7.アケト
午後の柔らかな陽気が僕たちを照らす。アケトに降り立った僕たちは、賑やかな街中を進んでいく。
セラサイトはアケトに着いてから一言も話さないし、アテナは飛行船の扉が開いた途端に空へ飛び立ってしまった。そんな状況に僕はただ無言で彼女についていく以外なかった。
ふとセラサイトが立ち止まると、賑やかな周りとは裏腹に冷たい視線で、ある一点を見つめた。僕も慌ててその方向を見るが、そこにはただ小さな一軒家がポツンとあるだけだった。
「どうしたの?」
僕はセラサイトにそう尋ねるが、彼女は何も答えることなく先へ歩を進める。
セラサイトがまた立ち止まった場所は僕たちが泊まる予定のホテルだった。彼女はさっさと2人分のチェックインを済ませると、僕を連れてホテルの部屋へと向かった。
とある一室に入ると僕も入るよう視線で促してきた。その通りに僕が部屋に入ると、セラサイトはサッと扉を閉め、窓のカーテンも閉めるとキセキを取り出した。
「ついてきてください」
セラサイトはそうとだけ言いキセキを短刀に変え、亀裂を創ると中に入っていった。僕もその後に続く。
ジオードのような景色が目に飛び込む。その後に彼女の声が響く。
「やっと静かに話せますね」
「えっと、どういうこと?」
「アケトに着いてから、複数人につけられていたんですよ。気付きませんでしたか?」
その言葉を聞き、アケトに着いてからのセラサイトの行動をやっと理解した。
何も話さなかったことも、ここに来るまでに何かアクションを起こさなかったことも、全てセラサイトが誰かにつけられていることに気が付いていたからだった。
「何も…気付かなかった……」
「そうですか。まぁ、想定内です」
「想定内?」
「ええ。この国でつけられることも、貴方が気付いていないことも、これから何が起こるかも、全て想定内です」
全て想定内って。それって僕は必要ないんじゃないかと不安になる。だが、そう僕が思うことも彼女にとっては想定内なのだろう。
そんな思いを振り払い、僕は思い切ってセラサイトに声を掛ける。
「じゃあ、これからどうするの?」
「新幸様は明日の商談の対応をお願い致します。私はその間に弱みを握りますので」
「え、僕一人で⁉」
「心細いですか?なら第二の作戦に切り替えますが…」
そう言うセラサイトの瞳は信頼の光を帯びている。
何故か僕はそんな彼女の思いを裏切ることは出来ないと思った。だから。
「いや、大丈夫だよ。僕一人でも何とかやってみる」
「そうですか。なら、お願い致します」
セラサイトはそう言うと、持っていた短刀でジオードを切り裂いた。その場に大きな亀裂が入り、ホテルの部屋が亀裂の先から見える。
「1つだけ忠告を。私が商談相手のところに戻るまで、絶対に商談を可決しないでください」
「それって……?」
「それが、今回の仕事を最適解に導く、唯一の方法です」
「わ、分かった」
「では、そういうことで。何かあれば連絡してください」
そう言って、セラサイトは部屋へと戻っていく。その後を僕も追う。ジオードの空間から出た彼女は僕に部屋の鍵を渡すと、自身の荷物を持って部屋から出ていった。
1人になった部屋の中、僕は明日の商談への不安を抱えながら、ベッドへと飛び込むのだった。
「もしもし。着信があったから折り返したけど、何かご用?」
『ちょっとね。僕と君がパートナー解消されたことを知ってから、先生の対応があからさまで。どうにかして欲しいなぁって』
「それは今の私がどうにかすることじゃないと思うけど、まぁ、先生には何となく言っておくよ」
『ありがとう!今日ずっと不機嫌だったから、君から連絡があると喜ぶと思うよ。じゃあ、またね!』
少女は電話を切ると部屋の窓を開け、入ってきた心地よい空気に目を細める。
そしてスマートフォンを少し操作すると、窓枠に身を預け消え入りそうな声で呟いた。
「嫌な予感がする…」




