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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第53話 一人目の俺は、紬を見ただけで泣きました

「……生きてる」


一人目の俺は、そう言った。


それから。


泣いた。


本当に。


一滴だけ。


右の頬を、涙が流れた。


俺は何も言えなかった。


紬も。


戸口に立ったまま動かなかった。


自分と同じ顔をした男が泣いている。


しかも、その男は一度目の紬を斬った。


らしい。


そして今。


今の紬を見ただけで泣いた。


何なんだ。


これ。


あまりにも状況が気持ち悪い。


俺がそう思っていると、紬が言った。


「……気持ち悪い」


「言った!」


思わず叫んだ。


「今、俺も同じこと思ってたけど、本人を前に言う!?」


「だって」


紬は俺と、一人目の俺を交互に見る。


「同じ顔が二つある」


「そこ?」


「声も同じ」


「はい」


「でも、片方はうるさい」


「どっちです?」


紬は俺を指差した。


「こっち」


「迷いがない!」


一人目の俺が。


ほんの少しだけ。


笑った。


それを見て。


また。


気持ち悪くなる。


自分が。


自分の知らない笑い方をしている。


いや。


本当は。


俺もいつか。


こんな笑い方をするのか?


「紬」


一人目が呼んだ。


紬の顔が固まる。


「その名前で呼ばないで」


一人目の俺は黙った。


「何で」


紬が言う。


「あんたに呼ばれると」


少し。


言葉を探す。


「嫌」


一人目の顔が。


わずかに歪んだ。


でも。


怒らなかった。


「そうか」


それだけ。


「それでいい」


紬の眉が動く。


「何が」


「俺を嫌え」


「は?」


「怖がれ」


俺は。


腹が立った。


「勝手に決めるな」


一人目が俺を見る。


同じ顔。


でも。


目が。


冷たい。


「何を」


「紬が何を思うかですよ」


俺は言った。


「嫌えとか、怖がれとか、あなたが決めることじゃないでしょう」


一人目は。


しばらく。


俺を見る。


「お前は」


声。


低い。


「何も知らないから、そんなことが言える」


「じゃあ教えろ!」


俺も。


すぐに言い返した。


「さっきからそればっかりでしょう!」


「……」


「言えない」


指を一本。


「教えられない」


もう一本。


「知ったら同じことをする」


三本目。


「それで最後は、俺を止める」


手を広げる。


「だったら、何も分からないでしょうが!」


一人目の俺が。


目を細めた。


「知らない方がいいこともある」


「それ、知ってる人間が言うから腹立つんですよ!」


「俺も昔はそう言った」


「またそれか!」


本当に。


腹が立つ。


俺が何を言っても。


俺もそうだった。


俺も同じことを言った。


その返し。


ずるい。


反論できない。


だって。


同じ俺。


らしいから。


でも。


紬が。


俺たち二人を見ながら。


ぼそっと言った。


「やっぱり同じ」


俺と一人目が。


同時に振り向いた。


「どこが!」


重なった。


沈黙。


紬が。


少しだけ。


笑った。


「そこ」


最悪だった。


     ◇


しばらくして。


紬が。


一人目へ聞いた。


「ねえ」


「何だ」


「あんたが」


一瞬。


言葉を止める。


「一度目の私を斬ったの?」


空気が。


変わった。


さっきまでの。


少しだけあった笑いが。


消えた。


一人目は。


紬を見る。


今度は。


泣かなかった。


「そうだ」


短い。


逃げない。


俺は。


紬を見る。


紬の顔。


怖い。


本当に。


怖がっている。


一歩。


下がった。


一人目は。


動かなかった。


追わない。


「それでいい」


また。


言った。


紬が。


「何が」


「俺を怖がれ」


俺は。


また腹が立った。


でも。


今度は。


言葉が出なかった。


紬本人が。


怖がっている。


それは。


事実。


「私」


紬が聞く。


「自分から頼んだの?」


一人目の俺は。


少し。


黙った。


「頼んだ」


「殺してって?」


「ああ」


紬の指が。


少し震えた。


本人は。


気づいているのか。


分からない。


「何で」


一人目は。


答えない。


「何で私が」


紬の声。


少し強くなる。


「自分から殺してって頼んだの」


答えない。


「言って」


「言えない」


「何で」


「今のお前に」


一人目が。


紬を見る。


「背負わせる必要はない」


紬の顔が。


変わった。


怒った。


「何それ」


「紬」


「今のお前には関係ないって?」


「そうだ」


「勝手」


俺は。


驚いた。


さっき。


俺が。


同じようなことを言われた。


紬が。


一人目を睨む。


「今のお前に関係ない。知らなくていい。俺を怖がれ」


一歩。


前へ出る。


「何であんたが決めるの」


一人目が。


黙る。


「一度目の私が死んだ」


「そうだ」


「私と同じ顔」


「……」


「同じ名前かもしれない」


「……」


「同じ過去かもしれない」


紬が。


自分の胸を指す。


「だったら私が知りたいって思うのは、私の勝手でしょ」


一人目は。


何も言えなかった。


俺は。


少し。


笑いそうになった。


ざまあみろ。


いや。


自分の顔に。


ざまあみろも何もない。


でも。


ちょっとだけ。


すっきりした。


「何」


一人目が俺を見る。


「いや」


「笑ったか」


「笑ってません」


「嘘が下手だな」


「知ってますよ!」


     ◇


その時。


廊下から。


足音。


新八さん。


たぶん。


「拓真?」


声。


紬じゃない。


男。


新八さん。


一人目が。


立ち上がった。


「行く」


俺は。


