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6.博識であるが故

 自動飛行船でアケトへと向かっている中、僕はセラサイトに渡されたアケトでの事件資料を眺めていた。資料を見ていると事件のほとんどが誘拐事件であり、未解決で終結されていることに気が付いた。それは僕が思っていた平和な国という想像とはかけ離れた事実だった。


「この国ってこんなに誘拐事件があったんだ。てっきり平和な国だと思っていたのに……」

「アケトは元々とある国のスラム街でしたが、街の人々が協力し独立した結果、今のアケトになったと言われていますので、過去を加味するとそこまで驚くものではないでしょう」

「へぇ、アケトってそんな歴史があったんだ」


 僕が驚いて資料を読んでいると、セラサイトは怪訝な表情をして口を開いた。


「普通、学校で各国の歴史を学ぶものではないんですか?」

「いや、大体は自分の国の歴史しか勉強しないと思うよ。自分の国と深く関わっているなら学ぶかもしれないけど」

「そうなのですね。学校に通ったことがないので知りませんでした。今度先生に会った際には……」


 セラサイトは僕の言葉を聞いて何かブツブツと考え込むように呟いた。僕はその様子よりも彼女の言った学校に通ったことがないという言葉に驚愕した。セラサイトの知識や言動は学校に通っていない人のものではないと思ったから。


「セラサイトは学校に通ったことがないの?てっきり大学まで卒業してるのかと思ったよ」

「一応知識として大学までの勉学は頭に入っていると思います。ですが、学校に通ったことはありませんね」


 僕はまた驚いた。学校に通っていないのに大学までの知識があるということは、セラサイトは全て独学で身に付けたことになる。彼女の才能に僕は無意識に震えた。


「ですが、博識であっても、所詮は凡人ですので……」


 彼女はボソッとそう言った。

 僕はセラサイトにどういうことか聞こうと思ったが、そんな僕のことは目に入らないといったように、彼女は(おもむ)ろにキセキを取り出すと素早く短刀に変え、空間を開いた。すると中から大きな1羽のフクロウ──アテナが飛び出して来て、セラサイトの膝に留まった。

 僕は驚いて思わず彼女に声をかけた。


「なんでアテナを?」

「今回は彼の力も少なからず必要になると思うので……」


 セラサイトはそう言ってアテナを撫でている。その瞬間、彼女の方を向いていたアテナが僕の方へグルリと首を向けた。不思議なことにその大きさに見合わず、僕は彼を怖いとは思わなかった。

 アテナはキュルキュルと何かを言いたそうに鳴くと僕の方へ飛んで来て僕の膝に降り立った。


「な、何?」

「アテナは貴方のことを気に入ったようです。人見知りしないとはいえ、一度会っただけの相手にここまで懐くのは初めてです」


 セラサイトがそう言うと、アテナは同意するかのように頭を2回下げた。僕は恐る恐る彼の頭に手を当てると、アテナは嬉しそうに僕の手に頭を擦り付けてきた。

 温かい。硬そうに見える羽も柔らかく、アテナは撫で心地が良かった。


「彼はいざという時、貴方を護ってくれるでしょう。その時は存分に撫でてあげてください。喜びますから」


 セラサイトがそう言うとアテナは僕の膝から飛び立ち、彼女の隣に降り立つと、セラサイトの手に自身の頭を擦り付ける。

 彼女はアテナの頭を撫でると、僕の方を向き口を開いた。


「もうすぐアケトに着きます。覚悟とまでは言いませんが、しっかりと気持ちを保っていてください。多分、私達は歓迎されていませんから……」


 僕はセラサイトの言葉を聞き、想像とは違う誘拐事件の多い国に足を踏み入れることに不安を感じながらも、普段と変わらない様子のセラサイトに安心感を感じ、仕事のために小国アケトへと1歩踏み出すのだった。

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