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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第17話 千代は昨日、西へ売られました

「千代、生きてる」


紬が言った。


俺の袖を。


強く掴んだまま。


「生きてる」


もう一度。


今度は。


自分に言い聞かせるように。


俺は頷いた。


「はい」


「昨日まで、ここにいた」


「はい」


「西へ行った」


「はい」


「なら」


紬が俺を見る。


目が。


怖いくらい真っ直ぐだった。


「今すぐ追う」


俺は。


反射的に。


「行きましょう」


と言った。


その瞬間。


新八さんに。


後頭部を叩かれた。


「痛っ!」


振り返る。


「何するんです!」


「馬鹿だからだ」


「最近それで全部済ませてません!?」


「お前は今、どこへ行くつもりだ」


「西です!」


「西のどこだ」


俺は黙った。


新八さんが続ける。


「何里先だ」


黙る。


「何人で追う」


黙る。


「相手は何人だ」


黙る。


「武器は」


「……刀?」


「疑問形で言うな!」


怒鳴られた。


悔しい。


でも。


何一つ答えられない。


紬が言う。


「そんなの、行けば分かる」


「分からぬ」


新八さんが即答する。


「分からなければ死ぬ」


「でも!」


「死ねば千代とやらを助けられるのか」


紬が黙った。


ひどい言い方だと思った。


でも。


言っていることは正しい。


正しいから。


余計に。


腹が立つ。


「じゃあ」


俺は聞いた。


「どうするんです」


「殿へ報告する」


「また戻るんですか!」


「当然だ」


「その間に、もっと遠くへ行く!」


思わず声を上げた。


「昨日出たんですよ! 一日違ったら、追いつけないかもしれない!」


新八さんが俺を見る。


険しい顔。


俺も引かなかった。


「拓真」


紬が小さく言った。


でも。


その声は。


止める声ではなかった。


たぶん。


同じ気持ちだった。


「行きたいです」


俺は言った。


「今すぐ」


新八さんは黙った。


「でも」


続ける。


「さっき言われて分かりました。俺だけじゃ何もできない」


情けない。


本当に。


でも。


事実だ。


「だから」


俺は歯を食いしばった。


「戻ります」


紬が俺を見る。


「拓真」


「分かってます」


「でも!」


「俺だって嫌です!」


声が大きくなった。


紬が黙る。


「今すぐ追いたいですよ! ここから西へ走って、見つけて、連れて帰れたら一番いい!」


「じゃあ」


「でも無理なんです!」


言った。


自分でも。


嫌になるくらい。


はっきりと。


「俺、弱いんです。刀も使えない。馬もろくに乗れない。さっきだって三歩で転びました」


「そこは言わなくていい」


「自分でもそう思います!」


少し。


空気が緩んだ。


でも。


紬は笑わなかった。


「千代を助けたいなら」


俺は続けた。


「助けられる形で行きましょう」


紬は俯いた。


長い。


長い沈黙。


そして。


「……嫌い」


と言った。


「え?」


「あんた、嫌い」


「何で今!?」


「正しいこと言うから」


俺は。


少しだけ。


笑った。


「分かります」


「何が」


「正しいこと言う人って、腹立ちますよね」


「自分で言うな」


今度は。


ほんの少し。


紬が笑った。


     ◇


屋敷へ戻った時。


政宗は。


まだ起きていた。


というより。


待っていた。


「遅い」


第一声。


いつもの政宗だ。


少し。


安心した。


「すみません」


「で」


政宗は俺たちを見る。


「見つけたか」


俺は。


一瞬。


言葉を失った。


たぶん。


顔で分かったのだろう。


政宗の表情から。


笑いが消えた。


「申せ」


小十郎さんが。


順番に報告した。


古い倉。


五つの木椀。


壁の文字。


西へ向かった荷車。


捕らえた男の証言。


そして。


千代が。


昨日まで生きていたこと。


最後まで。


政宗は黙って聞いた。


紬も黙っている。


俺も。


報告が終わる。


静かだった。


「つまり」


政宗が言う。


「昨日、西へ出た」


「はい」


俺は答えた。


「娘は二人」


「はい」


「そのうち一人が千代である可能性が高い」


「はい」


「確証はない」


「……はい」


一つ一つ。


事実だけを確認する。


その冷静さが。


今は。


少し腹立たしかった。


「追わせてください」


俺は言った。


「今すぐ」


政宗は俺を見る。


「誰を」


「俺たちを」


「却下だ」


