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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第5話 伊達政宗にスマホを見せたら、電気を作れと言われた

「……未来から来たって言ったら」


俺は伊達政宗の顔を見ながら言った。


「信じます?」


政宗は黙った。


後ろに控えていた新八さんも黙った。


俺も黙った。


三人で黙った。


こういう沈黙は苦手だ。


営業職を六年もやっていると、三秒以上の沈黙には耐えられなくなる。


商談中に相手が黙ると、


――今の説明、まずかったか?


――値段が高いと思われた?


――競合他社の方が安い?


と、勝手に脳内会議が始まる。


今はもっとひどい。


――殺される?


――牢屋?


――火あぶり?


ろくな議題がない。


「ええと」


耐えきれず、俺は口を開いた。


「今のは忘れてもらっても」


「面白い」


政宗が言った。


やっぱり。


その言葉が一番嫌だった。


「殿」


新八さんが険しい顔になる。


「戯言にございます。この男、先ほどから訳の分からぬことばかり申しており」


「お前」


俺は思わず新八さんを見た。


「さっき俺が家族の話した時、ちょっと優しかったじゃないですか」


「知らぬ」


「水もくれた」


「返せ」


「飲んじゃいましたよ!」


「ならば黙れ」


「それとこれとは別でしょう!」


「うるさい!」


「二人とも黙れ」


政宗に怒られた。


俺と新八さんは同時に口を閉じた。


そして。


ちらりと互いを見る。


なんで俺まで。


そんな目をされた。


いや、俺も同じことを思っている。


政宗は頬杖をついた。


「神谷拓真」


「はい」


「未来とは、いつだ」


「……今が天正十四年なんですよね」


「ああ」


「俺がいたのは、西暦二〇二六年です」


政宗が眉を寄せた。


「せいれき?」


「そこからかぁ……」


思わず天井を見た。


そうだ。


当たり前だ。


西暦が通じない。


「つまり、今から四百四十年後くらいです」


新八さんが鼻で笑った。


「馬鹿馬鹿しい」


「俺もそう思いますよ!」


「では嘘なのだな」


「違うんですよ! 俺だって好きで四百年以上前に来たわけじゃないんです!」


「証はあるか」


政宗だった。


俺は口を閉じる。


来た。


いつか聞かれると思っていた。


証拠。


未来から来た証拠。


俺は自分の服を見る。


ジャケット。


シャツ。


ズボン。


革靴。


確かに、この時代にはない。


だが異国の服と言われれば、それまでだ。


財布には紙幣も硬貨もある。


これも証拠になり得る。


免許証。


クレジットカード。


ホテルの領収書。


牛タン屋のレシート。


最後だけは何の役にも立たない。


そして。


スマートフォン。


俺はため息をついた。


「あんまり見せたくないんですよね」


政宗の片眉が上がる。


「なぜだ」


「これ、今の俺にとって唯一の文明なんですよ」


「ぶんめい?」


「そういうところから全部説明しなきゃ駄目ですか?」


「話せ」


「長くなりますよ」


「構わぬ」


「俺が構います」


新八さんが、


「殿に口答えをするな!」


と怒鳴った。


だから。


この人、さっきから俺にだけ厳しくない?


政宗は笑っていた。


「出せ」


「え?」


「証だ」


「いや、その」


「未来から来たと申したのはお前だろう」


正論。


物凄く正論。


俺は渋々、鞄からスマートフォンを取り出した。


政宗の目が変わった。


露骨に。


好奇心で輝いた。


嫌だなぁ。


これ、絶対ろくなことにならない顔だ。


「先に言っておきますけど」


俺はスマホを両手で握った。


「壊さないでくださいね」


「壊さぬ」


「投げないでください」


「投げぬ」


「水につけないでください」


「つけぬ」


「刀で斬らないでください」


「しつこいぞ」


「大事なんですよ! これが壊れたら、俺、本気で泣きますからね!」


政宗が手を出す。


「寄越せ」


俺は迷った。


本当に迷った。


スマートフォンを戦国武将に渡す。


やっていいのか?


