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『奥州から始める伊達政宗との天下統一 〜未来人の俺、独眼竜の無茶振りに今日も振り回されています〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第10話 拾った美少女が伊達政宗に「うるさい。黙って」と言いました

「……帰る」


少女が言った。


「どこに?」


俺が聞く。


「知らない」


「じゃあ帰る場所ないじゃないですか」


「うるさい」


「まだ屋敷にも着いてないのに何回目?」


「数えてない」


「俺は数えてますよ」


「暇なの?」


「あなたに振り回されてるんです!」


少女はそっぽを向いた。


俺たちは屋敷へ戻る途中だった。


正確には。


俺。


片倉小十郎さん。


新八さん。


護衛の兵たち。


そして。


道端で拾った、名前のない少女。


一応。


一食だけ飯を食う。


それだけの約束だった。


本人はそう主張している。


だが。


問題がある。


ものすごくある。


「小十郎さん」


「何でしょう」


「あの子、歩けてないですよね」


「歩いてはいます」


「ふらふらですよ」


「本人が歩くと申しております」


「頑固だなあ」


「聞こえてる」


少女が前を向いたまま言った。


「なら馬に乗ればいいでしょう」


「嫌」


「どうして」


「あんたと同じ馬は嫌」


「俺の馬ですよ?」


「だから嫌」


ひどい。


会って半日も経っていない。


なのに。


ものすごく嫌われている。


新八さんが笑っていた。


最近。


この人、俺が困っていると嬉しそうだ。


「楽しそうですね」


俺が睨むと。


「いや」


新八さんは口元を隠した。


「お前より口の悪い者が現れるとは思わなんだ」


「俺、そんなに口悪くないでしょう」


小十郎さんと新八さんが同時に俺を見た。


何だ。


その目。


「ちょっと。何か言ってくださいよ」


「……先を急ぎましょう」


「小十郎さんまで!」


少女が。


少しだけ。


笑った気がした。


本当に。


ほんの一瞬。


でも。


俺が見たと気づいたのか。


すぐに口元を引き締めた。


面倒くさい子だ。


でも。


まあ。


俺も人のことは言えない。


     ◇


屋敷へ着いた時。


俺は一つだけ。


致命的なことを思い出した。


「政宗様に説明するの、俺ですよね?」


小十郎さんが頷いた。


「当然です」


「どうして当然なんです?」


「拓真殿が連れてきたので」


「拾ったのは道端です」


「犬猫の話ではありません」


「それ前にも言われました」


「大切なことですから」


俺は少女を見る。


少女も俺を見る。


「何」


「いや」


「じろじろ見るな」


「政宗様に会うんですけど」


「誰、それ」


俺は固まった。


「知らない?」


「知らない」


本当か?


