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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第30話 片倉小十郎が、本気で怒ると笑う理由

「覚悟はできておりますね」


小十郎さんは。


笑っていた。


穏やかに。


いつもと変わらないように。


だからこそ。


怖かった。


ものすごく。


「新八さん」


俺は小声で言った。


「何だ」


「小十郎さん、怒ってます?」


「見れば分かるだろう」


「笑ってるんですけど」


「だから怒っておる」


意味が分からない。


でも。


たぶん。


聞かない方がいい。


左頬に傷のある男が刀を構える。


「片倉景綱」


「私をご存じですか」


「伊達の犬を知らぬ者がいるか」


小十郎さんの笑みは。


消えなかった。


「なるほど」


一歩。


前へ。


「では、犬に噛まれる痛みもご存じでしょう」


次の瞬間。


速かった。


本当に。


俺には何が起きたのか分からない。


刀。


音。


男が後ろへ下がる。


小十郎さんが前へ出る。


また音。


傷の男の刀が。


地面へ落ちた。


「え」


俺が声を出した時には。


もう。


終わっていた。


男は膝をついていた。


腕を押さえている。


「殺してはいません」


小十郎さんが言った。


「聞きたいことがありますので」


怖い。


めちゃくちゃ怖い。


普段。


俺の相談に乗ってくれる。


一緒に政宗の無茶振りでため息をつく。


あの人と同一人物だろうか。


「拓真」


新八さんが言った。


「ぼうっとするな!」


「はい!」


俺たちの周りにも。


まだ男がいる。


一人が動いた。


新八さんが刀を振る。


俺は。


後ろへ下がる。


下がる。


もっと下がる。


木にぶつかった。


「痛っ!」


男が俺を見る。


嫌な予感。


すごく。


「来ないでください!」


当然。


止まらない。


「新八さん!」


「自分で何とかしろ!」


「無理です!」


「走れ!」


「転びます!」


「知るか!」


ひどい。


本当に。


その時。


男が刀を振り上げた。


俺は。


反射的にしゃがんだ。


刀が。


木に当たる。


ガッ。


重い音。


怖い。


腰が抜けそう。


でも。


今。


男の刀は木に食い込んでいる。


俺は。


何も考えず。


男の足を蹴った。


「痛っ!」


俺の足が。


痛かった。


男は。


ほとんど動かなかった。


「何で!?」


思わず叫んだ。


男が俺を見る。


ものすごく。


怒っている。


「すみません!」


謝った。


その直後。


新八さんが。


男を後ろから殴り倒した。


「何をしておる!」


「戦ったんですよ!」


「どこがだ!」


「蹴った!」


「効いておらぬ!」


「俺の足には効きました!」


「知るか!」


本当に。


理不尽。


でも。


生きてる。


それだけで。


今はいい。


     ◇


数は。


減っていた。


志乃は。


もういない。


いつの間にか。


闇へ消えた。


残っている男たちも。


逃げ始めている。


「逃がすな!」


新八さんが叫ぶ。


小十郎さんも。


別の男を取り押さえる。


俺は。


何もできない。


ただ。


見ていた。


悔しい。


でも。


さっき。


一つだけ。


気づいたことがある。


「新八さん!」


「何だ!」


「待って!」


「何をだ!」


「全員追わないで!」


新八さんが。


一瞬。


こっちを見る。


「理由を申せ!」


「こいつら、俺を生け捕りにしようとしてた!」


「それがどうした!」


「だったら!」


俺は。


息を切らしながら。


言った。


「まだ俺が欲しいんです!」


新八さんが。


嫌な顔をした。


「だから?」


「俺を見せれば」


「駄目だ」


「まだ何も言ってない!」


「どうせ囮になると申すのであろう!」


「何で分かるんです!」


「毎回それだからだ!」


怒鳴られた。


本気で。


「お前はなぜ毎回、自分を餌にする!」


俺も。


少し腹が立った。


「他に使い道がないんですよ!」


言った。


静かになった。


新八さんが。


俺を見る。


小十郎さんも。


紬も。


見ていた。


「刀も使えない! 馬も下手! 走れば転ぶ! じゃあ喋るか餌になるくらいでしょう!」


自分で言って。


少し悲しくなった。


「……何かもっとあると思いますけど」


小十郎さんが言う。


「今それ慰めてます?」


「一応」


「もっと心を込めてくださいよ!」


紬が。


こっちへ来た。


そして。


俺の頭を。


叩いた。


「痛っ!」


「馬鹿」


「何で!?」


「餌になるって言ったから」


「まだなってない!」


「なろうとした」


「そうですけど!」


「馬鹿」


もう一度。


叩かれた。


「二回言うな!」


でも。


紬の手が。


少し震えていた。


俺は。


それに気づいた。


ただ。


何も言わなかった。


言ったら。


たぶん。


怒るから。


     ◇


結局。


三人を捕らえた。


左頬に傷のある男。


若い男。


そして。