歴史が変わるとか、そういう難しい話ではない。


落とされるのが怖い。


「早くせよ」


「ちゃんと両手で持ってくださいね」


「子供扱いするな」


「二十歳でしょう」


「何?」


「何でもありません」


渡した。


政宗はスマホをじっと見る。


表。


裏。


横。


また表。


「黒い板だな」


「新八さんも同じこと言いました」


「新八」


「はっ」


「つまらぬ男だな」


「なぜ私が!?」


ちょっと面白かった。


俺は笑いを噛み殺した。


新八さんに睨まれた。


怖い。


「それで」


政宗が聞く。


「何をするものだ」


「色々です」


「色々とは」


「電話したり、写真撮ったり、動画見たり、地図見たり、買い物したり、調べ物したり」


「分からぬ」


「ですよね」


覚悟を決めた。


電源ボタンを押す。


画面が光った。


政宗の手が止まった。


新八さんが一歩下がった。


「ひ、光ったぞ!」


「光りますよ」


「妖術か!」


「違います」


「では何だ!」


「スマホです」


「答えになっておらぬ!」


新八さんが本気で刀に手をかけたので、俺は慌てた。


「待って待って! 危なくないです! 本当に!」


「ならば、なぜ光る!」


「電気!」


「でんきとは何だ!」


「そこから!?」


当然だった。


まだ一般に電気が利用される遥か前なのだ。


俺は頭を抱えた。


「弱ったな……電気をどう説明すればいいんだ」


「雷のようなものか」


政宗が言った。


俺は顔を上げた。


「まあ、すごく大雑把に言えば」


「では雷をこの板の中に閉じ込めておるのだな」


「違います」


「今、雷のようなものと申したではないか」


「だから大雑把にって言ったでしょう!」


「お前の説明は分かりにくい」


「四百四十年前の人にスマホ説明してる俺の身にもなってくださいよ!」


また笑った。


政宗は楽しそうだった。


こっちは必死なのに。


「これは何だ」


「写真です」


画面には、宮城旅行で撮った牛タン定食が映っていた。


政宗がじっと見る。


「食い物か」


「牛タンです」


「牛の舌?」


「はい」


「お前は牛の舌を食うのか」


「美味しいですよ」


「なぜ舌を食う」


「あなたに食文化で引かれたくないな」


「何?」


「何でもないです」


危なかった。


後世の伊達政宗が料理好きだったなんて話をすると、また面倒になる。


政宗は画面に指を触れた。


偶然、次の写真へ移る。


政宗が止まった。


「動いた」


「触ると動きます」


もう一度。


写真が変わる。


また。


変わる。


政宗の目が、さらに輝いた。


子供だ。


完全に新しい玩具を与えられた子供の顔だ。


「これは?」


「瑞鳳殿です」


「ずいほうでん?」


「あっ」


しまった。


言ってから気づいた。


政宗が聞く。


「何だ、それは」


「建物です」


「何の」


「……それは、まあ」


言えない。


あなたの霊廟です。


死んだ後のお墓です。


初対面の相手に言う話ではない。


「次へ行きましょう」


俺は強引に画面を動かした。


青葉城址。


「これは」


「次」


政宗像。


俺の指が止まった。


画面の中。


三日月形の前立てをつけ、馬に跨る有名な伊達政宗騎馬像。


沈黙。


俺はスマホを見た。


政宗も見た。


新八さんも覗き込んだ。


そして。


政宗が言った。


「……誰だ」


逃げたい。


俺は笑った。


「誰でしょうね」


「俺に似ておらぬか」


鋭い。


「いやぁ」


「新八」


「はっ」


「どう思う」


新八さんが画面を見る。


そして政宗を見る。


また画面。


「……似ております」


裏切り者。


俺は思った。


政宗が俺を見る。


「これは誰だ」


もう逃げられない。


「あなたです」


部屋が静かになった。


政宗はまた画面を見る。


「俺か」


「はい」


「なぜ、このような像がある」


「未来では有名だからです」


