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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第67話 政宗様は、天下も紬も未来も全部よこせと言いました

「天下も」


政宗が言った。


「紬も」


嫌な予感しかしない。


「未来も」


やめて。


お願いだから。


少し。


考えてから喋って。


「全部、俺によこせ」


俺は。


しばらく。


何も言えなかった。


それから。


頭を抱えた。


「だから!」


声が。


尼寺に響く。


「何でいつも、選択肢を増やすんですか!」


政宗が。


片眉を上げた。


「増やしておらぬ」


「増えてますよ!」


「全部取るだけだ」


「それを増やすって言うんです!」


天下を取る。


紬を生かす。


未来の日本も残す。


三つ。


どれか一つでも。


とんでもなく難しい。


なのに。


この人。


当然のように。


全部。


眼帯の本当の一人目が。


少し笑った。


「やっぱり、こいつは俺の知ってる政宗より欲深いな」


政宗が。


そちらを見る。


「不満か」


「いいや」


眼帯の俺は。


首を振った。


「羨ましい」


一瞬。


政宗の顔から。


笑みが消えた。


俺も。


何も言えなかった。


羨ましい。


たぶん。


眼帯の一人目には。


もう。


できない。


死んだ。


らしい。


紬を失った。


未来も失った。


政宗の天下さえ。


最後には壊れた。


だから。


今。


まだ何も失っていない俺たちが。


全部欲しいと言えることを。


羨ましいと。


思ったのかもしれない。


「なら」


政宗が言った。


眼帯の一人目を見る。


「教えろ」


「何を」


「お前の俺は」


政宗の声。


少し低くなる。


「天下を取ったあと、何を間違えた」


本堂が。


静かになった。


俺も。


眼帯の一人目を見る。


こいつは。


すぐには答えなかった。


しばらく。


右手で。


自分の眼帯へ触れる。


「急ぎすぎた」


やっと。


言った。


「何を」


「全部だ」


俺は。


思わず口を挟む。


「それ、説明になってません」


眼帯の俺が。


俺を見る。


「お前は黙ってろ」


「嫌です!」


「うるさい」


「それ、もう一人の俺にも言われました!」


傷のある二人目が。


少し嫌そうな顔。


ややこしい。


本当に。


もう。


眼帯。


傷。


俺。


そう呼び分けたい。


でも。


本人たちは。


全員。


神谷拓真。


嫌になる。


「政宗は天下を取った」


眼帯の一人目が。


話を続ける。


「戦が終わった」


「良いことじゃないですか」


「そう思った」


「違った?」


「いや」


少し。


笑う。


「良いことだった」


俺は。


止まった。


意外。


もっと。


天下を取ったせいで全部悪くなった。


そういう話かと思った。


「戦は減った」


「……」


「焼かれる村も減った」


「……」


「飢える民も」


「……」


「親を失う子供も」


一度目の紬が。


目を伏せる。


「だから」


眼帯の俺は言う。


「もっと良くしたくなった」


俺は。


何となく。


先が分かった。


「海運」


「ああ」


「印刷」


「ああ」


「衛生」


「ああ」


「教育」


「ああ」


「俺が?」


「お前が」


「無理です!」


即答した。


眼帯の俺が。


ため息をつく。


「俺も無理だった」


「ですよね!」


「喜ぶな」


「安心しただけです!」


本当に。


俺。


そんな知識ない。


船?


浮く。


紙?


木から作る。


たぶん。


衛生?


手を洗う。


教育?


