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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第55話 二度目の俺は、伊達政宗を殺したそうです

「二度目は」


一人目の俺は、自分の右手を見つめたまま言った。


「俺が、政宗を殺した」


誰も動かなかった。


政宗本人さえ。


しばらく。


何も言わなかった。


俺は、一人目の俺を見る。


次に、政宗を見る。


生きている。


当然だ。


今の政宗だ。


二度目の政宗じゃない。


分かっている。


分かっているのに、急に確認したくなった。


「政宗様」


「何だ」


「生きてます?」


「見れば分かるだろう」


「ですよね」


「何を確認しておる」


「いや、何かもう、誰が何回死んだとか俺が何人いるとか、分からなくなってきて!」


新八さんが腕を組んだまま言った。


「とりあえず今のお前は一人だ」


「そこから確認しなきゃならない人生、嫌すぎるでしょう!」


紬が。


ほんの少しだけ。


笑った。


でも。


一人目の俺は笑わなかった。


政宗が、そいつを見る。


「お前が俺を殺した」


「ああ」


「どのように」


「殿!」


小十郎さんが、珍しく少し強い声を出した。


政宗が片眉を上げる。


「何だ」


「そこまで詳しくお聞きになる必要はありません」


「俺の死に方だぞ」


「だからです」


「気になる」


「知ってどうなさるのです」


「避ける」


「もっともらしいことを仰らないでください」


俺は思わず、小十郎さんを見た。


すごい。


この人。


主君に対して普通に言った。


政宗も。


少し不満そうだ。


「では」


政宗が一人目へ聞く。


「なぜ殺した」


一人目の俺は。


少し。


黙った。


「紬を救うためだ」


紬が。


顔を上げた。


俺は。


何も言えなかった。


また。


紬。


また。


救うため。


また。


誰かが死ぬ。


「一度目で」


一人目が言う。


「俺は紬を殺した」


声は静かだった。


「その後、未来へ戻った」


「どうやって戻ったんです」


俺が聞く。


「今は言えない」


「またかよ!」


「怒鳴るな」


「怒鳴りたくもなりますよ!」


「昔から短気だな」


「自分でしょう!」


やっぱり腹が立つ。


本当に。


自分と話すの。


向いてない。


一人目は、少しだけ目を伏せた。


「未来へ戻ってからも、紬のことが頭から消えなかった」


部屋が静かになる。


「飯を食う時も」


一人目が続ける。


「寝る時も。会社へ行く時も。道を歩く時も」


俺は。


その声を聞いていた。


「急に思い出すんだ」


「何を」


俺が聞いた。


一人目は。


少し笑った。


「どうでもいいことを」


紬を見る。


「飯を隠したこと」


紬の顔が。


少し変わった。


今の紬も。


やった。


明日のために。


握り飯を隠した。


「俺が見つけて」


一人目が言う。


「それ、明日の分ですかって聞いた」


俺は。


息を止めた。


同じ。


俺も言った。


「紬は怒った。勝手に見るなって」


紬が。


小さく。


「……私も言った」


と呟く。


一人目が。


ほんの少し。


笑った。


「知ってる」


今の紬が。


怪訝な顔をする。


一人目は。


すぐに笑みを消した。


「そういうのばかり思い出した」


「だから戻った?」


俺が聞く。


「ああ」


「もう一度やり直すために?」


「ああ」


「紬を救うため」


「ああ」


俺は。


少し。


腹が立った。


何にか。


分からない。


たぶん。


一人目に。


たぶん。


自分に。


「それで」


俺は言った。


「二度目では、政宗様に近づかなかった?」


一人目が。


俺を見る。


「そうだ」


「何で分かるんです」


「今の俺ならそうするからです」


一人目の目が。


少し動いた。


俺は続けた。


「一度目で、政宗様を天下人にしようとして紬が死んだ。だったら二度目は、政宗様に関わらなければいいって考える」


「……」


「未来の知識も渡さない。戦にも関わらない。紬を見つけたら」


俺は。


紬を見る。


「連れて逃げる」


一人目が。


小さく笑った。


「本当に同じだな」


その言葉。


嫌だった。


「でも」


一人目が言う。


「紬は逃げなかった」


今の紬が。


眉を寄せる。


「何で」


「俺に言ったんだ」


一人目の声が。


少しだけ。


柔らかくなった。


「逃げるのはあんたの選択でしょ」


紬の顔が。


止まった。


一人目は。


続ける。


「私の選択まで勝手に決めないで」


俺は。


思わず。


今の紬を見る。


紬も。


俺を見た。


「言いそう」


俺が言う。


「言う」


紬が答えた。


「ですよね」


「うん」


一人目が。


そのやり取りを見て。


目を伏せた。


痛そうな顔だった。


「二度目の紬も」


一人目が言う。


「政宗と関わった」


「どうして」


俺が聞く。


「自分で選んだからだ」


「……」


「俺は止めた」


「でしょうね」


「怒鳴った」


「でしょうね」


「喧嘩した」


「ものすごく分かる」


紬が俺を睨む。


「何」


「いや、現在進行形で経験してるので!」


一人目が。


少しだけ。


笑った。


「それでも、紬は行った」


「政宗様のところへ?」


「ああ」


「それで」


俺は。


嫌な予感がした。


「二度目の政宗様も、天下を目指した?」


一人目は。


頷いた。


「一度目より早く」


政宗の片目が。


少し光った。


「ほう」


俺が叫ぶ。


「喜ぶな!」


「なぜだ」


「二度目のあなた、もうすぐ俺に殺される話ですよ!」


「まだ殺されておらぬ」


「今のあなたはね!」


本当に。


この人。


自分の死まで他人事みたいに面白がる。


一人目は。


そんな政宗を。


長く見ていた。


「二度目の俺は」


言う。


