表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/18

第11話 初めての侍女が、俺の荷物を全部捨てようとしています

「ちょっと待てええええ!」


俺の叫び声が、屋敷に響いた。


床に転がる着替え。


鞄。


財布。


ガイドブック。


折り畳み傘。


その他。


俺が二〇二六年から持ってきた、数少ない私物たち。


それらを。


紬が。


何のためらいもなく。


部屋の外へ放り出していた。


「待て! 本当に待って!」


俺は慌ててガイドブックを拾った。


危ない。


危なすぎる。


これは俺が未来から持ってきた大事なものだ。


宮城県の観光案内が載っている。


つまり、この時代では未来の情報そのものだ。


政宗に見つかったら絶対面倒なことになる。


『この道は何だ』


『この城はいつできる』


『なぜ俺の墓が載っておる』


絶対に聞かれる。


特に最後。


考えただけで胃が痛い。


「紬!」


「何」


「何してるんです!」


「片づけ」


「捨ててるだけでしょうが!」


「同じ」


「全然違う!」


紬は相変わらず無表情だった。


いや。


少しだけ不機嫌そうだ。


どうして俺が怒られているのだろう。


被害者は俺だ。


「だって汚い」


「そこまで汚くないですよ!」


「汚い」


「少しくらい散らかってる方が落ち着くんです!」


「言い訳」


「違います! 生活様式です!」


「汚い人の生活様式?」


「口が悪いな!」


俺が叫ぶと。


廊下の向こうから笑い声が聞こえた。


新八さんだった。


「何ですか!」


「いや」


口元を押さえている。


完全に笑っている。


「よき侍女を得たな、拓真」


「どこがですか!」


「お前にはそれくらいでちょうどよい」


「初日に荷物を捨てる侍女がどこにいるんです!」


「ここ」


紬が言った。


「あなたは黙ってて!」


「うるさい」


「俺の部屋!」


「私の仕事場」


「まだ何も仕事してないでしょう!」


「片づけてる」


「だから捨ててるだけだ!」


新八さんがとうとう声を上げて笑った。


この人。


本当に人の不幸が好きになっていないだろうか。


「覚えててくださいよ」


「何をだ」


「俺がいつか偉くなったら、雑用ばっかり押しつけますからね」


「お前が?」


「何です、その反応」


「いや」


新八さんは俺を見る。


上から。


下まで。


「無理ではないか」


「この時代に来て一番傷ついた!」


紬まで。


少し笑っていた。


おい。


     ◇


結局。


俺と紬は一刻ほどかけて部屋を片づけた。


正確には。


紬が勝手に物を動かし。


俺がそれを元に戻し。


紬がまた動かし。


俺が怒る。


その繰り返しだった。


「これ何」


紬が財布を持ち上げる。


「財布です」


「金、入ってる?」


「入ってます」


「使える?」


「使えません」


「じゃあいらない」


「捨てるな!」


危ない。


本当に危ない。


俺は財布を取り返した。


「じゃあ、これは」


スマートフォン。


俺の顔色が変わった。


「触らないで!」


紬が止まった。


俺も止まった。


ちょっと声が強すぎた。


「……そんなに大事なの」


「はい」


「何で」


「俺のいた時代のものだから」


「未来?」


「そうです」


紬はスマホをじっと見た。


「本当に?」


「何がです」


「本当に未来から来たの」


俺は少し迷って。


答えた。


「はい」


「証拠は」


「政宗様と同じこと言うなあ」


「あるの?」


「ありますけど」


「見せて」


「嫌です」


「何で」


「バッテリーがもったいないから」


「ばってりー?」


ほら始まった。


俺は頭を抱えた。


「説明すると長いんです」


「じゃあいい」


「諦め早いですね」


「興味ないし」


「聞いてきたのあなたでしょう!」


本当に面倒くさい。


でも。


その時。


ほんの一瞬だけ。


紬の顔から。


いつもの刺々しさが消えた。


「未来って」


彼女が言った。


「腹、減らないの」


俺は答えに詰まった。


「……減りますよ」


「でも、飯はあるんでしょ」


「金があれば」


「毎日?」


「大体は」


紬が黙る。


俺も。


何となく。


それ以上。


軽々しく喋れなかった。


コンビニ。


スーパー。


ファミレス。


冷蔵庫。


炊飯器。


俺にとって当たり前だったもの。


この時代では。


当たり前ではない。


「何です?」


俺が聞く。


紬は顔を逸らした。


「別に」


それ以上。


何も言わなかった。


     ◇


夕食。


紬は。


驚くほど静かだった。


いや。


静かすぎた。


俺の隣に座って。


黙々と米を食べる。


味噌汁。


漬物。


魚。


一口。


また一口。


早い。


物凄く早い。


「ゆっくり食べた方がいいですよ」


「うるさい」


「喉に詰まりますよ」


「詰まらない」


「そう言ってる人が詰まらせるんです」


「未来人って、みんな小言が多いの」


「俺だけだと思います」


「最悪」


「ひどいな!」