学校。


この程度。


「だから」


眼帯の一人目が言う。


「人を集めた」


前にも。


聞いた。


でも。


今度は。


もっと具体的だった。


「船大工」


「……」


「鍛冶師」


「……」


「医者」


「……」


「薬草を知る老婆」


「……」


「紙漉き職人」


「……」


「寺の僧」


「……」


「南蛮帰りの商人」


「……」


「百姓」


俺は。


黙る。


「お前は何も作れなかった」


「何度も言わなくていいです!」


「だが」


眼帯の俺が。


今度は笑った。


「誰と誰を会わせれば、何かが生まれるかは分かった」


胸の奥。


少しだけ。


痛くなる。


会社。


営業。


電話。


謝る。


話を聞く。


人を繋ぐ。


調整する。


嫌われる。


また謝る。


俺が。


何度も。


意味がないと思った仕事。


「それで」


今の俺が聞く。


「国が変わった?」


「ああ」


「変わりすぎた」


眼帯の一人目は。


はっきり言った。


「俺たちは、百年かけて変わるはずだったものを」


少し。


間。


「十年で変えようとした」


俺は。


息を止めた。


「何で」


「良いことだと思ったからだ」


それ。


怖かった。


悪いことじゃない。


良いこと。


人が死なない。


腹が減らない。


病気が減る。


本が読める。


それを。


急いだ。


「でも」


眼帯の俺は。


政宗を見る。


「国は、人間ほど早く変われなかった」


政宗は。


黙っている。


「制度だけ変えた」


「……」


「道具だけ増えた」


「……」


「知識だけ広げた」


「……」


「だが、人の恨みも欲も恐れも」


少し笑う。


「そんなに早くは変わらなかった」


俺は。


何も言えない。


当たり前。


便利になっても。


人間。


急に。


聖人にはならない。


むしろ。


新しいものを。


誰が持つか。


誰が独占するか。


誰が奪われるか。


また。


揉める。


「つまり」


俺は聞いた。


「進歩させすぎたから、日本が消えた?」


「それだけじゃない」


「じゃあ何です」


「政宗が死んだあと」


眼帯の一人目が。


少し。


目を伏せる。


「誰も続けられなかった」


政宗の顔が。


変わる。


「何を」


「お前の天下を」


静か。


でも。


重い。


「全部が政宗に寄りすぎていた」


「……」


「全部が拓真に寄りすぎていた」


「……」


「二人がいなくなれば」


眼帯の俺は。


笑った。


「終わった」


俺は。


何も言えなかった。


それ。


会社でも。


あった。


一人しか。


分からない仕事。


一人が休んだら。


止まる。


田中さんが倒れた時。


佐々木課長は。


最初に。


引き継ぎを聞いた。


あの時。


腹が立った。


でも。


組織として。


誰か一人しかできない仕事は。


危ない。


「じゃあ」


俺は言った。


「進歩させなければ」


眼帯の一人目が。


俺を見る。


「政宗の天下は百年も持たない」


「また二択!」


本気で叫んだ。


「進めたら未来が消える! 進めなければ天下が続かない! 何なんです、この世界!」


政宗が。


静かに言った。


「なら」


俺は。


そちらを見る。


「何です」


「百年後の者に続きをやらせればよい」


眼帯の一人目が。


顔を上げた。


俺も。


止まった。


「……え」


政宗は。


当然のように。


言う。


「なぜ俺が全部やる必要がある」


俺は。


思わず。


口を開けた。


いや。


だって。


あなた。


全部欲しいって。


今。


言いましたよね?


