表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/26

第19話 千代を見つけた。でも、助けるだけでは終われなかった

「拓真! 伏せろ!」


新八さんの声。


俺は。


考えるより先に。


地面へ倒れ込んだ。


次の瞬間。


頭の上を。


何かが飛んだ。


ヒュッ。


そんな音。


直後。


「ぐあっ!」


男の悲鳴。


顔を上げる。


見張りの男が倒れていた。


そのすぐそば。


地面に。


矢が刺さっている。


「……え」


俺は固まった。


当たった?


いや。


外れたのか。


わざと?


分からない。


でも。


怖い。


本物だ。


本当に。


映画でも。


ゲームでもない。


今。


俺の頭の上を。


人を殺せる矢が飛んだ。


「拓真!」


紬の声で我に返る。


「何ぼうっとしてるの!」


「いや、だって今、矢が!」


「今さら!?」


「今さらで悪いですか!」


「馬鹿!」


「知ってる!」


叫びながら立ち上がった。


その時。


もう一人の見張りが。


刀を抜いて紬へ走った。


「紬!」


俺は叫んだ。


でも。


何もできない。


刀もない。


あったとしても使えない。


ただ。


叫ぶだけ。


悔しい。


その男と紬の間に。


新八さんが入った。


刀。


音。


一瞬だった。


本当に。


何が起きたのか分からない。


男の刀が地面に落ちる。


新八さんが。


相手を蹴り倒した。


「行け!」


「でも」


「中へ行け!」


怒鳴られる。


俺は紬を見る。


紬も俺を見る。


頷く。


走った。


今度は。


転ばない。


絶対に。


転べない。


     ◇


砦の中は。


暗かった。


臭かった。


湿気。


汗。


煙。


それから。


血の臭いもした気がする。


いや。


俺が怖がりすぎて。


そう思っただけかもしれない。


「千代!」


紬が叫ぶ。


返事はない。


「千代!」


奥から。


物音。


俺は止まる。


紬は止まらない。


「待って!」


腕を掴む。


「離して!」


「一人で行かないで!」


「千代がいる!」


「分かってます!」


「じゃあ離して!」


「だから一緒に行くって言ってるんでしょう!」


紬が俺を見る。


怒っている。


泣きそうでもある。


怖いのだ。


たぶん。


扉の向こうに。


千代がいなかったら。


いたとしても。


間に合わなかったら。


それを。


確かめるのが。


怖い。


俺だって。


怖い。


「一緒に行きます」


もう一度言った。


紬は。


返事をしなかった。


でも。


俺の手を振り払わなかった。


奥へ進む。


部屋があった。


戸が閉まっている。


外から。


太い木の棒が掛けられていた。


「これ」


俺は棒を持つ。


重い。


「紬、手伝って」


「分かった」


二人で持ち上げる。


重い。


本当に重い。


「せーの!」


「うるさい!」


「掛け声くらいいいでしょう!」


「集中して!」


「してます!」


やっと外れた。


床へ落ちる。


大きな音。


俺と紬が。


一瞬。


顔を見合わせる。


「開けますよ」


「うん」


戸を開けた。


暗い。


最初は。


何も見えなかった。


でも。


いた。


人。


一人。


二人。


三人。


もっと。


少女たち。


壁際。


身体を寄せ合っている。


誰も。


声を出さない。


俺たちを。


怯えた目で見ていた。


「……千代」


紬の声。


その瞬間。


奥にいた一人の少女が。


肩を震わせた。


小柄。


痩せている。


髪は乱れ。


汚れた着物。


顔色も悪い。


でも。


年齢は。


十五、六くらいだろうか。


紬より。


少し幼い。


「千代?」


紬が。


一歩。


近づく。


少女が。


後ずさった。


「いや」


紬が止まる。


「千代」


「来ないで」


声。


小さい。


震えている。


「私」


「来ないで!」


叫んだ。


紬の顔が。


固まった。


俺も。


動けなかった。


千代は。


両腕で身体を抱いている。


震えている。


「私だよ」


紬が言った。


「紬だよ」


「知ってる」


「生きてたんだね」


「……」


「私、ずっと」


「嘘」


紬が黙る。


「千代?」


「嘘」


千代は。


紬を睨んでいた。


泣いている。


でも。


その目には。


喜びより。


怒りがあった。


「探した」


紬が言う。


「本当に」


「嘘!」


千代が叫んだ。


「じゃあ何で来なかったの!」


誰も。


喋れなかった。


「ずっと待ってた!」


千代の声が。


砦の中に響く。


「紬が来るって思ってた! 絶対来るって! だって紬、逃げる時に言ったでしょう! すぐ戻るって!」


紬の唇が。


震えた。


俺は。


初めて知った。


そうだったのか。


紬は。


一人で逃げたんじゃない。


「戻った」


紬が言った。


「戻ったよ」


「嘘!」


「本当に戻った!」


「いなかった!」


「いなかったのは千代でしょう!」


