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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第61話 死んだはずの一度目の紬が、生きていました

「四人目の拓真」


少女は言った。


俺を見て。


「今度こそ」


少し笑って。


「私を殺して」


俺は。


何も言えなかった。


言えるわけがない。


だって。


少女の隣には。


紬がいる。


今の紬。


俺が道端で拾った。


飯を隠した。


よく怒る。


俺を馬鹿と呼ぶ。


たまに袖を掴む。


その紬と。


まったく同じ顔の少女が。


本堂の中に。


もう一人。


座っている。


「……気持ち悪い」


隣の紬が言った。


「ちょっと!」


俺は思わず叫んだ。


「もっと他にあるでしょう! 驚くとか、怖がるとか!」


「だって気持ち悪い」


「本人の前ですよ!」


すると。


座っていた方の紬が。


静かに言った。


「私もそう思う」


今の紬が。


眉を寄せる。


「何が」


「自分の顔が、もう一つある」


「……」


「気持ち悪い」


「そっちも言うんだ!」


俺だけが傷ついた。


いや。


俺が二人になった時も。


紬に。


気持ち悪いと言われた。


何だ。


これ。


顔が増えるたびに。


俺が傷つく仕組み?


「でも」


一度目の紬が。


今の紬を見る。


「私より少し痩せてる」


今の紬の顔が。


険しくなる。


「そっちは老けてる」


「おい!」


俺が叫ぶ。


一度目の紬は。


少し笑った。


「そうかも」


今の紬は。


逆に。


困った顔をした。


まさか。


素直に認められるとは。


思わなかったらしい。


本当に。


面倒だ。


自分同士。


俺も大概だったけど。


紬も。


たぶん。


大概だ。


その時。


後ろで。


音がした。


俺は振り向く。


一人目の俺。


立ったまま。


動けない。


顔。


真っ白。


右手。


震えている。


長い傷のある手。


一度目の紬を。


斬った手。


「……紬」


一人目の俺が呼んだ。


座っていた少女が。


そちらを見る。


長い。


長い。


沈黙。


一人目が。


また言った。


「紬」


少女は。


少しだけ。


顔を歪めた。


「二回呼ばなくても聞こえてる」


俺は。


息を止めた。


今の紬と。


言い方まで似ていた。


一人目の俺の目から。


また。


涙が落ちた。


でも。


近づかなかった。


近づけなかった。


「お前は」


声。


震えている。


「死んだ」


一度目の紬が。


頷いた。


「死んだよ」


「俺が」


「うん」


「斬った」


「うん」


「この手で」


「覚えてる」


一人目の俺が。


息を吸う。


うまく。


吸えていない。


「じゃあ」


俺が聞いた。


「何で生きてるんです」


一度目の紬が。


俺を見る。


「分からない」


「え」


「気づいたら、ここにいた」


「いやいや!」


俺は思わず。


前へ出た。


「そこ一番大事でしょう!」


「知らないものは知らない」


「紬と同じ!」


今の紬が。


俺を睨む。


「何が」


「そういうところ!」


一度目の紬が。


少しだけ。


笑った。


今の紬が。


その顔を見て。


さらに嫌そうな顔。


「本当に気持ち悪い」


「お互い様」


「似てる!」


俺が言うと。


二人同時に。


「うるさい」


と返された。


俺は。


黙った。


新八さんが。


後ろで。


ぼそっと言った。


「お前の敵が増えたな」


「紬を敵みたいに言わないでください!」


でも。


二人。


いる。


正直。


ちょっと怖い。


     ◇


一人目の俺が。


やっと。


一歩。


前へ出た。


一度目の紬の体が。


わずかに。


固くなる。


それを見て。


一人目は。


足を止めた。


「怖いか」


「うん」


即答だった。


一人目の顔が。


歪んだ。


でも。


一度目の紬は。


続けた。


「でも、それだけじゃない」


「……」


「腹も立ってる」


一人目が。


何も言えない。


「私を斬った」


「ああ」


「私が頼んだ」


「ああ」


「でも」


一度目の紬の目が。


冷たくなる。


「頼んだけど、許したとは言ってない」


一人目が。


完全に。


止まった。


俺も。


何も言えなかった。


その言葉。


重かった。


一人目の俺は。


きっと。


ずっと。


自分を責めてきた。


でも。


どこかで。


紬が頼んだから。


仕方なかった。


そう思おうとしたことも。


あったかもしれない。


俺なら。


たぶん。


そうする。


だって。


そうでもしないと。


生きられない。


でも。


本人が。


今。


目の前で。


言った。


頼んだ。


でも。


許してはいない。


「……そうか」


一人目の俺は。


それだけ言った。


一度目の紬が。


眉を寄せる。


「怒らないの」


「怒れるか」


「言い返さない?」


「何を」


「私が頼んだって」


「それでも」


一人目の俺は。


自分の右手を見る。


「斬ったのは俺だ」


一度目の紬が。


黙った。


俺も。


胸が痛くなった。


誰が正しい。


とか。


ない。


頼んだ。


斬った。


許さない。


でも。


憎み切れない。


たぶん。


そういう。


ものすごく。


面倒なもの。


     ◇


「聞いていい?」


今の紬が言った。


一度目の紬が。


見る。


「何」


「どうして政宗様を殺そうとしたの」


一度目の紬が。


少し。


黙る。


「拓真を助けるため」


「そっちの?」


今の紬が。


一人目の俺を指す。


「うん」


「それで」


今の紬は。


一度目の自分を見る。


「拓真は喜んだ?」


