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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第39話 現代日本語で、「やっと会えたね」と書かれていました

――神谷拓真。


――やっと、会えたね。


俺は。


紙を持ったまま。


動けなかった。


「拓真」


後ろから。


紬の声。


「何」


「……」


「何なの、それ」


答えようとして。


声が出なかった。


紙。


普通の紙だ。


スマホでもない。


写真でもない。


未来の道具でもない。


でも。


俺には分かる。


書き方。


言葉の選び方。


そして。


何より。


――やっと、会えたね。


この言葉。


この時代の人間が。


俺に向けて書く言葉じゃない。


「拓真」


紬が。


もう一度呼ぶ。


「顔、白い」


「いつもこんな感じです」


「嘘」


「ですよね」


俺は。


笑おうとした。


たぶん。


失敗した。


紬が。


俺の手から紙を取ろうとする。


「ちょっと」


「見せて」


「待って」


「何で」


「いや」


俺は。


紙を見る。


紬を見る。


「読めます?」


「馬鹿にしてる?」


「そういう意味じゃなくて!」


怒らせた。


でも。


紬は紙を見る。


眉を寄せた。


「神谷……」


読める。


そりゃそうだ。


漢字も。


平仮名も。


この時代にある。


ただ。


文章が。


少し違う。


「拓真」


「はい」


「やっと、会えたね」


紬が読む。


俺は。


何となく。


嫌だった。


その言葉を。


紬の口から聞くのが。


「誰から?」


「分かりません」


「もう一人の未来人?」


「たぶん」


「女?」


「たぶん」


「知ってる人?」


俺は。


黙った。


分からない。


でも。


それより。


もっと。


嫌なことに気づいた。


「……俺の名字」


「何」


「神谷」


「それが?」


「俺、この時代で」


紙を見る。


「名字まで名乗った人、そんなに多くないですよね?」


紬の顔から。


少し。


笑いが消えた。


そうだ。


拓真。


と呼ばれることが多い。


政宗。


小十郎さん。


新八さん。


紬。


みんな。


拓真。


神谷拓真。


俺の。


フルネーム。


誰が知っている。


最初に捕まった時。


名乗った?


政宗には言った。


小十郎さんも。


おそらく知っている。


でも。


全員じゃない。


少なくとも。


そこら中で。


俺は神谷拓真です。


なんて。


自己紹介して歩いた記憶はない。


いや。


俺ならやってるか?


少し不安になった。


「紬」


「何」


「俺、結構あちこちで神谷拓真って名乗ってました?」


「知らない」


「覚えてない?」


「興味ない」


「ひどい!」


でも。


そのいつもの返しで。


ほんの少しだけ。


息ができた。


その時。


紬が言った。


「裏」


「え?」


「紙」


ひっくり返す。


文字。


あった。


俺は。


読む。


そして。


今度こそ。


声を失った。


――あなたが政宗を天下人にしようとするなら。


――私は止める。


俺は。


何度も。


読んだ。


意味は変わらない。


「何て?」


紬が聞く。


俺は。


答えなかった。


「拓真」


「……俺を止めるって」


「誰が」


「もう一人の未来人」


「何で」


「政宗様を」


言葉にする。


「天下人にしようとするなら、止めるって」


紬が。


しばらく。


黙った。


「何で?」


「俺が聞きたいですよ」


「未来人同士だから?」


「未来人が全員仲間だと思わないでください」


「でも同郷みたいなものでしょ」


「四百年以上離れてる可能性ありますからね!?」


同郷。


で済ませていいのか。


未来人。


二人。


戦国時代。


片方は。


伊達政宗に天下を取らせたい。


もう片方は。


止める。


何なんだ。


これ。


政宗が聞いたら。


絶対。


喜ぶ。


嫌だ。


     ◇


やっぱり。


喜んだ。


「面白い!」


俺は。


頭を抱えた。


「知ってました!」


政宗が。


紙を持ちながら笑っている。


小十郎さん。


新八さん。


愛姫様。


そして。


なぜか紬。


全員いる。


「お前を止めるか」


政宗が言う。


「はい」


「俺を天下人にするなら?」


「はい」


「なるほど」


にやり。


「ならば、俺が天下を取ればそやつの負けだな」


「人の人生を勝負の道具にするな!」


俺は叫んだ。


「そもそも何でそんなに嬉しそうなんです!」


「俺が天下を取れぬ未来を守ろうとする者がいる」


「はい」


「つまり」


政宗の片目が。


楽しそうに細くなる。


「変えられると困るのであろう?」


俺は。


少し。


黙った。


「まあ」


「ならば変わる可能性がある」


「……」


「面白いではないか」


この人。


やっぱり。


怖い。


俺なら。


未来を知る人間に。


お前は天下を取れない。


歴史を変えるな。


と言われたら。


へこむ。


かなり。


へこむ。


でも。


政宗は違う。


駄目だと言われると。


やりたくなる。


面倒なタイプ。


俺も。


少し分かるけど。


認めたくない。


「拓真」


政宗が言う。


「何だ、その顔は」


「似てるって言われそうで嫌なんです」


新八さんが。


「似ておる」


と即答する。


「やめろ!」


愛姫様が。


少し笑った。


紬まで。


「似てる」


「お前も言うな!」


政宗が笑う。


でも。


小十郎さんは。


紙を見ていた。


「殿」


「何だ」


「まだ続きがございます」


俺は。


小十郎さんを見る。


「え?」


「端に」


指差す。


小さい文字。


俺は。


紙を近づけた。


読んだ。


そして。


笑えなくなった。


――あなたはまだ知らない。


――あなたが政宗を救うたび。


――別の誰かが死んでいる。


俺は。


何も言えなかった。


部屋が。


急に。


静かになった気がした。


「拓真殿」


小十郎さんが呼ぶ。


「何と?」


俺は。


答えたくなかった。


でも。


答えた。


「俺が」


喉が。


乾く。


「政宗様を救うたび」


政宗を見る。


「別の誰かが死んでるって」


誰も。


すぐには。


何も言わなかった。


政宗だけが。


紙を見る。


笑わない。


俺は。


考えた。


もし。


本当なら。


俺が来た。


水路を見た。


不正を見つけた。


紬を助けた。


千代たちを助けた。


小鈴も。


愛姫様も。


政宗も。


誰かを。


助ける。


その代わり。


別の誰かが。


死ぬ?


