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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第46話 天下を取った伊達政宗が、紬を殺すそうです

――天下を取った伊達政宗が、紬を殺すから。


俺は。


その一文を。


三回読んだ。


四回目は。


読まなかった。


読んだところで。


変わらないからだ。


「そんなわけない」


自分でも驚くくらい。


すぐに。


声が出た。


「そんなわけないでしょう」


誰に言っているのか。


分からなかった。


小十郎さんか。


新八さんか。


紬か。


それとも。


紙を書いた。


もう一人の未来人か。


「政宗様が紬を殺す理由なんてない」


誰も。


すぐには。


答えなかった。


それが。


腹立たしかった。


「何で黙ってるんです!」


新八さんが。


眉を寄せる。


「何と答えればよい」


「違うって!」


「分からぬ」


俺は。


新八さんを見る。


「何で!」


「今の殿が、紬を斬るとは俺も思わん」


「じゃあ!」


「だが」


嫌だ。


また。


だが。


ただし。


おそらく。


最近。


嫌な言葉が。


増えすぎている。


新八さんは。


続けた。


「天下を取った殿が、今の殿と同じかどうかは分からん」


俺は。


言葉を失った。


それを。


小十郎さんが。


もっと静かな声で。


引き取った。


「拓真殿」


「……はい」


「天下人になるということは、ただ位が上がることではありません」


「分かってます」


「本当に?」


刺さった。


俺は。


小十郎さんを見る。


怒ってはいない。


いつもの。


穏やかな顔。


でも。


誤魔化せない顔。


「一つの村を守るため、別の村を捨てることもあるでしょう」


「……」


「千人を救うため、百人を見捨てることも」


「……」


「国を守るため、親しい者を斬らねばならぬこともある」


俺は。


紙を見る。


「紬が」


声が。


うまく出ない。


「そうなるって言うんですか」


「分かりません」


「またそれか」


思わず。


吐き捨てるようになった。


すぐ。


後悔した。


「すみません」


小十郎さんは。


首を振った。


「ですが」


もう嫌だ。


ですが。


本当に。


「今の殿には紬を殺す理由がなくとも」


小十郎さんが。


紙を見る。


「天下人となった殿には、あるのかもしれません」


「ない」


声。


隣から。


紬だった。


俺は。


振り向く。


紬が。


紙を見ている。


「ないよ」


「紬」


「私なんか」


その言い方。


嫌だった。


ものすごく。


「天下人がわざわざ殺すほど、大した人間じゃない」


「その言い方やめてください」


「本当でしょ」


「やめろって言ってる!」


声が。


大きくなった。


紬も。


俺を見る。


「何で拓真が怒るの」


「腹が立つからです!」


「私の話」


「知ってますよ!」


「だったら」


紬は。


少し。


息を吸った。


そして。


言った。


「私がいなくなればいい」


頭の中で。


何かが。


切れた。


「またそれですか!」


紬の顔が。


固まる。


「何」


「何でいつも!」


俺は。


止まれなかった。


「何でいつも自分が消える方から考えるんです!」


「だって!」


紬の声も。


大きくなる。


「私一人で済むなら、その方がいいでしょ!」


「よくない!」


「何で!」


「嫌だからです!」


「拓真が?」


「そうですよ!」


もう。


隠す余裕もなかった。


「俺が嫌なんです!」


紬が。


一瞬。


黙る。


でも。


すぐに。


言い返した。


「勝手」


「知ってます!」


「私の命なのに!」


「そうですよ!」


「だったら私が決める!」


「死ぬって決めるな!」


「じゃあどうしろっていうの!」


古寺に。


声が。


響いた。


紬の目が。


赤い。


怒っている。


泣いてはいない。


たぶん。


まだ。


「私一人のために」


紬が。


俺を睨む。


「政宗様の天下を諦めるの?」


俺は。


答えられなかった。


その沈黙。


たった。


数秒。


でも。


紬は。


ちゃんと見た。


「ほら」


笑った。


嫌な。


自分を傷つける笑い方。


「答えられない」


「それは」


