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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第45話 一度目の俺は、紬を失って生きるのをやめようとしていたらしいです

――あの時のあなたは。


――紬を失って、生きるのをやめようとしていたから。


俺は、その一文を何度読んでも意味が変わらないことに腹を立てた。


変われよ。


読み間違いでしたとか。


「紬」じゃなくて「紬に似た誰か」でしたとか。


そもそも、もう一人の未来人がものすごく字の下手な人で、俺が別の文字を紬と読んだだけとか。


何でもいい。


何でもよかった。


でも。


書いてある。


はっきりと。


紬を失って。


「……私」


隣から声がした。


俺は振り向けなかった。


「死ぬの?」


やめてほしかった。


本人の口から聞きたくなかった。


「知りません」


「でも書いてある」


「誰が書いたかも分からないでしょう」


「もう一人の未来人」


「たぶん!」


自分でも驚くくらい、大きな声が出た。


紬が黙る。


俺はすぐに後悔した。


「……すみません」


「別に」


「怒ってます?」


「少し」


「ですよね」


「でも、拓真も怒ってる」


「はい」


「誰に」


俺は紙を見た。


「分かりません」


本当に分からなかった。


もう一人の未来人に?


一度目の俺に?


運命に?


未来に?


それとも、こんな紙切れ一枚で動揺している自分に?


「とにかく」


俺は紙を畳んだ。


「信じないでください」


紬が俺を見る。


「拓真は?」


「信じません」


「嘘」


即答だった。


腹が立つ。


「何でです!」


「顔」


「もう俺の顔を読むな!」


「でも気にしてる」


「気にしますよ!」


俺はとうとう紬を見た。


「自分の目の前にいる人が死ぬって書かれてるんですよ! 気にしない方がおかしいでしょう!」


部屋が静かになった。


あ。


と思った。


またやった。


今の。


ものすごく。


何というか。


俺は咳払いした。


「いや、その」


紬がじっと俺を見ている。


「目の前にいる人、ね」


「そこだけ拾うな!」


政宗が笑った。


「拓真」


「何です」


「ずいぶん大事らしいな」


「あなたまで乗るな!」


小十郎さんは黙っている。


新八さんは目を逸らしている。


絶対笑ってる。


愛姫様まで、ほんの少し口元を緩めている。


最悪だ。


本当に。


こんな時なのに。


「違いますからね」


俺は念を押した。


紬が聞く。


「何が?」


「何がって」


「誰も何も言ってない」


「……」


しまった。


また。


自分から。


「もういいです!」


俺は頭を抱えた。


     ◇


でも。


笑って済ませられるのは。


そこまでだった。


一度目の俺。


一度目の奥州。


一度目の紬。


そして。


紬の死。


「拓真」


政宗が呼ぶ。


「はい」


「仮に」


嫌な言葉だ。


ものすごく。


「その紙が真であるなら」


俺は黙る。


「お前は紬を失い、未来へ戻った」


「らしいですね」


「その女がお前を帰した」


「らしいです」


「そして今、再びここにいる」


「……はい」


政宗は、少しだけ目を細めた。


「ならば、今度は失わねばよい」


俺は政宗を見た。


簡単に。


言う。


本当に。


この人は。


「それができたら苦労しませんよ」


「まだ何もしておらぬ」


「だから怖いんです!」


俺は言い返した。


「何をしたら紬が死ぬのか分からない!」


「うむ」


「政宗様を天下人にしようとしたからかもしれない!」


「うむ」


「俺が何かを変えたせいかもしれない!」


「うむ」


「逆に何もしなかったせいかもしれない!」


「うむ」


「うむじゃない!」


政宗が笑う。


腹立つ。


でも。


言っているうちに。


余計怖くなった。


何をすれば正解なのか。


分からない。


進む?


止まる?


天下を狙う?


諦める?


紬をそばに置く?


遠ざける?