いや。


身寄りもなく。


どこから来たかも言わない。


なら。


知らない可能性もある。


「この辺りを治めてる人です」


「ふうん」


「反応薄いですね」


「偉いの?」


「ものすごく」


「じゃあ嫌い」


「会う前から!?」


少女は眉をひそめた。


「偉い奴は、だいたい嫌い」


その言い方。


軽くない。


経験から出た言葉だ。


俺は何か聞こうとして。


やめた。


今は。


まだ。


聞く時ではない。


「ただ」


俺は言った。


「口の利き方には気をつけてくださいね」


少女が俺を見る。


「どうして」


「どうしてって……相手は伊達政宗ですよ」


「知らない」


「だから、偉い人です」


「さっき聞いた」


「怒らせたら危ない」


「怖いの?」


「怖いですよ」


正直に答えた。


少女の目が少し変わる。


「でも」


俺は続けた。


「面倒だけど、悪い人じゃないです」


「面倒なんだ」


「ものすごく」


小十郎さんが咳払いした。


「あ」


「拓真殿」


「はい」


「聞こえております」


「すみません」


少女がまた笑った。


今度は。


少し分かりやすかった。


     ◇


「誰だ、それは」


ほら来た。


伊達政宗の第一声だった。


俺は正座している。


正面に政宗。


左に小十郎さん。


右に新八さん。


そして。


俺の少し後ろに。


あの少女が座っている。


いや。


座っているというより。


胡座に近い。


「ちょっと」


小声で言う。


「もう少しちゃんと座って」


「嫌」


「何で」


「足、痛い」


「それは分かるけど」


「拓真」


政宗の声。


「はい!」


俺は背筋を伸ばした。


「何をこそこそ申しておる」


「何でもありません」


「で」


政宗は少女を見る。


「誰だ」


来た。


俺は大きく息を吸った。


「道端で拾いました」


沈黙。


小十郎さんが目を閉じた。


新八さんが下を向いた。


笑ってるな。


あれ。


絶対。


「拓真」


「はい」


「俺は人の話を聞いておる」


「だから本当なんです」


「拾った?」


「はい」


「犬でも猫でもなく」


「人です」


政宗が少女を見る。


少女も政宗を見る。


じっと。


遠慮なく。


「お前」


政宗が言った。


「名は」


「ない」


空気が変わった。


新八さんが顔を上げる。


小十郎さんも。


政宗だけは。


表情を変えなかった。


「ないとは」


「捨てた」


「なぜ」


「言いたくない」


「どこから来た」


「言いたくない」


「家は」


「ない」


「親は」


「死んだ」


政宗は黙った。


少女も。


目を逸らさない。


俺は妙に緊張した。


この二人。


似てるのかもしれない。


いや。


全然違う。


でも。


どちらも。


一歩も引かない。


「随分と」


政宗が言った。


「生意気な娘だな」


少女の眉が動く。


嫌な予感。


「政宗様」


俺が慌てて口を挟む。


「この子、ちょっと疲れてるんで」


「黙れ、拓真」


「はい」


俺は黙った。


少女が俺を見る。


「何で黙るの」


「今は黙ってて!」


「そなたも黙れ」


政宗が少女に言った。


少女の目が細くなった。


まずい。


ものすごく。


まずい。


「お前」


少女が言った。


「何だ」


「さっきから」


やめろ。


やめてくれ。


本当に。


「うるさい。黙って」


時間が止まった。


俺は。


動けなかった。


小十郎さんも。


新八さんも。


誰も。


息をしていない。


そんな気がした。


少女だけが。


平然としていた。


「……」


政宗が黙る。


長い。


ものすごく。


長い。


俺の心臓が痛い。


「すみません!」


俺は頭を下げた。


「本当にすみません! この子、まだこの辺りのこと何も知らなくて!」


「何であんたが謝るの」


「謝らないと俺まで死ぬ気がするんですよ!」


「大袈裟」


「相手が伊達政宗だから!」


「知らないって言った」


「そこを今から覚えて!」


俺が必死になっていると。


政宗が。


笑った。


最初は。


小さく。


それから。


声を上げて。


「はははははは!」


俺は固まった。


小十郎さんも。


珍しく。


少し驚いた顔をしている。


「殿」


「面白い!」


政宗は笑いながら少女を見る。


「お前、俺に黙れと申したか」


「言った」


「もう一度言えるか」


「うるさい」


「ははははは!」


もう駄目だ。


この人。


完全に気に入ってる。


嫌な予感しかしない。


そして。


俺の嫌な予感は。


必ず当たる。


「決めた」


政宗が言った。


来た。


この言葉。


本当に嫌いだ。


「何をです」


俺が聞く。


政宗は少女を指差した。


「拓真」


「はい」


「そいつをお前の侍女にせよ」


「はい?」


少女も言った。


「は?」


珍しく。


俺たちの声が重なった。


「ちょっと待ってください」


俺は言った。


「本人の意思は?」


「聞けばよい」


「じゃあ」


少女を見る。