知らないところで。


「……そんな」


声が出た。


「そんなの」


あり得ない。


と言いたかった。


でも。


言えない。


未来。


俺の知っている歴史。


本来なら。


生きるはずだった人間。


俺が何かを変えたせいで。


違う場所へ行く。


違う戦に巻き込まれる。


違う病気になる。


誰かに殺される。


ある?


ない?


分からない。


証明できない。


だから。


怖い。


「拓真」


紬が呼んだ。


俺は。


紙を見たまま。


「はい」


「じゃあ」


「何です」


「助けなければよかったの?」


俺は。


顔を上げた。


紬が。


俺を見る。


「何が」


「私」


俺は。


黙った。


「千代」


「……」


「小鈴」


「……」


「他の子たち」


紬は。


目を逸らさない。


「助けなければよかった?」


「そういう話じゃ」


「じゃあどういう話」


「分からないんですよ!」


声が。


大きくなった。


紬の眉が。


少し動く。


でも。


俺は止まれなかった。


「俺が誰かを助けたせいで、本当に別の誰かが死んだかもしれないって話でしょう!」


「かもしれない」


「そうです!」


「分からないんでしょ」


「分からないから怖いんです!」


部屋。


静か。


政宗も。


小十郎さんも。


誰も止めない。


紬が。


少し。


怒った顔をした。


「じゃあ」


言う。


「私があの道端で死んでた方がよかった?」


「そんなこと言ってない!」


「同じ」


「違う!」


「違わない」


「違う!」


俺も。


本気で。


腹が立った。


「そんな簡単な話じゃないでしょう!」


「簡単にしてるのは拓真」


「何が!」


「知らない誰かのために」


紬が。


自分の胸を指す。


「目の前の私まで、助けちゃいけなかったかもって思ってる」


刺さった。


本当に。


痛かった。


「思ってません」


「嘘」


「思ってない!」


「じゃあ何でそんな顔してるの」


俺は。


答えられなかった。


紬が。


少し。


声を落とした。


「私」


言う。


「助かってよかった」


俺は。


紬を見る。


「千代も」


「……」


「小鈴も」


「……」


「たぶん、みんな」


少し。


間。


「助かった人は、助かってよかったって思う」


俺は。


何も言えない。


「知らない誰かが死んだかもしれない」


紬が言う。


「そうかもしれない」


「……」


「でも」


まっすぐ。


俺を見る。


「だからって、目の前で死にそうな人を見捨てるの?」


答えられない。


そんなの。


無理だ。


俺は。


たぶん。


また助ける。


後で後悔しても。


怖くても。


面倒でも。


見てしまったら。


知ってしまったら。


俺は。


きっと。


「……見捨てられません」


やっと。


言った。


紬が。


「知ってる」


と答えた。


俺は。


少し。


笑った。


「何です、それ」


「拓真だから」


「褒めてます?」


「別に」


「そこは褒めろ!」


紬が。


少し笑った。


俺も。


ほんの少しだけ。


息を吐けた。


     ◇


その夜。


もう一度。


紙を調べた。


現代日本語。


俺の名前。


俺が政宗を天下人にしようとしていること。


そして。


俺が誰かを救うたび。


別の誰かが死ぬ。


もう一人の未来人は。


俺のことを。


知りすぎている。


「おかしいですね」


俺が言う。


小十郎さんが。


「何がです」


と聞く。


「だって」


紙を見る。


「俺、政宗様を天下人にするって」


思い出す。


「ちゃんと言ったの、最近ですよね」


政宗が。


頷く。


「うむ」


「なのに」


俺は。


顔を上げた。


「もう一人の未来人は、俺が来る前から」


老人の言葉。


思い出す。


――伊達政宗に天下を取らせようとする者が現れる。


「知ってた」


小十郎さんの顔が。


変わる。


「拓真殿」


「はい」


「その者は」


静か。


「未来を知っているのではなく」


俺の背中が。


冷える。


「あなたを、知っているのでは?」


俺は。


何も言えなかった。


その時。


紙が。


俺の手から。


落ちた。


裏側。


さっきまで。


気づかなかった。


紙の端に。


もう一つ。


小さな文字があった。


俺は。


拾う。


読む。


そして。


息を止めた。


――あなたは忘れている。


――でも私は。


――あなたを知っている。


俺の手が。


震えた。


紬が。


「拓真?」


と呼ぶ。


俺は。


答えられない。


もう一人の未来人。


女。


俺を知っている。


俺が。


忘れている?


誰だ。


誰なんだ。


そして。


その下に。


最後の一行。


――次は、田中さんを助けてあげて。


世界が。


止まった。


田中。


会社で。


俺の目の前で倒れた。


俺が。


何もできなかった。


あの。


田中さん。


この時代で。


その名前を。


知っている人間は。


俺しかいないはずだった。


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