「当たり前でしょ」


紬が。


続ける。


「私一人と、天下」


「そういう言い方するな!」


「じゃあ何!」


「二つしかないって決めるな!」


「紙に書いてある!」


「紙でしょう!」


俺は。


壁の隠し文を指差した。


「誰が書いたかも分からない! 本当かどうかも分からない! 何が起きたかも分からない!」


「でも!」


紬が。


怒鳴る。


「一度目の私は死んだんでしょ!」


「分からない!」


「拓真は生きるのをやめようとしたんでしょ!」


「分からない!」


「じゃあ何なら分かるの!」


答えられなかった。


本当に。


何も。


分からない。


未来人なのに。


未来のことも。


一度目の自分のことも。


目の前の紬のことすら。


全部は。


分からない。


「……分かりませんよ」


やっと。


言った。


「何も」


紬が。


俺を見る。


「でも」


続ける。


「分からないからって、先に死ぬことにするな」


声が。


震えた。


「自分一人が消えれば丸く収まるみたいに言うな」


「そんなこと」


「言ってる!」


俺は。


とうとう。


言ってしまった。


「紬は、自分が死ねば全部丸く収まると思ってる!」


紬の顔が。


変わった。


言い過ぎた。


そう思った。


でも。


もう遅い。


「違う」


「違わない!」


「違う!」


「じゃあ何でいつも!」


「うるさい!」


紬が。


怒鳴った。


本当に。


大きな声だった。


「じゃあ拓真は何なの!」


俺は。


止まる。


「私を助けたいの?」


「そうですよ!」


「本当に?」


「何が言いたいんです!」


紬の目が。


まっすぐ。


俺を見る。


そして。


一番。


聞きたくないことを。


言った。


「一度目の自分が失敗したのを、やり直したいだけじゃないの?」


何も。


言えなかった。


胸の奥。


一番。


柔らかいところに。


刃物を入れられたみたいだった。


俺が。


紬を助けたい。


それは。


今の紬のため?


それとも。


一度目の俺が失ったから?


もう二度と失いたくないから?


同じ失敗を。


したくないから?


「……ひどいですね」


やっと。


声が出た。


紬の顔が。


揺れた。


たぶん。


言い過ぎたと。


思ったんだろう。


でも。


謝らなかった。


俺も。


謝れなかった。


「そうかもしれません」


言った。


紬が。


目を見開く。


「俺」


喉が。


痛い。


「本当に、紬を助けたいのか」


「……」


「一度目の俺が失敗したから、今度こそって思ってるだけなのか」


「……」


「分かりません」


また。


これ。


でも。


本当に。


分からない。


「だから」


俺は。


紬を見る。


「それでも今のあなたが死んでいい理由にはならないでしょう」


紬の目から。


涙が。


一つ。


落ちた。


本人は。


たぶん。


気づいていない。


俺も。


言わなかった。


新八さんが。


ものすごく。


居心地悪そうな顔をしている。


小十郎さんは。


静かに。


外を見た。


たぶん。


俺たちに。


少しだけ。


時間をくれた。


     ◇


帰り道。


俺と紬は。


一言も話さなかった。


本当に。


一言も。


いつもなら。


俺が転ぶ。


紬が笑う。


新八さんが怒る。


何か。


ある。


でも。


今日は。


何もなかった。


一度。


木の根に。


足を引っかけた。


転びそうになった。


紬が。


反射的に。


俺の袖を掴んだ。


俺は。


止まった。


紬も。


止まった。


手。


離す。


「……ありがとうございます」


「別に」


それだけ。


でも。


少しだけ。


胸が。


痛かった。


     ◇


城へ戻って。


政宗に。


紙を見せた。


黙って。


渡した。


政宗は。


読めない。


だから。


俺が。


読んだ。


「紬を救いたければ、政宗を天下人にしてはいけない」


政宗は。


黙る。


俺は。


続けた。


「天下を取った伊達政宗が、紬を殺すから」


部屋が。


静かになった。


愛姫様もいる。


小十郎さん。


新八さん。


紬。


俺。


そして。


政宗。


誰も。


笑わない。


政宗も。


珍しく。


長く。


黙っていた。


俺は。


その顔を見るのが。


怖かった。


怒る?


