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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第40話 もう一人の未来人は、俺が会社で見捨てた田中さんを知っていました

――次は、田中さんを助けてあげて。


俺は。


その一文から。


目を離せなかった。


田中さん。


その名前を。


この時代で。


聞くはずがない。


知っている人間も。


いるはずがない。


なのに。


書いてある。


はっきり。


俺の目の前に。


「拓真」


紬が呼んだ。


返事が。


できなかった。


「拓真」


もう一度。


「……はい」


やっと。


声が出た。


「田中って誰」


俺は。


紙を握ったまま。


答えた。


「関係ない人です」


紬が。


俺を見る。


「嘘」


「嘘じゃないです」


「じゃあ」


少し。


間。


「そんな顔するくらい、関係ない人なの?」


嫌な聞き方をする。


本当に。


逃げ道を。


平気で塞ぐ。


「紬」


「何」


「今は」


「話したくない?」


俺は。


黙った。


紬も。


黙る。


追及してこない。


それが。


逆に。


きつかった。


政宗が。


紙を見ている。


小十郎さんも。


新八さんも。


愛姫様もいる。


何で。


俺は。


こんな大勢の前で。


会社員時代の黒歴史を。


話さなきゃならないんだ。


嫌だ。


本当に。


「……会社の人です」


結局。


俺は言った。


「会社?」


紬が聞く。


「俺が未来で働いてたところ」


「前に言ってた」


「はい」


俺は。


床を見る。


「株式会社東都システム営業第二課」


政宗が。


「長い」


と言った。


俺は顔を上げる。


「そこ!?」


「名が長い」


「未来の会社、大体こんな感じです!」


「もっと強そうな名はないのか」


「何を求めてるんです!」


せっかく。


重い話をしようとしたのに。


崩された。


でも。


ほんの少し。


助かった。


たぶん。


政宗は。


わざとじゃない。


この人は。


普通に言っただけだ。


そこが。


余計腹立つ。


「それで」


小十郎さんが。


静かに聞く。


「田中殿とは?」


俺は。


一度。


息を吐いた。


「同僚です」


「仲がよかったのか」


新八さんが聞く。


俺は。


少し考える。


「……別に」


紬が。


すぐに言う。


「また別に」


「今度は本当です!」


「怪しい」


「本当ですよ!」


田中さんとは。


親友じゃない。


休日に会ったこともない。


家族構成だって知らない。


好きな食べ物も。


趣味も。


知らない。


ただ。


同じ会社で。


同じ課にいて。


同じ上司に怒鳴られて。


時々。


缶コーヒーを飲んだ。


それくらい。


「よく」


俺は。


思い出しながら話す。


「会社の自販機の前で会ったんです」


「じはんき?」


紬が聞く。


「お金入れると飲み物が出てくる箱です」


「怪しい」


「何で!?」


「箱から飲み物」


「未来には普通なんです!」


政宗が。


少し興味を持った顔をした。


「作れるか」


「無理です!」


「まだ何も言っておらぬ」


「どうせ作れって言うでしょう!」


「分かってきたな」


「嫌な成長だ!」


また。


話が逸れた。


俺は。


額を押さえる。


「とにかく」


続ける。


「田中さんと俺は、よくそこで会いました」


疲れていた。


いつも。


俺も。


田中さんも。


「田中さん」


ある日のことを。


思い出す。


俺が。


缶コーヒーを買おうとして。


田中さんが。


先にいた。


顔。


白かった。


「大丈夫ですか」


そう聞いた。


田中さんは。


笑った。


『大丈夫、大丈夫』


って。


この言葉。


嫌いだ。


大丈夫な人ほど。


言わない。


いや。


大丈夫じゃない人ほど。


言う。


何度も。


何度も。


「その人」


紬が。


静かに聞く。


「病気だったの?」


「分かりません」


「分からない?」


「俺、聞かなかったから」


喉が。


少し。


痛くなった。


「聞けばよかった」


「でも」


千代はいない。


楓も。


この場にはいない。


今。


聞いているのは。


紬。


政宗。


小十郎さん。


新八さん。


愛姫様。


「それで?」


紬が聞く。


俺は。


続けた。


「ある日」


仕事中。


田中さんが。


倒れた。


本当に。


突然。


机の横で。


大きな音がした。


みんな。


一瞬。


止まった。


俺も。


何が起きたか。


分からなかった。


「救急車を呼びました」


「きゅうきゅうしゃ?」


「未来の、怪我人とか病人を運ぶ車です」


「馬車?」


「まあ、そんな感じです」


説明。


難しい。


「田中さんは」


俺は。


指を握る。


「運ばれました」


そこまでは。


いい。


問題は。


その後だ。


上司。


佐々木課長。


田中さんが。


担架で運ばれた後。


俺たちのところへ来て。


最初に言った。


『で、田中の案件、誰が引き継ぐ?』


俺は。


今でも。


覚えている。


声。


顔。


机。


蛍光灯。


全部。


「……何それ」


紬が言う。


俺は。


少し笑った。


「仕事の話です」


「倒れた人の心配じゃなくて?」


「はい」


「最低」


「はい」


俺も。


そう思った。


ずっと。


思ってる。


でも。


本当に最低なのは。


佐々木課長だけか?


