↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/85

第57話 政宗を天下人にすると、日本が消えるそうです

「その結果、日本は消えた」


一人目の俺は、そう言った。


俺は政宗を見た。


政宗も俺を見ていた。


何だろう。


この気まずさ。


俺が天下を取らせたい。


本人も天下を取りたい。


でも、取ったら日本が消える。


俺も消える。


田中さんも。


美月さんも。


株式会社東都システム営業第二課も。


佐々木課長まで。


「……佐々木課長は別に消えても」


「拓真」


紬が呼ぶ。


「冗談です!」


本当に。


冗談。


たぶん。


いや、ちょっと本音。


でも今はどうでもいい。


「具体的に」


俺は一人目へ言った。


「日本が消えたって、どういうことです」


一人目が黙る。


「そこ、曖昧にしないでください」


「さっき話した」


「足りません」


「会社がない。東京も違う。日本という国もない」


「それだけじゃ分からない!」


俺は前へ出た。


「日本列島が沈んだんですか」


「違う」


「人類滅亡?」


「違う」


「じゃあ何です」


一人目は、少しだけ目を伏せた。


「島はあった」


「はい」


「人もいた」


「はい」


「町もあった」


「……はい」


「ただ」


嫌な間だった。


「俺の知る歴史じゃなかった」


部屋が静かになる。


「言葉も違った」


「日本語じゃない?」


「似た言葉は残っていた。だが、大陸の言葉や南蛮の言葉が混ざっていた」


「国は?」


「いくつかに分かれていた」


「戦争してたんですか」


「場所によっては」


俺は息を吐く。


頭の中に。


知らない日本列島を想像する。


東京がない。


新幹線もない。


コンビニも。


スマホも。


俺が知っている形では存在しない。


でも。


人はいる。


生きている。


笑ってる人も。


たぶん。


いる。


「……それって」


自分で言いながら。


怖くなった。


「本当に、不幸な未来なんですか」


一人目が俺を見る。


俺も。


自分で何を聞いたのか。


分かっている。


日本が消える。


その言葉だけ聞けば。


最悪だ。


でも。


そこに生きている人たちまで。


全員不幸なのか。


俺には分からない。


「拓真殿」


小十郎さんが言った。


「私も、それをお尋ねしたかった」


俺は振り向く。


「小十郎さん」


「その未来には、その未来の民がいるのでしょう」


「……はい」


「その者たちにとっては、そこが生まれた世です」


俺は。


答えられなかった。


「我々から見れば、未来の日本という国も、まだ存在しない国です」


「そう、ですね」


「では」


小十郎さんは静かに言う。


「まだ存在しない国を守るため、今ここにいる者たちが何を諦めるべきなのか」


胸に刺さった。


正しい。


ものすごく。


「それは」


言葉が出ない。


一度目の俺が。


少し苦く笑う。


「分かるだろ」


「何が」


「俺もそこで止まった」


「……」


「日本を守るのが正しいと思った」


「……」


「でも」


一人目が政宗を見る。


「じゃあ政宗に天下を諦めろと言えるのか」


政宗は何も言わない。


「今ここにいる兵に」


「……」


「民に」


「……」


「お前たちは、何百年後かに神谷拓真という男が生まれるために、今のままの歴史を生きろと言えるのか」


俺は。


拳を握った。


言えない。


そんなの。


言えるわけがない。


でも。


「だからって」


声が震えた。


「俺が生まれなくてもいいって、簡単に言えます?」


誰も答えなかった。


俺は笑った。


情けない。


でも。


もう格好つける余裕なんてない。


「無理ですよ」


言った。


「俺、生まれたいですよ」


紬が俺を見る。


「今もう生まれてる」


「そういう意味じゃなくて!」


「分かってる」


なら言うな。


でも。


少し助かった。


「俺が生まれる未来を守りたい」


ゆっくり言う。


「それって、正義じゃないかもしれない」


「……」


「何百年後の一人の男のために、今の世界を縛るなんて」


「……」


「ただの身勝手かもしれない」


「身勝手でいいんじゃない」


紬だった。


俺は振り向く。


「え」


「生まれたいんでしょ」


「……はい」


「じゃあ、そう言えばいい」


「でも」


「私も死にたくない」


紬は。


あっさり言った。


「一度目も二度目も死んだって言われたけど」


一人目の俺を見る。


「私は死にたくない」


「……」


「私が生きたいのも、身勝手?」


俺は。


答えられなかった。


紬が続ける。


「千代も生きたい」


「はい」


「小鈴も」


「はい」


「拓真も」


「……はい」


「みんな身勝手」


「言い方」


「でも本当」


紬は俺を見る。


「大勢のためなら、自分が消えてもいいって言える人の方が立派かもしれない」


「……」


「でも私は嫌」


迷いがなかった。


「私は、私が消えるの嫌」


俺は。


少しだけ笑った。


「本当に正直ですね」


「拓真に言われたくない」


「それはそう」


     ◇


「ところで」


俺は一人目を見る。


「一つ、確認したいです」


「何だ」


「俺、そんなに歴史を変えるほどの知識ないですよ」


一人目の眉が。


少し動く。


「本当に」


俺は両手を広げる。


「発電所作れません!」


「知ってる」


「蒸気機関も!」


「知ってる」


「抗生物質も!」


「知ってる」


「じゃあ何で日本が消えるほど歴史変わるんです!」


政宗が。


少し笑った。


「お前は前にも電気を作れなかったな」


「蒸し返すな!」


一人目の俺が。