笑う?


紙を破る?


でも。


政宗は。


何もしなかった。


ただ。


俺を見た。


「拓真」


「はい」


「ならば俺に聞け」


「何をです」


政宗が。


紬を見る。


そして。


俺へ戻す。


「俺が天下を取ったとして」


声。


静か。


「紬を殺すと思うか」


俺は。


口を開いた。


でも。


言葉が。


出なかった。


今の政宗なら?


思わない。


たぶん。


でも。


天下人になった政宗は?


十年後。


二十年後。


何万人。


何十万人の命を背負った政宗。


俺は。


その人を。


知らない。


「……分かりません」


やっと。


言った。


政宗は。


怒らなかった。


「そうか」


「すみません」


「なぜ謝る」


「信じますって言えないから」


政宗が。


少し。


笑った。


「お前が何でも俺を信じると言い始めたら、その方が気味が悪い」


「そこまで言う?」


「本当だ」


小十郎さんが。


わずかに。


笑った。


俺は。


ため息をつく。


「じゃあ」


聞く。


「どうするんです」


政宗が。


不思議そうな顔をした。


「何がだ」


「何がって!」


俺は。


紙を指差す。


「天下を取ったら紬を殺すんでしょう!」


「まだ殺しておらぬ」


「未来の話!」


「ならば」


政宗が。


あまりにも。


簡単に言った。


「紬を殺さず、天下を取ればよい」


俺は。


目を閉じた。


やっぱり。


この人。


本当に。


「また簡単に言う!」


「簡単ではない」


政宗は。


笑った。


片目。


鋭い。


でも。


楽しそうではなかった。


「難しいからやるのだ」


俺は。


黙る。


政宗が。


紬を見る。


「紬」


「……はい」


「お前は死ぬな」


紬が。


目を瞬いた。


「命令ですか」


「そうだ」


「嫌です」


「ほう」


「死なないって、約束できないから」


政宗が。


少し。


笑った。


「ならば努力せよ」


「それなら」


紬は。


少しだけ。


目を伏せる。


「します」


俺は。


それを見ていた。


天下か。


紬か。


どちらか。


その二つしか。


選べないと。


思っていた。


でも。


政宗は。


あっさり。


二つとも取ると言った。


無茶だ。


馬鹿だ。


現実を知らない。


たぶん。


全部。


そうだ。


でも。


俺は。


少しだけ。


思った。


もし。


二択しかないと言われた時。


本当に。


二つしかないのか。


疑ってみても。


いいのかもしれない。


「拓真」


政宗が呼ぶ。


「はい」


「天下を取るぞ」


「だから急だって!」


「紬も殺さぬ」


「それも!」


「両方だ」


「簡単に!」


「難しいからやる」


同じ言葉。


俺は。


頭を抱えた。


隣で。


紬が。


ほんの少し。


笑った。


俺は。


それを。


見た。


よかった。


と思った。


たぶん。


今は。


それでいい。


でも。


その時。


小十郎さんが。


紙の裏を。


じっと見ていた。


「殿」


「何だ」


「もう一行あります」


俺は。


嫌な予感がした。


「何て?」


小十郎さんは。


読めない。


俺が。


紙を受け取る。


裏。


端。


小さな。


現代日本語。


読む。


そして。


息が止まった。


――一度目の紬を斬ったのは。


――伊達政宗ではない。


俺は。


目を見開いた。


その下。


もう一行。


――政宗の命令を受けた、神谷拓真です。


誰も。


何も。


言わなかった。


俺の手から。


紙が。


落ちた。


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