紬も叫んだ。


「私が戻った時には、もう誰もいなかった!」


「じゃあもっと探せばよかった!」


「探した!」


「足りない!」


「探したよ!」


二人とも。


泣いていた。


怒鳴りながら。


泣いている。


俺は。


何も言えなかった。


どちらが正しい。


そんな話じゃない。


紬は。


まだ十五くらいだった。


一人で逃げ。


戻った。


でも千代はいなかった。


千代は。


置いていかれた。


そう思ったまま。


ずっと。


待った。


どっちも。


悪くない。


でも。


悪くないから傷つかないわけじゃない。


人間って。


本当に。


面倒だ。


正しいことと。


許せることは。


同じじゃない。


「私」


千代が言った。


「ずっと怖かった」


声が。


急に小さくなった。


「何度も売られて。怒鳴られて。逃げたら殺すって言われて」


紬が。


一歩。


近づく。


今度は。


千代は動かなかった。


「毎日」


千代が続ける。


「紬が来るって思ってた」


「……ごめん」


「遅いよ」


「ごめん」


「遅い」


「ごめん」


紬は。


それしか言わなかった。


千代が。


泣きながら。


紬の胸を叩いた。


一回。


二回。


三回。


「遅い!」


「ごめん」


「馬鹿!」


「うん」


「嫌い!」


「うん」


「ずっと待ってた!」


「ごめん」


そして。


千代が。


紬にしがみついた。


紬も。


抱きしめた。


俺は。


目を逸らした。


見てはいけない気がした。


でも。


少しだけ。


安心した。


本当に。


少しだけ。


     ◇


「拓真」


しばらくして。


紬が俺を呼んだ。


「はい」


見る。


千代は。


紬にしがみついたままだった。


目が合う。


怯えた。


すぐに。


紬の後ろへ隠れる。


なるほど。


俺も初対面の紬に似たことをされた。


少し懐かしい。


まだ数日しか経ってないけど。


「その人、誰」


千代が聞く。


紬が答える。


「馬鹿」


「紹介ひどくない!?」


思わず叫んだ。


部屋にいた少女たちが。


びくっとする。


「あ」


やってしまった。


俺は慌てて声を落とす。


「ご、ごめんなさい」


紬が言う。


「ほら」


「何がほらなんです!」


千代が。


ほんの少し。


俺を見る。


「……変な人」


「初対面で二人続けて同じようなこと言われるの傷つくな」


「でも」


紬が言った。


「悪い奴じゃない」


俺は。


驚いて紬を見る。


「何」


「いや」


「気持ち悪い」


「今ちょっと感動したのに!」


千代が。


少しだけ。


笑った。


ほんの。


本当に。


少しだけ。


その時だった。


部屋の奥から。


声がした。


「あの」


別の少女。


俺を見る。


年齢は十三、四くらい。


怯えている。


「私たちは」


言った。


「どうなるんですか」


俺は。


言葉を失った。


部屋には。


千代だけじゃない。


七人。


いや。


奥にもいる。


九人。


全員。


少女。


俺は思い出す。


政宗の言葉。


――一人助けて終わりではない。


「帰る場所は?」


聞いた。


少女が俯く。


別の少女が言う。


「ない」


「私は」


もっと小さい子。


「帰ったら、また売られる」


誰かが。


泣き始めた。


俺は。


胸が苦しくなった。


千代を見つけた。


助けた。


よかった。


本当に。


それで終わると思っていた。


いや。


心のどこかで。


終わってほしかった。


でも。


終わらない。


助けた後。


どうする。


どこで寝る。


何を食べる。


どう生きる。


俺は。


何も持っていない。


家も。


土地も。


金も。


ない。


でも。


約束した。


政宗にも。


俺自身にも。


「全員」


気づけば。


言っていた。


「一緒に出ましょう」


少女たちが。


俺を見る。


「でも」


「その後は」


詰まる。


どうする。


分からない。


本当に。


でも。


「その後は」


もう一度。


言った。


「俺が何とかします」


紬が。


冷静に聞いた。


「どうやって」


「それは」


黙る。


「政宗様に頼みます」


紬が。


呆れた顔をした。


「最低」


「他に方法ないでしょう!」


千代が。


少し笑った。


その時。


砦の外から。


怒鳴り声。


刀の音。


そして。


新八さんの声。


「拓真! 早く娘たちを連れて出ろ!」


俺は答える。


「はい!」


だが。


次の瞬間。


焦げ臭い匂いがした。


紬が。


顔を上げる。


「……火?」


俺も。


気づいた。


煙。


廊下の向こうから。


流れ込んでくる。


誰かが叫んだ。


「火を放たれたぞ!」


少女たちが。


一斉に悲鳴を上げた。


俺は。


その時。


初めて理解した。


見つけることと。


助けることは。


同じじゃない。


俺たちはまだ。


誰一人。


救えていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