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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第21話 十人の美少女を連れて帰ったら、全員まとめて家来にされそうです

「明日から水路を直せ」


政宗が言った。


俺は叫んだ。


「結局そこに戻るのかよ!」


部屋が静まり返った。


しまった。


相手は伊達政宗。


伊達家当主。


戦国大名。


しかも今。


俺の後ろには。


紬。


千代。


そして、砦から助け出した八人の少女たちがいる。


全員。


俺を見ていた。


政宗が言う。


「拓真」


「はい」


「今、俺に向かって何と申した」


「水路の件、承知いたしました」


「違うな」


「気のせいです」


「俺の耳はよい」


「片方だけじゃないんですか?」


部屋が凍った。


小十郎さんが目を閉じた。


新八さんが、


「お前は本当に死にたいのか」


という顔をしている。


紬が小声で言った。


「馬鹿」


「今のは俺もそう思う」


素直に認めた。


だが。


政宗は怒らなかった。


むしろ。


楽しそうに笑った。


「まあよい」


「いいんだ……」


「それより拓真」


政宗が俺の後ろを見る。


俺も振り返る。


十人。


いや。


こうして改めて見ると、本当に多い。


紬は不機嫌そう。


千代は紬の袖を掴んでいる。


ほかの少女たちは。


俺たちから少し距離を置いて座っていた。


怖いのだ。


当然だろう。


砦から助け出されたと思ったら。


今度は武士の屋敷。


目の前には知らない男たち。


刀まである。


こんな状況で、


――わあ、助かってよかった!