「待ってください」


と止めた。


「何だ」


「今さら帰すと思います?」


「お前に止められるのか」


「……」


言われた。


痛い。


剣。


使えない。


足。


遅い。


よく転ぶ。


「新八さん呼びますよ」


「卑怯だな」


「現代人なんで!」


一人目が。


少し笑った。


でも。


その時。


紬が言った。


「あんた」


一人目が止まる。


「本当に」


紬の声。


低い。


「私を救わないの?」


前に。


一人目は言った。


今度は。


紬を救わない。


一人目の背中が。


固くなる。


「そうだ」


「何で」


「救えば」


少し。


間。


「また同じことになる」


「何が」


答えない。


紬が。


苛立つ。


「また言わない」


「言えない」


「卑怯」


その言葉。


一人目の俺に。


深く刺さったように見えた。


俺にも。


刺さった。


同じ顔だからか。


何だか。


自分まで責められた気分になる。


「なら」


一人目が。


ゆっくり。


振り向いた。


「一つだけ言う」


俺も。


紬も。


黙る。


一人目の顔。


今度は。


本当に。


笑っていない。


「一度目のお前は」


紬を見る。


「政宗を殺そうとした」


部屋。


静か。


俺は。


意味を理解するまで。


少し時間がかかった。


「……は?」


声が出た。


紬も。


何も言えない。


「誰が」


俺が聞く。


「紬が」


「嘘だ」


即答した。


でも。


一人目は。


俺を見る。


「俺もそう言った」


また。


その言葉。


「誰かに操られたんでしょう」


「違う」


「脅された?」


「違う」


「騙された?」


「違う」


「じゃあ!」


一人目が。


俺を睨む。


「自分の意思だ」


俺は。


何も言えなかった。


紬が。


かすれた声で。


「私が?」


「ああ」


「政宗様を?」


「ああ」


「殺そうとした?」


「そうだ」


紬の顔から。


色が消える。


俺は。


何となく。


紬の前に出た。


一人目が。


それを見る。


「同じだな」


「何が」


「昔の俺も」


一人目が言う。


「そうやって紬の前に立った」


俺は。


腹が立った。


「だから何です」


「最後には斬った」


胸。


痛い。


でも。


退かなかった。


「今の俺は違う」


「今はな」


「それでも」


俺は。


一人目を見る。


「今は違う」


一人目が。


黙った。


     ◇


「待って」


紬が言った。


俺の後ろから。


「何で私は政宗様を殺そうとしたの」


一人目は。


目を閉じた。


「言えない」


「また」


「それだけは」


声。


少し。


震えた。


「お前に言えない」


紬が。


俺の横へ出る。


「じゃあ誰なら聞いていいの」


「誰も」


「拓真も?」


「駄目だ」


俺は。


「俺本人なんですが」


と言った。


「三人目だろ」


「最近その言葉、嫌いです!」


一人目の口元が。


少し動いた。


本当に。


自分。


こんな時でも。


そういう返しするんだ。


嫌になる。


「もう一つ」


俺は言った。


「二人目は?」


一人目の顔。


変わる。


「偽田中のそばにあった紙には、二人目の俺はまだ生きてるって」


沈黙。


「政宗様のすぐそばにいるって」


一人目が。


小さく。


笑った。


「嘘だ」


「何で分かる」


「俺が殺したからだ」


俺は。


止まった。


「……誰を」


「二人目の神谷拓真を」


何だ。


それ。


頭が。


追いつかない。


「あなたが?」


「ああ」


「俺を?」


「二人目を」


「同じでしょう!」


「違う」


「何が!」


「違うんだ」


一人目の声が。


急に。


強くなった。


「一人目も、二人目も、お前も」


俺を見る。


「同じ神谷拓真だ」


少し。


間。


「でも同じ人間じゃない」


俺は。


何も。


言えなかった。


紬も。


一人目を見る。


「じゃあ」


俺は。


やっと聞いた。


「紙を書いた女は」


「信じるな」


即答。


「もう一人の未来人?」


「ああ」


「あなたを未来へ帰した人でしょう!」


「そうだ」


「同じ会社の人?」


一人目は。


黙る。


「田の字が入ってた」


さらに。


黙る。


「誰なんです」


一人目が。


ゆっくり。


俺を見る。


「お前が一番」


声。


低い。


「思い出してはいけない女だ」


背中が。


冷えた。


「何で」


答えない。


また。


逃げる。


俺は。


腹が立った。


「何で全部!」


声。


大きくなる。


「全部言えないんだよ!」


一人目も。


初めて。


怒った顔をした。


「言えばお前も壊れるからだ!」


俺は。


止まった。


外の足音。


近づく。


新八さん。


たぶん。


でも。


誰も。


そちらを見なかった。


一人目が。


息を吐く。


「俺は」


言う。


「一度目で紬を殺した」


「……」


「二度目で、自分を殺した」


「……」


「未来へ帰って」


拳を握る。


「全部を忘れようとした」


目。


俺を見る。


「それでも戻ってきた」


「何で」


今度は。


答えた。


「もう一度」


紬を見る。


「紬に会うためだ」


紬が。


何も言わない。


一人目も。


笑わない。


そして。


最後に。


静かに言った。


「一度目の紬が政宗を殺そうとしたのは」


俺は。


息を止めた。


「神谷拓真を救うためだ」


その瞬間。


戸が開いた。


新八さんが入ってきた。


そして。


俺を見た。


一人目の俺を見た。


もう一度。


俺を見た。


長い。


長い。


沈黙。


「……増えた?」


俺は。


思わず叫んだ。


「その反応!?」


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