「俺」


言葉が。


出にくい。


「その時」


全員が。


静かに聞いている。


「何も言わなかったんです」


紬の眉が。


少し動く。


「何も?」


「はい」


『ふざけるな』とか。


『田中さんが倒れたんですよ』とか。


言えた。


はず。


でも。


言わなかった。


俺は。


ただ。


立っていた。


その後。


田中さんの仕事を。


みんなで分けた。


俺も。


いくつか引き継いだ。


普通に。


働いた。


「次の日も」


俺は言う。


「会社に行きました」


「何で」


紬が聞く。


「何でって」


「そんなところ」


答え。


難しい。


生活。


金。


家賃。


将来。


怖い。


辞めるのも。


残るのも。


全部。


怖い。


「すぐには辞められないんですよ」


やっと。


それだけ言った。


紬は。


少し。


納得していない顔だった。


でも。


何も言わなかった。


「それで」


俺は続ける。


「しばらくして辞めました」


政宗が聞く。


「田中という男のためか」


「……分かりません」


「またか」


「本当に分からないんです」


俺は。


少し。


苛立った。


自分に。


「田中さんが倒れたのが、きっかけだったと思います」


でも。


自分が苦しかった。


自分が逃げたかった。


それも。


本当。


「俺」


言う。


「立派な理由で会社辞めたんじゃないですよ」


紬が。


黙っている。


「田中さんを助けるためでもない」


俺は。


笑った。


たぶん。


嫌な笑いだった。


「自分が次に倒れたくなかっただけです」


静か。


誰も。


すぐには。


何も言わなかった。


その沈黙が。


嫌で。


でも。


ありがたかった。


「それの」


紬が。


やっと口を開く。


「何が悪いの」


俺は。


顔を上げた。


「え?」


「自分が倒れたくないから辞めた」


「はい」


「普通でしょ」


「でも」


「でも何」


「田中さんを」


「助けられなかった?」


その言葉。


胸に刺さる。


「はい」


紬が。


俺を見る。


「死んだの?」


俺は。


黙った。


「分かりません」


「え?」


「その後」


喉が。


詰まる。


「確認してないから」


これ。


一番。


言いたくなかった。


会社を辞めた。


連絡先。


知らなかった。


聞こうと思えば。


聞けた。


元同僚に。


連絡できた。


でも。


しなかった。


「怖かったんです」


正直に言った。


「何が」


「もし」


俺は。


膝を見る。


「田中さんが死んでたら」


声。


小さくなる。


「自分が何もできなかったって、本当になる気がして」


紬が。


黙る。


「逆に」


俺は。


苦笑した。


「生きてたら生きてたで」


「何」


「安心して終わらせそうで」


俺は。


何もしてないのに。


よかった。


生きてた。


それで。


自分を許しそうで。


嫌だった。


「だから」


俺は言う。


「調べなかった」


最低だ。


と思う。


でも。


本当だ。


新八さんが。


腕を組みながら言った。


「面倒だな」


「……はい」


「お前は」


「はい」


「本当に面倒だ」


「二回言わなくても!」


思わず。


顔を上げた。


新八さんが。


少し笑っている。


「生きているか知らぬ」


「はい」


「死んでいるかも知らぬ」


「はい」


「それなのに、何年も勝手に悩んでおったのか」


「悪いですか!」


「悪いとは申しておらぬ」


「じゃあ何です!」


「面倒だと」


「三回目!」


紬が。


少し。


笑った。


俺は。


腹が立った。


でも。


少しだけ。


救われた。


     ◇


「では」


小十郎さんが。


紙を見ながら言う。


「問題は」


戻る。


現実。


戦国時代。


もう一人の未来人。


「なぜ、その者が田中殿を知っているのか」


俺は。


頷く。


「俺」


少し考える。


「この話」


誰かにした?


政宗には。


会社を辞めたとは言った。


田中さんが倒れた。


上司が代わりを気にした。


そこまで。


最初に?


いや。


話した。


たしか。


政宗に。


でも。


田中さんの名前まで?


覚えていない。


「殿」


小十郎さんが聞く。


「拓真殿は、田中という名を口にしましたか」


政宗が。


少し考える。


「覚えておらぬ」


「ですよね!」


俺は。


少し傷ついた。


「いや、そこは覚えててくださいよ!」


「お前はよく喋る」


「否定できない!」


「すべて覚えておれというのは酷だ」


「正論で殴るな!」


でも。


たとえ。


政宗が知っていたとしても。


もう一人の未来人が。


なぜ知る。


「可能性は」


愛姫様が。


静かに言った。


「二つでしょうか」


俺たちは。


愛姫様を見る。


「一つ」


指を。


一本。


「その女は、拓真殿と同じ時代におり、拓真殿を知っていた」


俺の背中が。


少し冷える。


「もう一つ」


指。


二本。


「拓真殿が忘れている何かを、その女だけが覚えている」


嫌だ。


どっちも。


嫌だ。


「三つ目は?」


俺が聞く。


愛姫様が。


少し考える。


「拓真殿が、どこかで喋った」


「それが一番ありそう!」


俺は。


頭を抱えた。


紬が言う。


「大声で」


「言うな!」


政宗が笑う。


本当に。


笑うところか。


でも。


その時。


外から。


足音がした。


かなり。


慌てている。


戸が開く。


兵が。


息を切らしていた。


「殿!」


政宗が。


「何だ」


と聞く。


兵は。


俺を見た。


何で。


俺?


「城下で」


息を整える。


「妙な男を捕らえまして」


「妙な男?」


「はい」


兵の顔。


青い。


「その男」


俺を見る。


「自らを」


嫌な予感。


ものすごい。


「田中、と名乗っております」


世界が。


止まった。


「……は?」


俺は。


声を出した。


兵が続ける。


「そして」


唾を飲む。


「未来から来た、と」


俺は。


立ち上がっていた。


何も考えず。


「どこです」


誰かが。


何か言った。


でも。


聞こえなかった。


「どこにいるんです!」


兵が。


驚く。


俺は。


もう一度。


叫んだ。


「田中さんは、どこにいるんですか!」


そして。


その時。


俺は。


初めて。


本気で。


願った。


田中さん。


生きていてくれ。


今度こそ。


俺の目の前に。


いてくれ。


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