「侍女、やります?」


「嫌」


即答。


「ほら!」


政宗は笑う。


「なら説得せよ」


「どうして俺が!」


「お前が拾った」


「人を犬猫みたいに言わないでください!」


「最初に拾ったと申したのはお前だ」


正論。


腹立つ。


少女が俺を見る。


「侍女って何するの」


「俺の身の回りの世話とか」


「嫌」


「二回言わなくていいですよ!」


「三回言おうか」


「いりません!」


新八さんが吹き出した。


「お前」


俺は睨む。


「笑いましたよね」


「いや」


「絶対笑った」


「似合いだと思っただけだ」


「どこが!」


「口の悪い主と、口の悪い侍女」


「俺、そんな口悪くない!」


また。


小十郎さんと新八さんが。


同時に俺を見た。


だから。


何だ、その目。


「それに」


少女が言う。


「私は誰にも仕えない」


空気が少し変わった。


政宗が笑うのをやめる。


「なぜだ」


「嫌だから」


「理由になっておらぬ」


「前に」


少女は。


ほんの少しだけ。


言葉を止めた。


「仕えてた」


俺は少女を見る。


政宗も。


「誰に」


「言いたくない」


「何があった」


「言いたくない」


「そいつは生きておるか」


「知らない」


短い。


でも。


今までより。


ずっと重い答えだった。


政宗は少し考えた。


それから。


「なら」


と言った。


「仕えるな」


俺は政宗を見る。


少女も。


「侍女ではなく」


政宗が続ける。


「拓真の家来になれ」


「もっと悪化してません!?」


俺は叫んだ。


少女は。


初めて。


少し呆れた顔をした。


「何、それ」


「俺も知りたいですよ!」


政宗は楽しそうだ。


「拓真は未来人だ」


「知らない」


「知れ」


「嫌」


「面白いぞ」


「面倒そう」


「正解です!」


俺が言うと。


政宗が睨んだ。


「拓真」


「はい」


「聞こえておるぞ」


「聞かせました」


小十郎さんが頭を抱えた。


新八さんはもう隠さず笑っている。


少女は。


そんな俺たちを見て。


ほんの少し。


目を丸くしていた。


たぶん。


こんなふうに。


馬鹿みたいに。


言い合う人間たちを。


久しぶりに見たのかもしれない。


「飯は」


少女が聞いた。


「え?」


「家来になったら。飯は出るの」


俺は答えた。


「出します」


「毎日?」


「毎日」


「寝る場所は」


「何とかします」


「服は」


「それも」


少女が黙る。


俺も黙る。


政宗はニヤニヤしている。


やめろ。


その顔。


嫌な予感しかしない。


「……一月」


少女が言った。


「え?」


「一月だけ」


「何が」


「家来」


俺は目を見開いた。


少女は俺を睨む。


「嫌ならいい」


「いや」


慌てた。


「いいです」


「一月経ったら辞める」


「分かりました」


「引き止めるな」


「分かりました」


「本当に?」


「本当です」


少女は。


しばらく俺を見た。


何かを確かめるように。


それから。


小さく言った。


「……じゃあ」


政宗が言う。


「名が必要だな」


少女の顔が。


一瞬。


固まった。


「いらない」


「呼びにくい」


「おい、でいい」


「嫌です」


俺は即答した。


少女が睨む。


「何で」


「人には名前があった方がいいでしょう」


「捨てた」


「じゃあ新しくつければいい」


「簡単に言うな」


「簡単じゃないですよ」


俺も。


少しだけ。


声を落とした。


「でも」


自分でも。


どうしてそんなことを言ったのか。


分からない。


「捨てた名前が嫌なら。新しい名前で、生き直したっていいでしょう」


少女が。


黙った。


政宗も。


小十郎さんも。


誰も何も言わない。


しばらくして。


少女は顔を逸らした。


「……勝手にすれば」


それは。


たぶん。


許可だった。


俺は考えた。


何がいい。


難しい名前は嫌だ。


この子には。


強くて。


でも。


少し柔らかい名前がいい。


「紬」


口から出た。


「つむぎ?」


「はい」


「なぜ」


「人と人をつなぐ糸みたいだから」


少女が俺を見る。


「気持ち悪い」


「悪口四回目!」


新八さんが笑う。


政宗も。


小十郎さんまで。


少し笑っていた。


少女――紬は。


相変わらず。


不機嫌そうな顔をしていた。


でも。


ほんの少し。


ほんの少しだけ。


口元が。


笑っていた。


ような気がした。


こうして。


俺の最初の家来。


兼。


仮の侍女。


紬が加わった。


そして。


その日の夜。


彼女は俺の部屋に入るなり。


散らかった荷物を見て。


一言。


「……汚い」


と言った。


俺は答えた。


「侍女の最初の仕事です」


すると。


紬は。


笑顔で。


俺の荷物を外へ投げた。


「ちょっと待てええええ!」


また。


俺の叫びが。


戦国時代の屋敷に響いた。


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