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8.ここまでは想定内

 少女は路地裏を歩いていた。細く薄暗い、いかにもな輩が蔓延(はびこ)ってそうな路地裏を。先程から誰かにつけられていることに気付いているにも関わらず、少女は路地裏を歩く。

 その瞬間、誰かの腕が少女をガッチリと掴み、ハンカチが彼女の口と鼻を塞ぐように当てられる。少女は何の抵抗をすることもなく、力無く項垂(うなだ)れた。

 そんな少女を担ぐようにして誰かは路地裏の奥深くへと消えていく。


(ここまでは想定内…)


 項垂れたフリをする少女は心の中でそう思った。彼女は薄目を開け、周囲の様子を伺う。先程の路地裏とは違う材質の道になっていき、そのうち一軒の家の前に着いた。

 その一軒の家に入ると少女はある部屋に降ろされた。そして手と足を縛られ、口を塞がれる。が、少女は決して焦らない。

 まだその時ではない。それが理解出来ていたからだ。

 少女が周りの様子を伺っていると誰かが、話し出した。その声質から50代くらいの男性と30代くらいの男性だと少女は瞬時に感じた。


「こいつがアダマスから来たって奴か?」

「そうそう。1人は弱そうな男で、1人はこの女の子だ」

「こいつはなかなか上物だな。高く売れるぞ」


(やはり、人身売買か。それにこの声は……)


「あとは任せたぞ。男の方は俺が何とかする」

「はい。任せてください」


 そういう声と共に、扉がバタンと閉じる音がした。

 少女はそのタイミングを見計らって目を開けた。今いる場所は古い家屋のようだった。部屋の中にはほとんど何もなく、ただ椅子が2脚置いてあるだけだった。

 少女は手際よく自身の手に巻かれた縄を解くと足、そして口のハンカチも取る。そして素早く静かに扉へと駆け寄ると、耳を当て周囲の様子を伺った。

 何も聞こえない。

 少女は十分に注意しながら扉を開け、外に出る。随分と、この家屋は広いようだ。


(まずはこの階から…)


 少女は静かに、それでいて素早い動きで隣の部屋の様子を伺う。危険がないことを確認すると、少女は静かに扉のノブを回した。

 中にはこれまた何もなく、ただポツンと椅子が置かれていた。


(この階はハズレか)


 少女は扉を静かに閉めると、階段を探して歩き始めた。が、探すこともなく下への階段はすぐに見つかった。ここは2階だったらしい。

 足音を立てずに階段を降りていくと、すぐ側の部屋から声が聞こえた。どうやら誰かが怒鳴っているようだ。

 少女はすぐにその部屋の前に移動すると、聞き耳を立てる。


「だから言っただろうが!『商品』は大事にしろとあれほど……!」


 少女はこれ以上聞くのは無駄だと判断し、他に調べる部屋がないか物色し始めた。と、すぐに床下に扉のようなものがあるのを発見し、その扉を開けた。

 そこには地下へと続く階段が続いている。

 少女は地下へと続く階段を1歩、また1歩と降りていった。周りこそ暗いが、地下からは何か音が聞こえている。

 ゆっくりと地下に降り立った少女の耳に入ったその音は、誰かがすすり泣く音だった。

 少女は一目散にその泣き声の方に駆け出すと、牢のように鉄格子が嵌められた部屋を見つけた。どうやら泣き声はその部屋からしているようだ。

 少女が部屋に近付こうとしたその瞬間、鉄パイプが少女のいた位置に振り下ろされた。間一髪で少女は避けたが、辺りにはカンッという鉄とコンクリートが触れたような音が響いた。


「あ〜、惜しい。もうちょっとだったのに」


 そこに立っていたのは、先程部屋で話していただろう30代くらいの男性だった。男性は一呼吸置くとまた鉄パイプを振り上げる。

 少女はそれをまた避け、男性の顔に蹴りを1発入れた。鉄パイプを落とし男性は崩れ落ちたが、その目は未だ少女を捉えていた。

 続けざまに少女は男性の顎と後頭部に蹴りを入れ、男性は気を失ったようだった。


「ここまでは想定内。あとは……」

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