9.商談
大きな屋敷に通され、奥の部屋のソファに座っていると、50代くらいの男性が部屋に入ってきた。僕はソファから立ち上がり、男性にお辞儀をする。
男性が向かいのソファに座る。僕も後に続き、ソファに腰掛けた。
「今日は商談に応じてくださりありがとうございます」
「いやいや、大丈夫だよ。ところで、もう1人の女の子は来ないのかい?」
「もう1人の女の子?」
きっとセラサイトのことだろうが、何人で行くかを普通商談相手に言うだろうか。
考えろ。次に何を言うかで相手と、どれだけ対等に話せるかが決まってくる。セラサイトならこんな時どう言うか、考えろ。
「彼女は今別の仕事をしていて、後から合流する予定ですが、何故あなたはもう1人、それも女性がいると思ったのでしょうか?」
「……」
男性は黙っている。それも心からの憎しみを帯びたような目で。
間違えてはいない。セラサイトならそうする。彼女は弱みを握ってくると言った。なら、僕に出来ることはその補佐くらいだ。
「あの?」
「いやね。電話対応してくれたのが女の子だったから、てっきり女の子も来るものだと思ってしまった。失敬失敬」
はぐらかされた。いや、男性は端から対等にするつもりなんてなかったんだ。僕たちのことに関しても、この商談に関しても。
なら、こっちだって。
「そうでしたか。では、今回のことについてお話しましょうか」
数分後。とある屋敷の1室で。
(まずい…)
完全に相手の話に流されている。これじゃあ、セラサイトが帰って来るまでもちそうにない。
考えろ。どうしたら話を元に戻せるか。考えろ。
「という風でどうかね?」
冷や汗が背筋を伝う。
駄目だ。何も思い付かない。
──コンコン。
扉がノックされた。男性が外に声をかけると、秘書と思わしき女性が扉を開け、その奥から少女が顔を覗かせる。
そこには、顔に絆創膏を貼ったセラサイトが立っていた。セラサイトが部屋に入ってくると、奥からぞろぞろと何人かの人も部屋に入ってきた。
「何事かね⁉」
「商談は終わりです。それよりも誘拐事件の話をしましょうか?」
「何故今そんな話を!君たちには関係ないじゃないか!」
「関係ありますよ。先程まで、私は誘拐されていたんですから…」
セラサイトの言葉に背筋が凍る。彼女が誘拐されていた?一体何故?
僕が何も出来ないでいると、セラサイトの側に立っていた何人かの人が男性を取り囲み始めた。どうやら警察の人のようだ。
「何をする!話をさせろ!」
「話はもう出来ませんよ。こちらには貴方が関わっているという証拠も、確証もあるんですから。では、後は警察の方にお任せします」
男性の暴れる音と叫ぶ声が離れていく。それと同時に部屋の中に静寂が訪れる。
男性の方を見ていたセラサイトが、こちらに振り向く。よくやりました。そんな言葉が出てきそうな目でこちらを見つめている。
未だ何の理解も出来ていない僕は、ソファから立ち上がりセラサイトに向かって問いかける。
「どういうこと?」
「言葉のままですよ。あの権力者はこの国で誘拐を行い、人身売買をしていた。そして、その証拠を掴むために私は自ら誘拐された。ということです」
「何で、あの人が関わっているって分かったの?」
「最初はただの予想でしたが、誘拐されたときに聞いた声が予想を確証に変えました。後は現場に残されていた証拠ですね」
部屋の中に静寂が訪れる。
セラサイトはこの国に来る前、それもこの商談を受けたときからあの男性には裏があると気付いていた。だからウレンさんに資料を求め、僕に気を付けるよう伝えた。
彼女はどこからどこまで知っているのだろう。もしかすると、セラサイトはこの世界のことで知らないことはないのではないか。
僕が考え込んでいると、セラサイトの目がいきなり大きく見開かれた。
「危ない!」