と笑える人間の方が珍しい。


「この娘たち」


政宗が言った。


「すべて、お前の家来とせよ」


「待ってください」


即答した。


政宗の眉が動く。


「何だ」


「本人たちの意思は?」


「聞けばよい」


「じゃあ聞きます」


俺は後ろを向いた。


少女たちを見る。


「俺の家来になります?」


沈黙。


長い。


誰も。


答えない。


政宗を見る。


「ほら」


「何が、ほら、だ」


「嫌なんですよ」


「まだ誰も嫌とは申しておらぬ」


その時。


一人の少女が。


小さく手を上げた。


年齢は十八くらいだろうか。


十人の中では。


紬と並んで年長に見える。


少し長めの黒髪。


細い目。


美人だ。


ただ。


ものすごく警戒されている。


目が怖い。


「あの」


俺は言った。


「どうぞ」


少女が聞いた。


「家来になれば」


「はい」


「何をするの」


「……」


俺は政宗を見た。


政宗が俺を見る。


「何で俺を見る」


「だって、俺も分からないんです」


「お前の家来であろう」


「今決めたの政宗様じゃないですか!」


「なら、お前が決めろ」


横暴。


本当に。


この人。


権力があれば何をしてもいいと思っているのだろうか。


いや。


戦国大名だから。


ある意味そうなのかもしれない。


嫌な時代だ。


「まだ決めてません」


俺は正直に答えた。


少女の目が細くなる。


「じゃあ、何で家来にするの」


「それ、俺も聞きたいです」


政宗が笑った。


「面白いからだ」


「理由になってない!」


俺が叫ぶ。


すると。


少女が。


ほんの少し。


笑った。


初めてだった。


この子が笑うのを見たのは。


「名前」


俺が聞いた。


少女の表情が消えた。


「あ」


まただ。


失敗した。


名前。


ここにいる少女たちの中には。


捨てた者も。


忘れたい者も。


そもそも自分の名前を持っていない者もいるかもしれない。


「言いたくなければ」


「楓」


少女が言った。


「え?」


「楓」


「そうですか」


俺は少し笑った。


「よろしくお願いします、楓さん」


「まだ家来になるとは言ってない」


「ですよね」


難しい。


人間関係。


本当に。


     ◇


「では」


俺は少女たちの前に座った。


政宗。


小十郎さん。


新八さん。


全員いる。


正直。


こんな大人数に見られながら話すのは嫌だ。


営業時代のプレゼンを思い出す。


しかも。


あの頃は。


失敗しても上司に怒られるだけだった。


今は。


少女たちの人生がかかっている。


重い。


「まず」


俺は言った。


「無理に俺の家来になる必要はありません」


政宗が言う。


「俺はなれと申したぞ」


「黙っててください」


また。


空気が止まった。


紬が小声で言う。


「よく生きてるね」


「俺も不思議です」


政宗は。


楽しそうに笑っていた。


もう。


この人は放っておこう。


「帰る場所がある人は」


俺は続けた。


「帰っていいです」


一人の少女が聞いた。


「送ってくれるの?」


十二、三くらい。


小柄な子。


「できるだけ」


「遠くても?」


「……小十郎さん」


「なぜ私を見るのです」


「俺、この時代の地理分からないんで」


小十郎さんがため息をついた。


「可能な範囲で手配しましょう」


「だそうです」


「拓真殿」


「何です」


「あなたが答えたように見せないでください」


「細かいなあ」


「聞こえております」


「すみません」


少女たちから。


少しだけ。


笑いが漏れた。


本当に。


少しだけ。


でも。


さっきより空気が柔らかくなった。


「帰りたくない人も」


俺は言う。


「いると思います」


誰も答えなかった。


でも。


何人かが俯いた。


帰れば。


また売られる。


殴られる。


食べられない。


そういう場所を。


家と呼ぶのか。


俺には分からない。


「だから」


言葉を選ぶ。


「ここにいたいなら、いてもいいです」


楓が聞いた。


「ただで?」


「え?」


「何もしなくても、飯を食べていいの」


難しい質問だった。


俺は。


すぐに、


――もちろん。


と言いそうになった。


でも。


政宗の言葉を思い出す。


助けた後。


どうやって食わせる。


どうやって暮らす。


俺自身。


何も持っていない。


「最初は」


答えた。


「何もしなくていいです」


楓の目が動く。


「疲れてる人もいるだろうし。怖い人もいるだろうし。しばらく休んだ方がいい人もいる」


「しばらくって」


「分かりません」


「曖昧」


「すみません。でも、分からないものは分からないんです」


俺は続ける。


「ただ、ずっと何もしなくていいとは言えません」


空気が。


少し硬くなった。


でも。


嘘は。


つきたくない。


「ここで食べて。寝て。生きていくなら。できることを探してほしい」


少女の一人が聞いた。


「できること、なかったら?」


「一緒に探します」


「見つからなかったら?」


「……その時また考えます」


「そればっかり」


紬が言った。


「うるさいな!」


でも。


少女たちが。


また少し笑った。


楓が言う。


「私は働く」


「え?」


「飯をただでもらうのは嫌」


「そんなに急がなくても」


「嫌なの」


強い声。


俺は黙った。


人には。


色々ある。


施しを受ける方が苦しい人もいる。


何もしないことで。


自分が無価値だと思ってしまう人もいる。