「天下は取る」


「はい」


「戦も終わらせる」


「はい」


「だが」


政宗が。


俺たちを見る。


「俺が生きている間に、未来まで完成させねばならぬ理由はない」


眼帯の一人目が。


何も言えなくなった。


今の政宗は。


続ける。


「道だけ作る」


「……」


「次の者が、その道を進むか」


「……」


「別の道を選ぶか」


「……」


「それは」


政宗の片目が。


鋭くなる。


「そいつらが決めればよい」


俺は。


胸の奥。


何かが。


少し。


ほどけた気がした。


全部。


完成させない。


全部。


正解を渡さない。


未来の人間が。


選べる余地を残す。


「未来人」


眼帯の一人目が。


今の俺を見る。


俺は。


「何です」


と返す。


「聞いたか」


「聞きましたよ」


「俺たちは」


眼帯の俺が。


少し苦く笑う。


「未来を知っているつもりで、未来の答えまで決めた」


俺は。


何も言えなかった。


     ◇


「じゃあ」


今の紬が。


急に言った。


全員。


そちらを見る。


「私も聞いていい?」


眼帯の一人目が。


頷く。


「何だ」


紬は。


一度目の紬を見る。


次に。


眼帯の俺。


傷のある二人目。


そして。


聞いた。


「一度目の私を殺したのは、本当は誰」


空気が。


変わった。


俺も。


黙る。


今まで。


話が。


食い違っていた。


傷のある拓真が。


紬を斬った。


一度目の紬が。


拓真を斬った。


どっち。


眼帯の一人目は。


しばらく。


何も言わなかった。


俺は。


「禁止ですよ」


と言った。


「何が」


「知らない方がいい」


眼帯の俺が。


少し笑う。


「言わない」


「よし」


「どちらも本当だ」


俺は。


止まった。


今の紬も。


一度目の紬も。


何も言わない。


「同じ夜」


眼帯の一人目が言う。


「俺と紬は」


一度目。


息を吐く。


「互いを斬った」


本堂。


静か。


「何で」


今の紬が聞く。


「相手を生かすためだ」


今の紬が。


ものすごく。


嫌そうな顔をした。


「馬鹿じゃないの」


一度目の紬が。


小さく言った。


「うん」


俺は。


思わず。


「認めるんですか」


一度目の紬が。


俺を見る。


「今なら分かる」


「何が」


「馬鹿だった」


眼帯の一人目も。


「同感だ」


と言う。


俺は。


頭を抱えた。


「俺たち、本当に毎回それですね」


新八さんが。


「お前も気をつけろ」


と言った。


「分かってます!」


でも。


本当に。


気をつけたい。


相手を助けるために。


相手を傷つける。


そんな。


馬鹿なこと。


俺たちは。


何度も。


やっている。


     ◇


眼帯の一人目が。


俺を見る。


「拓真」


「はい」


「天下を取るなとは言わない」


「はい」


「紬を救うなとも言わない」


「はい」


「日本を残すなとも言わない」


「……はい」


「ただ」


声。


低い。


「一つだけ」


俺は。


黙って。


待った。


「未来の答えを」


眼帯の俺が言う。


「この時代の人間から奪うな」


胸。


刺さった。


俺は。


未来から来た。


知っている。


誰が勝つか。


誰が天下を取るか。


ある程度。


でも。


それを。


正解として。


この時代に。


押しつける。


それは。


違う。


たぶん。


「分かりました」


俺は言った。


「全部は」


正直に。


「まだ分かりません」


眼帯の一人目が。


少し笑う。


「それでいい」


その時。


政宗が。


立ち上がった。


嫌な予感。


俺は。


すぐに。


「何です」


と聞いた。


政宗が。


俺を見る。


片目。


きらきら。


ものすごく。


楽しそう。


「拓真」


「はい」


「明日から」


やめて。


本当に。


ちょっと。


休ませて。


俺。


今日だけで。


自分が何人いたかも。


分からないんですよ。


「天下を取るぞ」


俺は。


絶叫した。


「今日の話、何を聞いてたんですか!」


政宗は。


笑う。


「全部だ」


「嘘だ!」


「だから取る」


「何で!」


「天下を取り」


指を一本。


「紬を生かし」


もう一本。


「未来を残す」


三本目。


「そして」


俺を見る。


「未来の答えは、未来の者に決めさせる」


俺は。


何も言えなかった。


悔しい。


少し。


格好いい。


でも。


認めたくない。


「それで」


俺は。


嫌々聞いた。


「俺は何をすれば」


政宗の笑みが。


深くなった。


「まず」


嫌な予感。


本当に。


嫌な予感。


「兵糧を三倍にしろ」


俺は。


本気で。


叫んだ。


「未来人を万能だと思うな!」


眼帯の一人目が。


笑った。


傷のある二人目も。


笑った。


今の紬も。


一度目の紬も。


少し笑った。


そして。


政宗が。


いつものように。


言った。


「知っておる」


片目。


輝く。


「だから面白い」


俺は。


その場に。


座り込んだ。


本当に。


明日から。


天下を取るらしい。


いや。


その前に。


兵糧三倍。


そこから?


天下。


遠くない?


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