「思ったんだ」


「何を」


「政宗が天下を取らなければ、紬は死なない」


部屋が。


静かになる。


俺も。


一瞬。


そう思ったことがある。


いや。


今でも。


頭のどこかにある。


天下を取った政宗が紬を殺す。


そう書かれていた。


なら。


天下を取らせなければ。


「だから」


一人目が。


右手を握る。


「殺した」


政宗は。


何も言わない。


小十郎さんの顔は。


読めなかった。


愛姫様は。


膝の上で。


指を強く握っている。


「それで」


俺は。


聞きたくなかった。


でも。


聞いた。


「紬は?」


一人目は。


答えなかった。


その沈黙で。


分かってしまった。


「死んだ?」


一人目が。


目を閉じる。


「ああ」


今の紬が。


息を止めた。


俺は。


胸の奥が。


冷たくなった。


「何で」


一人目が。


首を振る。


「何で政宗様を殺したのに」


声が。


大きくなる。


「何で紬が死ぬんです!」


「俺も聞いた」


「誰に!」


「誰にも答えられなかった!」


初めて。


一人目が怒鳴った。


俺と。


同じ声。


でも。


俺よりずっと。


壊れた声だった。


「一度目と違うことをした!」


一人目が。


拳を床につく。


「政宗に近づかなかった!」


「……」


「未来のことも教えなかった!」


「……」


「紬だけを連れて逃げようとした!」


「……」


「それでも紬は戻った!」


息が。


荒い。


「だから今度は政宗を止めた!」


「……」


「殺した!」


一人目の声が。


震える。


「それでも死んだんだよ!」


誰も。


何も言えなかった。


一人目の俺が。


顔を伏せる。


「何を変えても」


小さい声。


「紬は死んだ」


今の紬が。


一人目を見る。


何も。


言えない。


怖いだろう。


自分が。


何をしても。


死ぬと言われている。


「だから」


一人目は。


今の俺を見る。


「お前も同じだ」


俺は。


歯を食いしばった。


「同じじゃない」


「二度目の俺もそう言った」


「知るか!」


叫んだ。


「一度目も二度目も知りませんよ!」


一人目が。


俺を見る。


「お前は紬を助けられない」


「決めるな!」


「二度失敗した」


「だから何だ!」


「俺はお前だ!」


「違う!」


部屋が。


静まり返った。


俺は。


自分でも驚くくらい。


はっきり言った。


「あなたは俺じゃない」


一人目の顔が。


少し。


揺れた。


「同じ顔でも」


俺は続ける。


「同じ記憶があっても」


「……」


「今ここで考えてる俺と、あなたは違う」


「それは逃げだ」


「そうかもしれない!」


「お前も同じ結末になる」


「それでも!」


俺は。


紬を見る。


怖そうな顔。


でも。


逃げていない。


俺のそばにいる。


「今の紬まで死ぬって、勝手に決めるな!」


一人目が。


何も言えなくなった。


長い。


沈黙。


その時。


紬が。


小さく。


「私も」


と言った。


全員が見る。


「死ぬって決められるの嫌」


一人目が。


紬を見る。


「二回死んだんでしょ」


「ああ」


「でも」


紬は。


少し。


怖そうに。


それでも。


一人目を見る。


「私は、その二人じゃない」


一人目の顔が。


歪んだ。


嬉しいのか。


痛いのか。


分からない。


たぶん。


両方だった。


     ◇


「では」


政宗が言った。


静かな声。


「二度目の紬は、誰に殺された」


一人目の俺が。


固まった。


俺も。


そちらを見る。


「政宗様じゃない」


俺が言う。


「あなたでもない?」


一人目は。


答えない。


嫌な予感。


ものすごく。


「誰です」


一人目が。


目を閉じた。


「女だ」


背中が。


冷えた。


「もう一人の未来人?」


一人目は。


頷いた。


部屋の空気が。


変わる。


「その女が」


俺の声。


震える。


「二度目の紬を殺した?」


「ああ」


「何で」


「俺を止めるためだ」


「政宗様を殺したあなたを?」


「ああ」


「誰なんです」


一人目は。


長く黙った。


俺は。


待った。


今度は。


逃がしたくなかった。


「東都システムの社員なんでしょう」


一人目の眉が。


わずかに動く。


「俺と同じ会社」


「……」


「写真に社員証が写っていた」


「……」


「名前に『田』がある」


「……」


「田中さんと関係がある」


一人目の手が。


震えた。


俺は。


初めて。


確信した。


知っている。


この人は。


その女を。


ものすごく。


深く。


知っている。


「教えてください」


俺が言う。


「名前を」


一人目は。


首を振った。


「思い出さない方がいい」


「勝手に決めるな」


俺は。


さっき。


紬が言った言葉を使った。


一人目が。


俺を見る。


「知りたいです」


「後悔するぞ」


「それでも」


一人目は。


長く。


長く。


黙った。


そして。


最後に。


言った。


「田中美月」


俺の心臓が。


大きく。


鳴った。


田中。


美月。


知らない。


はず。


なのに。


その名前を聞いた瞬間。


頭の奥で。


何かが。


割れた。


白い蛍光灯。


会社の廊下。


誰かの笑い声。


女の声。


『神谷さん』


俺は。


息を止めた。


一人目が。


俺を見ていた。


「思い出すな」


遅かった。


頭の中。


誰かが。


振り返る。


長い髪。


社員証。


笑う口元。


そして。


俺に言う。


『田中です。田中美月』


俺は。


その場に。


膝をついた。


知っている。


俺は。


田中美月を。


知っていた。


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