新八さんが笑う。


まただ。


もう。


これから毎日こうなる気がする。


「紬」


俺は言った。


「魚も食べていいですよ」


「食べてる」


「いや、それ俺のです」


「くれるんでしょ」


「言ってない!」


紬は。


俺の魚を取った。


普通に。


当然のように。


「ちょっと!」


「何」


「それ、楽しみにしてたんですよ!」


「じゃあ返す?」


魚。


一口かじられている。


「……いいです」


「そう」


「腹立つなあ」


紬はまた食べる。


でも。


不思議だった。


あれだけ腹が減っていたのに。


少しずつ。


少しずつ。


食べる速度が落ちていた。


そして。


最後。


紬は。


握り飯を一つ。


懐へ入れた。


俺は気づいた。


でも。


何も言わなかった。


     ◇


夜。


眠れなかった。


理由は簡単。


布団が違う。


枕が違う。


静かすぎる。


そして。


蚊がいる。


「……現代に帰りたい」


本気で思う。


特に蚊。


ブーン。


耳元。


「うるさい!」


手を振る。


逃げられる。


これを何度繰り返したか。


その時。


廊下で。


小さな音がした。


俺は起き上がる。


誰だ?


泥棒?


刺客?


戦国時代だ。


あり得る。


心臓が鳴る。


俺はそっと障子を開けた。


暗い。


月明かり。


そして。


いた。


紬。


廊下の隅。


膝を抱えて座っていた。


「……何してるんです?」


紬の肩が跳ねる。


「何でもない」


「いや、どう見ても何でもなくないでしょう」


「寝ろ」


「俺の部屋の近くですよ」


「だから何」


「眠れなくて」


「知らない」


本当に可愛くない。


俺はため息をついた。


隣に座る。


紬が少し離れた。


傷つく。


「何です、その距離」


「近い」


「このくらい普通でしょう」


「嫌」


「はいはい」


しばらく。


黙った。


風の音。


虫の声。


遠くで誰かが咳をした。


そして。


俺は見つけた。


紬の懐から。


少し。


握り飯が見えている。


夕食の時の。


「それ」


紬が反射的に隠した。


「見るな」


「盗んだとは言いませんよ」


「……」


「夕飯の時に持っていったの、見てました」


「何で言わなかった」


「別に」


「怒らないの」


「何で怒るんです?」


紬は答えない。


俺は聞いた。


「明日のためですか」


沈黙。


「明日、食べられないかもしれないから?」


紬の顔が固まった。


しまった。


と思った。


でも。


もう遅い。


「……悪い?」


「悪くないです」


「嘘」


「本当です」


「嘘」


「じゃあ」


俺は言った。


「俺も持っておきます」


「何を」


「明日の分」


「馬鹿なの?」


「五回目!」


紬は。


ほんの少し。


笑った。


でも。


すぐ。


消えた。


「明日も」


彼女が言う。


「飯、出るの」


「出ます」


「本当に?」


「はい」


「明後日は」


「出ます」


「その次は」


「出ます」


「ずっと?」


俺は。


すぐに答えられなかった。


ずっと。


そんな約束。


本当にできる?


この時代で。


俺自身。


明日どうなるかも分からないのに。


だから。


正直に言った。


「ずっとは分かりません」


紬の顔が。


少し。


硬くなる。


「でも」


続けた。


「俺が食べる分があるなら。紬の分もあります」


「……」


「俺だけ食って、紬は食べるななんて言いません」


「何で」


「家来だから」


「一月だけ」


「一月だけでも」


「……」


「それに」


俺は笑った。


「俺、未来人ですから」


「それ、関係ある?」


「ないです」


「馬鹿」


「六回目!」


また。


ほんの少し。


紬が笑った。


今度は。


確かに。


笑った。


でも。


すぐに顔を伏せた。


「……信じない」


「何を」


「明日も飯が出るなんて」


声が。


小さかった。


強くも。


尖ってもいなかった。


ただ。


怖かったのだ。


この子は。


明日。


食べられなくなることを。


ずっと。


怖がってきた。


「じゃあ」


俺は言った。


「明日になってから確認してください」


「何を」


「飯が出るか」


「……」


「出なかったら?」


「俺の分をあげます」


「本当に?」


「半分」


「全部じゃないの」


「俺も腹減るでしょう!」


紬が笑った。


今度は。


ちゃんと。


声を出して。


「何、それ」


「現実的でしょう」


「けち」


「半分でも優しいですよ!」


笑いが。


しばらく。


夜の廊下に残った。


そして。


翌朝。


俺は気づくことになる。


紬という少女が。


口が悪く。


人を信用せず。


食べ物を懐へ隠すだけではなく。


実は。


俺たちが向かおうとしていた。


上流の村について。


何かを知っているということに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