何を選んでも。


それが。


一度目と同じ道かもしれない。


「拓真殿」


小十郎さんが静かに言った。


「一つだけ、忘れてはなりません」


「何です」


「我々はまだ、一度目が本当にあったかすら知りません」


俺は黙った。


「この紙も。写真も。この男の証言も」


偽田中。


もう一人の未来人。


「すべて、我々を動かすために用意された可能性があります」


「……はい」


「ですから」


小十郎さんの目が、少しだけ厳しくなる。


「恐れるのは構いません。しかし、恐れたまま決めてはなりません」


俺は。


少し。


息を吐いた。


本当に。


この人は。


ずるい。


政宗が無茶を言って。


俺が叫んで。


小十郎さんが。


一番まともなことを言う。


「小十郎さん」


「何でしょう」


「俺、小十郎さんが主君だったら、もっと楽だったと思います」


政宗が言う。


「斬るぞ」


「冗談です!」


即答した。


新八さんが。


「今のは本気で危なかったぞ」


と小声で言う。


怖い。


戦国時代。


     ◇


その夜。


やっぱり眠れなかった。


最近。


本当に多い。


不眠。


未来にいた時より。


ひどいんじゃないか。


俺は。


布団の上で。


天井を見ていた。


一度目の紬。


死ぬ。


俺。


生きるのをやめようとする。


もう一人の未来人が。


俺を未来へ帰す。


全部。


繋がっているようで。


何も。


分からない。


「入る」


戸の向こうから。


声。


「待って!」


遅かった。


紬が入ってきた。


「何で毎回許可取る前に入るんです!」


「言った」


「宣言と許可は違う!」


紬は。


勝手に座った。


俺も。


起き上がる。


「何です」


「話」


「またですか」


「嫌?」


「……嫌じゃないです」


言った後。


少し。


恥ずかしくなった。


紬は。


何も言わない。


そこ。


何か言え。


「拓真」


「はい」


「もし」


嫌な予感。


「私が本当に死ぬ未来を知ったら、どうする?」


俺は。


答えられなかった。


紬が。


少し待つ。


「助ける?」


簡単な質問。


のはずだった。


少し前なら。


即答したと思う。


助けます。


絶対。


何があっても。


でも。


今は。


怖い。


俺が誰かを救うたび。


別の誰かが死ぬ。


その言葉が。


頭にこびりついている。


「……分かりません」


紬の顔が。


少し。


変わった。


「そっか」


その声が。


思ったより。


寂しそうだった。


胸が。


痛くなった。


「いや!」


俺は慌てた。


「違います!」


「何が」


「助けたくないって意味じゃない!」


「でも分からないんでしょ」


「そうですけど!」


俺は。


頭を抱えた。


本当に。


俺は。


言葉が下手だ。


営業やってたのに。


「もし」


ゆっくり。


言う。


「紬を助けることで、別の誰かが死ぬって分かったら」


紬が。


黙る。


「俺は」


続ける。


「たぶん、怖くて決められません」


「うん」


「誰かの命を選ぶなんて、嫌です」


「うん」


「でも」


俺は。


紬を見た。


「その時、本当に目の前で紬が死にそうだったら」


喉が。


少し。


乾く。


「たぶん助けます」


紬の目が。


揺れた。


「たぶん?」


「絶対って言うと嘘になるから」


「正直」


「今さらです」


少し。


笑う。


「たぶん助けます」


もう一度。


言った。


「後で死ぬほど後悔しても」


「……」


「そのせいで別の誰かが死んだって言われても」


「……」


「その時、目の前にいたら」


俺は。


息を吸った。


「きっと助けます」


紬が。


俯いた。


「馬鹿」


「知ってます」


「本当に馬鹿」


「二回言わなくていいです」


「うるさい」


声。


少し。


震えていた。


俺は。


気づかないふりをした。


でも。


紬が。


目元を。


少し。


袖で拭いた。


「泣いてます?」


「泣いてない」


「今」


「違う」


「でも」


「うるさい!」


怒られた。


俺は。


黙った。


少しして。


紬が言う。


「私も」


「はい」


「その時になったら」


「はい」


「生きたいって言うかもしれない」


俺は。


何も言えなかった。


「誰かが死ぬって分かってても」


紬の声。


小さい。


「自分が死ぬの、嫌だから」


その言葉。


正しい。


ものすごく。


人間だった。


綺麗じゃない。


でも。


だから。


よかった。


俺は。


少し笑った。


「言ってください」


「何を」


「生きたいって」


紬が。


俺を見る。


「迷惑でも?」


「迷惑です」


「最低」


「でも言ってください」


「面倒でも?」


「ものすごく面倒です」


「嫌な奴」


「知ってます」


俺たちは。


少しだけ。


笑った。


     ◇


翌朝。


俺たちは。


写真の背景に写っていた古寺へ向かった。


俺。


紬。


新八さん。


小十郎さん。


政宗は。


「俺も行く」


と言った。


全員で止めた。


珍しく。


本当に。


全員で。


「殿」


「駄目です」


「何故だ」


「駄目です」


小十郎さんの。


有無を言わせない声。


政宗は。


ものすごく不満そうだった。


少し。


面白かった。


古寺は。


山の中にあった。


写真の通り。


いや。


正確には。


写真より。


少し。


新しい。


壁も。


まだ崩れていない。


俺は。


写真と。


目の前の建物を。


何度も見比べる。


「本当にここだ」


小十郎さんが頷く。


「おそらく」


俺たちは。


中を調べた。


何もない。


床。


柱。


壁。


古い。


でも。


普通。


「本当に何かあるんですかね」


俺が言う。


新八さんが。


「なければ帰るだけだ」


「それが一番いいです」


紬が。


壁を見ている。


「どうしました」


「ここ」


指差す。


俺も見る。


継ぎ目。


少し。


不自然。


小十郎さんが。


近づく。


板。


外す。


中。


空洞。


そして。


油紙。


包み。


俺の心臓が。


大きく鳴った。


開ける。


紙。


文字。


現代日本語。


俺は。


読む。


最初の一行。


――二度目のあなたへ。


手が。


震えた。


続きを読む。


――ここまで来たなら、あなたはまた紬に出会ったのでしょう。


紬が。


俺を見る。


俺は。


続ける。


――お願い。


――今度こそ、あの子を救って。


その次。


俺は。


息を止めた。


――紬を救いたければ。


――伊達政宗を天下人にしてはいけない。


誰も。


何も言わなかった。


山の風だけが。


古寺の隙間から。


入ってきた。


俺は。


紙を持ったまま。


動けなかった。


政宗を天下人にする。


それは。


俺が。


この時代に来て。


初めて。


自分から。


やりたいと思ったこと。


紬を救う。


それは。


もう。


今さら。


諦められない。


二つ。


どちらも。


選びたい。


でも。


紙には。


まるで。


それが許されないみたいに。


書いてあった。


俺は。


小さく。


呟いた。


「何で」


誰も。


答えない。


「何で」


もう一度。


言った。


「どっちかなんだよ」


そして。


その紙の最後には。


さらに。


一行。


書かれていた。


――天下を取った伊達政宗が、紬を殺すから。


俺は。


息を止めた。


隣で。


紬の顔から。


血の気が引いた。


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