ため息をついた。


「あのな」


「はい」


「俺も知識はなかった」


「ですよね!」


「威張るな」


「だって安心したから!」


「だから人を集めた」


俺は止まった。


「……人?」


「ああ」


「誰を」


「船に詳しい奴」


「……」


「紙に詳しい奴」


「……」


「薬草を知っている奴」


「……」


「田畑を知っている百姓」


「……」


「鍛冶師」


「……」


「商人」


「……」


「学者」


一人目は。


俺を見た。


「俺は何も作れなかった」


声。


少しだけ。


昔を懐かしむようだった。


「だから、知っている奴を探した」


俺は。


黙る。


「話を聞いた」


「……」


「誰と誰を会わせればいいか考えた」


「……」


「喧嘩したら間に入った」


「……」


「金が足りなければ政宗に無茶を言った」


政宗が言う。


「俺に?」


一人目が即答した。


「あんたは未来でも過去でも金を出し渋る」


「無礼だな」


「事実です!」


俺も。


思わず一人目に同意した。


政宗が。


俺たち二人を睨む。


ちょっと楽しい。


いや。


今はそんな場合じゃない。


「つまり」


俺は言った。


「俺が何かを発明したんじゃない」


「ああ」


「人を繋いだ?」


「ああ」


「俺が?」


「ああ」


「営業しかできない俺が?」


一人目の俺が。


少し笑った。


「営業しかできないからだ」


胸の奥が。


変な感じになった。


会社では。


俺の仕事なんて。


誰でもできると思っていた。


電話。


謝る。


話を聞く。


調整する。


頭を下げる。


また謝る。


でも。


それが。


歴史を変えた?


変えすぎて。


日本が消えた?


「喜べませんね!」


「俺もだ」


「そこは同じなんだ」


「俺だからな」


また。


嫌になる。


     ◇


政宗が。


一人目へ聞いた。


「では」


一人目が見る。


「俺が天下を取り」


「……」


「拓真の知る日本も残す」


「……」


「その道は、本当にないのか」


一人目の俺は。


一秒も迷わなかった。


「ない」


俺は。


腹が立った。


「即答するな!」


「二度試した」


「二回で全部分かった顔するな!」


「一度目で紬を失った」


「……」


「二度目で政宗を殺した」


「……」


「未来へ戻れば日本が消えていた」


「……」


「まだ足りないか」


言葉が。


詰まる。


でも。


その時。


「あるよ」


声がした。


全員。


振り向く。


戸口。


鈴音。


立っている。


小さな体。


不安そうな目。


「鈴音?」


俺が呼ぶ。


鈴音は。


ゆっくり部屋へ入った。


一人目の俺が。


険しい顔をする。


「何がある」


「道」


「何の」


鈴音が。


政宗を見る。


次に。


俺を見る。


「政宗様が天下を取って」


「……」


「紬も死ななくて」


「……」


「日本も消えない道」


俺は。


息を止めた。


一人目の俺が。


強い声で言う。


「嘘だ」


鈴音が。


肩を震わせる。


「夢で見た」


「美月に見せられた夢だろ」


「うん」


「なら信じるな!」


珍しく。


一人目が。


感情をむき出しにした。


鈴音が。


涙目になる。


俺は。


思わず間へ入った。


「待ってください」


「どけ」


「嫌です」


「そいつの記憶は美月が作った」


「かもしれない!」


「なら」


「だからって全部嘘とも限らない!」


一人目が。


俺を睨む。


俺も。


睨み返す。


鈴音が。


小さな声で言った。


「四度目」


俺たちは。


止まった。


「……何です?」


鈴音が。


俺を見る。


「夢の中で、美月が言った」


「何て」


「一度目は、紬が死んだ」


一人目の顔が。


固くなる。


「二度目は、政宗様が死んだ」


「……」


「三度目は」


鈴音が。


今の俺を見る。


「今」


部屋から。


音が消えた。


俺の喉が。


乾く。


「じゃあ」


声が。


震えた。


「四度目は?」


鈴音は。


答えた。


「誰も死ななかった」


俺は。


何も言えなかった。


一人目の俺が。


青ざめている。


政宗が。


初めて。


笑わなかった。


鈴音は。


さらに続けた。


「美月が言ってた」


「何を」


「四度目だけは」


小さな声。


「神谷拓真が、伊達政宗に会わなかったから」


俺の心臓が。


止まりそうになった。


今の俺は。


もう。


会っている。


とっくに。


政宗のそばにいる。


紬もいる。


歴史も。


変え始めている。


じゃあ。


四度目は。


もう。


選べない?


その時。


鈴音が。


首を振った。


「違う」


「何が」


「四度目は、未来の話じゃない」


俺は。


眉を寄せた。


鈴音が。


俺を見た。


「もう始まってる」


背中が。


冷たくなった。


「……どういう意味です」


鈴音は。


静かに。


言った。


「今いる拓真は」


少し。


間。


「三人目じゃないから」


誰も。


動かなかった。


俺は。


やっと。


声を出した。


「じゃあ」


喉が。


震える。


「俺は何人目なんですか」


鈴音は。


俺を見たまま。


答えた。


「四人目」


一人目の俺が。


立ち上がった。


「そんなはずはない」


鈴音は。


首を振った。


「あるよ」


そして。


最後に。


言った。


「三人目の神谷拓真は、もう死んでるから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。