」


「……」


「戻ってきてって言った」


「……」


「でも、美緒は戻らなかった」


紬の手が。


震える。


俺は。


その手を。


見た。


握る?


いや。


勝手に。


触っていい?


そんなこと。


一瞬。


考えてしまう。


情けない。


でも。


前なら。


たぶん。


すぐ。


握った。


守るつもりで。


今は。


少し。


待った。


紬が。


俺の袖を。


自分から掴んだ。


少しだけ。


俺は。


そのままにした。


「じゃあ」


屋根の女が。


俺を見る。


「今の紬は悪くない」


「……」


「一度目の紬はここにいる」


水車小屋の奥。


いない。


今夜は。


一度目の紬は来ていない。


「だったら」


女。


笑う。


「私は誰を恨めばいいの」


俺は。


答えられなかった。


本当に。


分からない。


今の紬へ。


過去の罪を。


背負わせるのは違う。


でも。


過去に傷ついた人へ。


もう終わったことだから。


忘れろ。


それも。


違う。


「分かりません」


俺は言った。


紬が。


俺を見る。


女も。


見る。


「また?」


女が聞く。


「はい」


「未来人なのに?」


「未来人を万能だと思うな!」


思わず。


言った。


新八さんが。


「そこでも言うのか」


と呟く。


「大事なんです!」


でも。


本当に。


分からない。


だから。


嘘は。


言いたくない。


「ただ」


俺は。


屋根の女を見る。


「今の紬を傷つけても、あなたが置いていかれた夜はなくならない」


女の目が。


細くなる。


「分かってる」


「じゃあ」


「分かってるから腹が立つの!」


叫んだ。


初めて。


声が。


壊れた。


「仕返ししても戻らない!」


「……」


「美緒を泣かせても、私が泣いた夜は消えない!」


「……」


「だから!」


女。


泣いていた。


「何をすればいいか、分からないんでしょう!」


俺は。


何も言えなかった。


たぶん。


この人も。


同じ。


怒りたい。


誰かを。


責めたい。


でも。


責めても。


何も戻らない。


それが。


一番。


苦しい。


     ◇


「その子は」


志乃が。


突然。


言った。


全員。


見る。


「最初の千代じゃない」


女の顔が。


止まる。


俺も。


止まる。


「え?」


「違う」


志乃は。


屋根の女を見る。


今度は。


震えながらも。


はっきり。


「お前は、一度目の千代じゃない」


女が。


笑った。


「知ってる」


俺は。


「知ってるの!?」


と叫ぶ。


もう。


本当に。


頼む。


先に言って。


「じゃあ誰なんです」


女は。


答えない。


志乃が。


代わりに。


言った。


「この時代の人間だ」


「じゃあ」


「美月に」


志乃。


赤い糸を見る。


「夢を見せられた」


胸。


冷える。


「夢?」


「一度目の千代の記憶」


女が。


静かに。


目を閉じる。


志乃は。


続ける。


「売られたこと」


「……」


「置いていかれたこと」


「……」


「泣いたこと」


「……」


「美緒を恨んだこと」


「……」


「全部」


俺は。


屋根の女を見る。


「植え付けられた?」


「たぶん」


女が答えた。


「たぶん?」


俺。


この言葉。


最近。


嫌いになりそう。


でも。


仕方ない。


「じゃあ」


俺は。


少し。


慎重に聞く。


「あなたは、本当の千代じゃないかもしれない?」


女が。


俺を見る。


「そうだよ」


「それでも」


「私は苦しんだと思ってる」


俺は。


黙る。


「夜が怖かった」


「……」


「お腹が空いた」


「……」


「美緒がいなくなった」


「……」


「戻ってこなかった」


紬が。


唇を噛む。


女が。


言った。


「これが偽物の記憶なら」


胸に。


手を置く。


「私が痛いのも偽物?」


俺は。


すぐに。


答えられなかった。


いや。


答えられない。


だって。


痛いと思ってる。


今。


苦しいと思ってる。


それは。


誰が。


偽物だって。


決める。


「……偽物じゃないです」


俺は。


やっと。


言った。


女の目が。


揺れる。


「でも」


続ける。


「その記憶が、誰のものかは分からない」


「ずるい答え」


「知ってます」


「嫌い」


「それも知ってます」


紬が。


横から。


「拓真、そういうのばっかり」


と言う。


「あなたもでしょう!」


「私はもっとはっきり言う」


「確かに!」


それは。


認める。


     ◇


「小鈴」


俺は。


少女を見る。


ずっと。


黙っていた。


「本当に自分で来たんですね」


小鈴が。


頷く。