少し年上の。


口数の少ない男。


志乃は逃げた。


悔しい。


でも。


全部を捕まえるなんて。


そう簡単にはいかない。


俺たちは。


一番若い男から話を聞いた。


「誰の命令です?」


俺が聞く。


男は黙っている。


新八さんが。


前へ出る。


「待ってください」


俺は止めた。


「何だ」


「怖い」


「お前が?」


「俺もですけど、この人も!」


若い男が。


少しだけ。


俺を見る。


たぶん。


呆れた。


「名前」


俺は聞く。


答えない。


「俺は拓真です」


新八さんが言う。


「名乗る必要はない」


「こういうのは順番なんですよ」


「何の順番だ」


「営業です」


「知らん」


男が。


ほんの少し。


笑った。


よし。


いや。


何がよしなのか。


自分でも分からない。


でも。


俺は続けた。


「俺を連れていって、どうするつもりだったんです?」


沈黙。


「殺す?」


首が。


ほんの少し動く。


違う。


「閉じ込める?」


反応なし。


「聞く?」


指が動いた。


俺は。


そこを見た。


「何を?」


男は。


黙る。


「未来のこと?」


今度は。


分かりやすかった。


顔が。


固まった。


当たり。


背中が冷える。


「何を知りたい」


小十郎さんが聞いた。


男は。


答えない。


「戦の勝ち負け?」


俺が聞く。


「誰が天下を取るか?」


反応。


少し。


でも。


まだ違う。


「伊達政宗?」


男の目が動いた。


俺は。


息を止めた。


「政宗様の未来?」


沈黙。


当たりだ。


「何を知りたいんです」


声が。


少し。


震えた。


嫌だ。


本当に。


俺は。


未来を。


知っている。


少なくとも。


歴史の大筋は。


伊達政宗が。


天下を取らないことも。


豊臣秀吉に従うことも。


徳川の世を生きることも。


でも。


どこまで話せば。


歴史が変わる?


もう。


変わってる?


俺がいる時点で。


分からない。


「申せ」


新八さんが。


低く言った。


男は。


しばらく黙っていた。


それから。


やっと。


口を開いた。


「殿は」


「誰の?」


俺が聞く。


男は答えない。


「あなたたちの殿?」


また沈黙。


「その人は」


男の声。


かすれていた。


「知りたいだけだ」


「何を」


「伊達政宗が」


俺の心臓が。


大きく鳴る。


「天下を取るのか」


男は。


俺を見る。


まっすぐ。


「それとも」


少し。


間を置いた。


「死ぬのか」


誰も。


言葉を出さなかった。


山の夜。


虫の声。


風。


全部。


やけに。


遠い。


俺は。


男を見る。


「それを知って」


聞いた。


「どうするんです」


男は。


笑った。


弱く。


嫌な笑いだった。


「決める」


「何を」


「誰につくか」


ぞっとした。


そうだ。


この時代。


勝つ人間につく。


生き残る人間につく。


未来を知れば。


それができる。


俺は。


ただの未来人じゃない。


この時代の人間にとっては。


まだ起きていないことを。


知っている。


金より。


刀より。


価値があるかもしれない。


「拓真殿」


小十郎さんが。


呼んだ。


「はい」


「何も答えなくてよろしい」


「でも」


「答えてはなりません」


声が。


強い。


俺は。


初めて。


少し。


怖くなった。


自分が。


未来を知っていることが。


その時だった。


左頬に傷のある男が。


笑った。


「もう遅い」


全員が。


そちらを見る。


「何が」


新八さんが聞く。


男は。


血の混じった唾を。


地面へ吐いた。


「お前たちが未来人を匿っていることは」


笑う。


「もう」


俺を見る。


「伊達家の中で、俺たち以外にも知っている」


俺の喉が。


乾いた。


「誰です」


答えない。


「誰が知ってる」


もう一度。


聞く。


男は。


笑った。


「お前は」


俺を見る。


「政宗のそばにいる者を、何人信じている?」


俺は。


答えられなかった。


男が。


さらに。


笑った。


「その中にいる」


俺の背中が。


冷えた。


政宗。


小十郎さん。


新八さん。


成実。


屋敷。


家臣。


女中。


兵。


誰だ。


誰を。


疑えばいい。


いや。


また。


それか。


信じたい。


でも。


疑わなければならない。


人間は。


本当に。


面倒だ。


その時。


小十郎さんが。


静かに言った。


「戻りましょう」


俺は見る。


「でも」


「殿へ報告します」


その顔。


もう。


笑っていなかった。


「今度は」


小十郎さんが言った。


「伊達家の中を、洗う必要があります」


そして。


俺は。


ようやく。


気づいた。


水路から始まった。


ただの泥掃除だったはずの話が。


いつの間にか。


伊達政宗の。


すぐそばまで。


敵を連れてきていたことに。


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