「何ができます?」


聞いた。


「縫い物」


「他は?」


「飯を炊ける。山菜も分かる。少しなら薬草も」


「すごいじゃないですか」


「普通」


「俺にはできません」


「何ができるの」


「営業」


「何それ」


「人に頭を下げます」


楓が。


初めて。


はっきり笑った。


「役に立たなそう」


「ひどい!」


新八さんが頷いた。


「同感だ」


「あなたまで!」


     ◇


次に。


千代。


「私は」


声が小さい。


紬の後ろ。


半分隠れている。


「何もできない」


「そんなことないでしょう」


「できない」


「料理とか」


首を振る。


「縫い物」


首を振る。


「掃除」


首を振る。


「全部駄目?」


頷いた。


紬が言う。


「千代は不器用」


「紬!」


千代が泣きそうになる。


「だって本当」


「もう少し言い方あるでしょう!」


「でも」


千代が。


小さく言った。


「子守なら」


俺は見る。


「子供好きなんです?」


「分からない」


「分からない?」


「小さい子に泣かれると」


少し考える。


「私も泣くから」


「何です、それ」


思わず笑った。


千代がむっとする。


「じゃあいい」


「いやいや! いいです!」


慌てた。


「それも立派なことですよ」


「本当?」


「本当です」


「絶対?」


「……たぶん」


「そこは絶対って言って!」


「嘘つきたくないんですよ!」


千代が。


少し笑った。


紬も。


     ◇


一人ずつ。


話を聞いた。


帰りたい子。


残りたい子。


まだ決められない子。


男を見るだけで震える子。


何も喋らない子。


全員違う。


当然だ。


十人いれば。


十通り。


面倒だ。


ものすごく。


でも。


何となく。


悪くないと思った。


最後に。


政宗が言った。


「では決まりだな」


「何がです?」


「残る者は、お前の配下だ」


「だから本人の意思!」


「聞いたであろう」


「家来になるかまでは聞いてない!」


紬が言う。


「私は家来」


「一月だけでしょう」


「あと十九日」


「数えてるんですか!」


「当然」


千代が。


紬の袖を引いた。


「じゃあ私も」


「え?」


「紬が家来なら」


千代が俺を見る。


怖そうに。


でも。


逃げずに。


「私も家来になる」


俺は。


少しだけ。


困った。


「無理しなくていいですよ」


「無理してない」


「本当に?」


「……少ししてる」


正直だ。


俺は笑った。


「じゃあ、少しずつで」


千代が頷く。


政宗が言う。


「これで二人だな」


「数えないでください」


「楓は」


俺たちは楓を見る。


楓は腕を組んでいた。


「飯と寝床」


「はい」


「働いた分は認める」


「はい」


「勝手に売らない」


「絶対売りません」


「なら」


一度。


俺を見る。


「しばらく働く」


政宗が言う。


「三人」


「楽しそうですね!」


「面白いからな」


「この人、本当に何でも面白がるな!」


すると。


ずっと黙っていた小十郎さんが言った。


「しかし、拓真殿」


「はい」


「現実の問題があります」


嫌な予感。


「何です」


「十人分の食事です」


「……」


「衣服」


「……」


「寝床」


「……」


「薬」


「……」


「その他、日々必要になるもの」


俺は。


ゆっくり。


政宗を見る。


政宗が。


にやりと笑った。


「だから申したであろう」


「何を」


「飯を増やせ、と」


俺は。


頭を抱えた。


全部。


繋がっている。


兵。


米。


水路。


村。


紬。


千代。


少女たち。


飯。


そして。


俺。


「……政宗様」


「何だ」


「これ」


「うむ」


「最初より仕事増えてません?」


「当然だ」


「何で!」


「お前が十人も拾ってきたからだ」


「好きで拾ったんじゃない!」


後ろから。


十人分の視線。


刺さる。


「あ」


しまった。


また言った。


「違う! そういう意味じゃなくて!」


紬がため息をつく。


千代が笑う。


楓が呆れた顔をした。


政宗は。


腹を抱えて笑っている。


俺は。


天井を見上げた。


会社を辞めた。


自由になりたかった。


それなのに。


今や。


戦国大名の無茶振り。


水路改革。


十人の少女。


飯。


寝床。


全部。


俺の肩に乗っている。


「拓真」


政宗が呼ぶ。


「何です」


「明日」


嫌だ。


もう。


言わなくても分かる。


「水路を直せ」


俺は叫んだ。


「だから簡単に言うなあああああ!」


そして翌朝。


村へ向かおうとした俺の前に。


紬。


千代。


楓。


三人が立っていた。


「何してるんです?」


聞くと。


紬が言った。


「行く」


千代も。


「私も」


楓は。


「働くって言ったから」


俺は。


三人を見る。


そして。


嫌な予感がした。


この三人。


絶対。


全員。


違う意味で面倒くさい。


俺はまだ知らなかった。


この日。


水路の泥を掘り返した先から。


とんでもないものが出てくることを。


伊達家の米を増やすどころか。


人買いと水番役人の背後にいる。


もっと大きな黒幕へ繋がる。


焼け残った帳簿の一部が。


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