「誰に言われた」


小鈴の目。


屋根の女へ。


向く。


「この人」


俺は。


息を吐く。


「何て」


小鈴の声。


小さい。


「小十郎様を助けたいなら」


「……」


「自分で選んで、ここへ来てって」


俺は。


少し。


腹が立った。


いや。


かなり。


でも。


怒鳴らない。


頑張る。


「それで?」


「来た」


「どうして」


「今度は」


小鈴。


拳を握る。


「脅されたからじゃなくて」


「……」


「自分で決めたかった」


胸。


刺さる。


前。


小鈴は。


脅されて。


俺の紙を盗んだ。


毒を飲まされた。


ずっと。


誰かに。


決められた。


だから。


今度は。


自分で。


「でも」


俺は言う。


小鈴が。


顔を上げる。


「選んだことと、正しいことは別です」


小鈴の顔が。


傷ついた。


分かる。


分かるけど。


言わないと。


「じゃあ」


小鈴の声。


震える。


「私はいつ、自分で決めていいの」


俺は。


言葉に詰まる。


「盗んだら駄目」


「はい」


「嘘ついたら駄目」


「はい」


「危ないところへ行ったら駄目」


「……」


「一人で決めたら駄目」


「そうは言って」


「じゃあいつ!」


泣いた。


小鈴。


立ち上がる。


「いつなら私が決めていいの!」


俺は。


何も言えなかった。


紬が。


俺を見る。


言え。


みたいな顔。


無理。


分からない。


でも。


言うしかない。


「たぶん」


俺は。


小鈴を見る。


「決めていいんです」


「え」


「でも」


息を吸う。


「俺たちも怒っていい」


小鈴が。


止まる。


「あなたが自分で決めた」


「……」


「それは本当」


「……」


「でも俺は、それであなたが死にそうになったら怒る」


「……」


「止める」


「……」


「喧嘩する」


小鈴。


涙。


落ちる。


「それでも決めていい?」


「はい」


俺は。


少し。


笑った。


「でも、決めた後に怒られることもあります」


紬が。


「拓真、毎日怒られてるしね」


と言った。


「今、俺の話いります!?」


小鈴が。


泣きながら。


少しだけ。


笑った。


それで。


いい。


たぶん。


正解。


じゃない。


でも。


それでいい。


     ◇


屋根の女が。


立ち上がった。


「つまらない」


俺は。


見上げる。


「何が」


「もっと苦しむと思った」


「十分苦しんでますよ!」


本当に。


胃。


痛い。


女が。


懐から。


紙を出した。


「これ」


落とす。


ひらひら。


俺の前。


俺は。


拾う。


現代日本語。


また。


嫌な予感。


読む。


『片倉小十郎が伊達政宗を殺す理由』


俺の背中が。


冷える。


紬が。


聞く。


「何て」


「小十郎さんが」


喉。


乾く。


「政宗様を殺す理由」


新八さんの顔が。


険しくなる。


紙。


裏。


ある。


俺は。


裏返す。


一行。


読んだ。


最初。


意味が。


分からなかった。


もう一度。


読む。


『神谷拓真が政宗になったから』


俺は。


止まった。


「……は?」


新八さんが。


「何と書いてある」


俺は。


紙を見る。


そして。


自分。


指差す。


「俺が」


一度。


息を吸う。


「政宗様になるから」


沈黙。


紬が。


ものすごく。


嫌そうな顔をした。


「似てない」


「そこ!?」


「全然」


「知ってますよ!」


新八さんまで。


「無理がある」


と言う。


「みんなで傷つけないで!」


でも。


笑えない。


未来。


俺が。


伊達政宗を名乗る。


だから。


小十郎さんが。


政宗を殺す。


つまり。


小十郎さんが殺すのは。


本当の政宗じゃない。


俺?


屋根の女が。


笑った。


「分かった?」


俺は。


見上げる。


「何を」


「片倉小十郎は」


月。


風。


赤い糸。


女が。


静かに。


言う。


「政宗を殺すんじゃない」


少し。


間。


「政宗になった、あなたを殺すの」


俺は。


何も。


言えなかった。


そして。


水車小屋の外から。


馬の蹄。


聞こえた。


一頭。


近づく。


新八さんが。


刀へ手をかける。


暗闇。


馬。


男。


片目。


俺は。


叫んだ。


「政宗様!?」


政宗が。


馬上から。


俺を見る。


そして。


言った。


「拓真」


「はい」


「明日から」


嫌な予感。


「お前を伊達政宗にする」


俺は。


本気で。


叫んだ。


「何で話を聞いてない本人が、一番早く未来を回収するんですか!」


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