即答。


「なぜ!」


「弱いからだ」


「うっ」


同じこと。


さっき自分で言った。


人から言われると。


こんなに傷つくのか。


「でも!」


「拓真」


政宗の声が低くなった。


「一人救うために、お前まで死ぬつもりか」


「死ぬつもりはありません!」


「死ぬ者は皆そう言う」


言葉が詰まった。


政宗は続ける。


「相手の数は」


「分かりません」


「行き先は」


「西です」


「西のどこだ」


「分かりません」


「敵の武器は」


「……分かりません」


「ならば」


政宗は言った。


「お前は何をしに行く」


「助けに!」


「違う」


強い声。


部屋の空気が変わった。


「死にに行くのだ」


俺は黙った。


腹が立った。


政宗に。


自分に。


何もできないことに。


「でも」


紬が言った。


全員が見る。


「待ってたら、もっと遠くへ行く」


声が震えている。


「千代は、ずっと泣いてた。弱いから。怖がりだから。誰かに怒鳴られたらすぐ謝るし」


止まらない。


「私より、ずっと弱い」


俺は。


その言葉を。


前にも聞いた。


だから。


紬は。


気になるのだ。


「また売られたら」


紬が言う。


「今度こそ、見つからないかもしれない」


政宗は。


しばらく。


紬を見ていた。


そして。


「小十郎」


「はっ」


「追っ手を出せ」


俺は顔を上げた。


紬も。


「騎馬五。足軽十」


「承知」


「街道と間道を分けて追わせろ」


「はっ」


「宿。関所。渡し場。西へ抜ける道すべてに知らせろ」


俺は。


思わず言った。


「本当に?」


政宗が睨む。


「嘘を申してどうする」


「いや、でも」


「俺は最初から、追わぬとは言っておらぬ」


「じゃあ何で!」


「お前を行かせぬと言っただけだ」


腹が立つ。


ものすごく。


「じゃあ俺は?」


「待て」


「嫌です!」


即答した。


政宗が眉を上げる。


「ほう」


「俺も行きます」


「死ぬぞ」


「死にません」


「根拠は」


「ありません!」


「胸を張るな!」


珍しく。


政宗が叫んだ。


少し。


気持ちいい。


「でも」


俺は続けた。


「紬は千代の顔を知ってる。俺は紬を一人で行かせたくない」


紬が俺を見る。


「一人で行くなんて言ってない」


「言いそうだから先に言いました」


「うるさい」


「ほら!」


新八さんが。


小さく笑った。


政宗は。


しばらく俺を見る。


それから。


「ならば」


と言った。


嫌な予感。


「新八」


「はっ」


「二人をつけろ」


「は?」


俺と新八さんの声が重なった。


「なぜ私が!」


「嫌なのはこっちですよ!」


「貴様!」


「何です!」


「拓真」


政宗が言う。


「お前は新八の言うことを聞け」


「それは難しい相談ですね」


「斬るぞ」


「はい、聞きます」


即答。


紬が笑った。


「弱い」


「命が大事なんです!」


政宗はため息をついた。


「それと」


「まだあるんですか」


「千代だけを探すな」


俺は黙った。


「どういう意味です」


「売られた娘は他にもいるのであろう」


紬が顔を上げる。


政宗は続けた。


「一人助けて終わりではない」


その声は。


静かだった。


「売った者。買った者。運んだ者。すべて洗え」


小十郎さんが頷く。


「承知」


「娘たちは可能な限り救い出せ」


俺は。


政宗を見る。


「全部?」


「全部だ」


「何で」


つい。


聞いてしまった。


政宗が俺を見る。


「俺の領内で」


少し間を置く。


「俺に断りもなく人を売る者がいる」


怖かった。


本当に。


笑っていない。


「面白くない」


その一言。


いつもの。


『面白い』


とは。


真逆だった。


「拓真」


「はい」


「お前は千代を探せ」


「はい」


「ただし」


「分かってます」


「まだ何も言っておらぬ」


「勝手に動くな、でしょう」


政宗が少し笑った。


「学んだな」


「毎日怒られてますから」


「ならばよい」


「褒められた気がしない」


紬が言う。


「気のせい」


「あなたまで!」


小十郎さんが。


ほんの少し。


笑った。


そして。


翌朝。


俺たちは西へ向かった。


新八さん。


紬。


俺。


護衛の兵たち。


そして。


先行した追跡隊から。


最初の知らせが届いた。


荷車は。


街道を外れ。


山へ入った。


しかも。


その先には。


地図にも載らない。


古い砦があるという。


そして。


夜になると。


少女の泣き声が聞こえるらしい。


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