一度目の紬が。


止まった。


俺も。


一人目の俺を見る。


「喜ばなかった」


一度目の紬が言う。


「怒った?」


「うん」


「止めた?」


「うん」


「じゃあ」


今の紬が。


あっさり言った。


「あんたも勝手だったんじゃない」


空気。


凍った。


俺は。


心の中で。


うわ。


と思った。


一度目の紬の目が。


細くなる。


「何が分かるの」


「分からない」


「なら」


「でも腹が立つ」


「何で」


今の紬が。


自分と同じ顔を指差す。


「私と同じ顔で」


少し。


間。


「私ならやりそうなことしてるから」


俺は。


危うく。


笑いそうになった。


いや。


笑えない。


でも。


分かる。


ものすごく。


「あんた」


今の紬が続ける。


「拓真を助けたかったんでしょ」


「そう」


「だから政宗様を殺そうとした」


「そう」


「拓真が嫌がっても」


一度目の紬が。


黙る。


「それって」


今の紬は。


俺を見る。


次に。


一人目を見る。


また。


一度目の自分を見る。


「私一人が死ねばいいって言うのと、同じじゃない?」


一度目の紬の顔が。


変わった。


「違う」


「どこが」


「拓真を助けるため」


「だから」


今の紬の声が。


強くなる。


「自分で全部決めたんでしょ」


「……」


「拓真がどう思うかも」


「……」


「政宗様がどうなるかも」


「……」


「勝手に」


一度目の紬が。


睨む。


今の紬も。


退かない。


俺は。


二人の間に。


入ろうとした。


新八さんが。


俺の肩を掴む。


「やめておけ」


「でも!」


「お前が入れば悪化する」


「何で断言できるんです!」


「経験だ」


何の。


でも。


たぶん正しい。


     ◇


しばらく。


誰も話さなかった。


沢の音。


古い鐘。


風。


本堂の奥。


一度目の紬が。


やっと。


言った。


「……そうかも」


今の紬が。


少し驚く。


「何が」


「私も勝手だった」


一度目の紬は。


一人目の俺を見る。


「助けたかった」


「……」


「死んでほしくなかった」


「……」


「だから」


声。


少しだけ。


震える。


「拓真が何を望んでるか、見ないふりした」


一人目の俺が。


何も言えない。


一度目の紬が。


今の紬を見る。


「でも」


「何」


「今のあんただって」


少し。


笑う。


「同じことするかもよ」


今の紬は。


すぐに答えなかった。


それから。


「するかも」


と言った。


俺は。


思わず。


「そこは否定してくださいよ!」


二人の紬が。


同時に。


俺を見る。


怖い。


「でも」


今の紬が言う。


「今はしない」


「今は?」


「先は分からない」


俺は。


少しだけ。


笑った。


やっぱり。


似てる。


俺も。


言った。


今の俺は。


紬を斬りたくない。


でも。


絶対とは。


言えない。


     ◇


「それで」


俺は。


一度目の紬を見る。


「美月さんは、あなたをここに?」


「たぶん」


「殺そうとした?」


「違う」


俺は。


止まる。


「え」


「美月は」


一度目の紬が。


今の紬を見る。


「そっちを殺そうとしてない」


隣の紬が。


眉を寄せる。


「じゃあ誰」


一度目の紬が。


自分の胸へ。


指を置いた。


「私」


一人目の俺の顔が。


変わる。


「なぜだ」


「私が残ってるから」


「何が」


俺が聞く。


「残りもの」


一度目の紬が言う。


「一度目は終わった」


「……」


「二度目も終わった」


「……」


「三人目の拓真も死んだ」


「……」


「でも私は」


自分を見る。


「まだいる」


背中が。


冷える。


「つまり」


俺は。


ゆっくり。


言う。


「一度目の紬が残ってるせいで」


「時間が終われない」


一度目の紬が。


俺を見る。


「美月はそう言った」


「じゃあ」


今の紬が。


少し。


強い声で言う。


「私を殺すって話は嘘?」


「たぶん」


「たぶん!?」


俺が叫ぶ。


一度目の紬が。


俺を見る。


「美月は嘘を混ぜる」


「知ってます!」


「でも全部は嘘じゃない」


「それも知ってます!」


もう。


本当に。


美月さん。


何なんだ。


情報。


全部。


半分本当。


半分嘘。


一番嫌なやつ。


その時。


本堂の外から。


女の声がした。


「やっと」


全員。


振り向く。


声。


知っている。


現代。


会社。


非常階段。


俺を呼んだ。


女の声。


「四人とも揃った」


俺は。


息を止めた。


本堂の入口。


女が立っている。


長い髪。


細い体。


着物の上から。


一部だけ。


明らかに。


現代の服。


そして。


手首。


赤い糸。


俺は。


名前を呼んだ。


「……田中美月」


女が。


笑った。


優しい。


俺の記憶と。


同じ笑い方。


『兄のこと、覚えていてくれますか』


そう言った時と。


同じ。


「久しぶり」


美月さんが。


俺を見る。


次に。


一人目の俺。


一度目の紬。


今の紬。


「やっと揃った」


もう一度。


言う。


俺は。


喉が。


乾く。


「何が」


美月さんが。


笑ったまま。


答える。


「これで」


赤い糸。


指に巻く。


「神谷拓真を」


一人目の俺が。


俺の前へ出た。


美月さんは。


悲しそうに。


その姿を見る。


そして。


最後に。


言った。


「全部、殺せる」


その瞬間。


本堂の外で。


古い鐘が。


誰も触れていないのに。


鳴った。


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