「俺が?」


「はい」


「どれほど」


「宮城県に行って伊達政宗を知らない人を探す方が難しいくらい」


政宗は黙った。


俺は少し後悔した。


余計なことを言ったかもしれない。


だが。


政宗は。


口元を上げた。


「そうか」


それだけだった。


もっと驚くと思った。


もっと聞かれると思った。


なのに。


「なかなか似合っておるな」


「自分で言います?」


「事実だ」


「すごい自信だな」


「当然だ」


「腹立つ」


「聞こえたぞ」


「聞かせました」


新八さんが頭を抱えていた。


俺は少しだけ、この時代でもやっていけるかもしれないと思った。


本当に。


ほんの少しだけ。


だが、その安堵は長く続かなかった。


政宗がスマホをいじり続ける。


「これは」


「計算機」


「これは」


「時計」


「これは」


「地図」


「これは」


「動画」


撮影していた新幹線の動画を再生すると、新八さんが本当に刀を抜いた。


「化け物だ!」


「電車です!」


「鉄の大蛇ではないか!」


「だから電車!」


「なぜ人が中に入る!」


「移動するためです!」


「食われておるではないか!」


「食われてない!」


十分後。


俺は疲れ切っていた。


政宗だけが元気だった。


「他には」


「もう終わりです」


「まだあるだろう」


「バッテリーが減るから嫌です」


「ばってりー?」


「このスマホを動かす力です」


「減るのか」


「減ります」


「どうすれば戻る」


「充電します」


「どうやって」


俺は答えかけて。


止まった。


嫌な予感がした。


ものすごく。


政宗は待っている。


俺は恐る恐る言った。


「電気を使います」


政宗は頷いた。


「で、その電気はどこにある」


「ありません」


「なぜだ」


「ここ戦国時代だからですよ!」


「ならば作れ」


一瞬。


何を言われたのか分からなかった。


「……はい?」


「電気を作れ」


「いやいやいやいや」


俺は両手を振った。


「無理です!」


「未来人だろう」


「未来人なら何でもできると思わないでください!」


「できぬのか」


政宗が、少しだけ残念そうな顔をした。


その顔が。


妙に腹立たしい。


「あのですね! 俺は元会社員です! 発電所の技術者でも科学者でもないんです!」


「では、何ならできる」


「営業」


「いらぬな」


「即答するな!」


政宗は声を上げて笑った。


そして。


俺のスマートフォンを片手に。


とんでもないことを言った。


「決めた」


「何をです」


「お前を俺の側に置く」


「嫌です」


「まだ何も申しておらぬ」


「絶対嫌なことだから先に断りました」


「未来の知恵を俺に教えろ」


「話聞いてます?」


「その代わり」


政宗は笑う。


「お前の衣食住は俺が面倒を見る」


俺は黙った。


帰る場所はない。


金も使えない。


知り合いもいない。


食事。


寝床。


安全。


全部ない。


ずるい。


この男。


二十歳のくせに。


人の弱いところを突いてくる。


「……ブラックじゃないですよね」


「ぶらっく?」


「休みは」


「働いておらぬ時が休みだ」


「ブラックだ!」


「何を申しておる」


「俺、やっと会社辞めたばかりなんですよ!」


政宗は笑った。


ひどく。


楽しそうに。


「安心せよ、拓真」


いきなり名前で呼ばれた。


嫌な予感しかしなかった。


「俺はお前の元の主とは違う」


「本当ですか」


「ああ」


政宗は胸を張る。


そして言った。


「俺の無茶振りの方が、もっと大きい」


「安心できるかあああああ!」


俺の叫び声が。


戦国時代の屋敷に響いた。


こうして。


会社を辞めて自由になったはずの俺は。


わずか数日後。


日本史上でも屈指の面倒くさい上司に。


再就職することになったのである。


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