5.レディのお店
今日はセラサイトとの仕事の日だ。内容はとある国で新規の契約を取ってくること。なのだが、何故か彼女は僕を連れ早朝にも関わらず、本社の人材督励部にやってきていた。そして、とある一室でウレンさんと対面している。
部屋の中には瓶や箱など、色々な物が置かれている。
「何の御用かしら?お嬢ちゃん」
「ウレン様、ここ数年のアケトでの事件を纏めた資料が欲しいのですが……」
「それは、同僚の私に対してかしら?それとも──」
「貴方のお店に置いてあるか、という意味です。レディ」
アケトというのは、僕たちがこれから契約を取りに行くとある国のことだ。豊かな小国であり、大きな事件とはあまり関連がないような平和な国だったはずだが。何故セラサイトがそんな資料を欲しがるのか分からない上、ウレンさんの『お店』という言葉にも疑問を持ちつつ、僕はセラサイトの隣に立ったまま会話を聞き続ける。
「えぇ、あるわよ」
「対価はいかが致しましょうか?」
「そうね。この前お嬢ちゃんが話していた珍しい花の種でどう?今日中に取って来るのは難しかったかしら?」
ウレンさんが怪しく微笑むとセラサイトが数歩前に歩み寄り、ウレンさんが座るデスクの上にスーツのポケットから取り出した小さな小瓶を置いた。その小瓶の中には半透明の小さな粒がいくつか入っている。
「レディ、貴方がお望みのものです。しかし、いかんせん珍しいものですから、私が持っているのはその小瓶に入っている量だけです」
「分かったわ、契約成立ね。これが貴方の求めていた資料よ。心配する必要はないと思うけれど、適切に使いなさいね」
「はい。理解しています」
ウレンさんがデスクの引き出しから紙の束を出すと、それをセラサイトに渡す。セラサイトはウレンさんから紙の束を受け取りこちらに振り返ると、僕に視線で部屋を出るように促してきた。
僕はなぜセラサイトがウレンさんの求めた物を持っていたのかも、ウレンさんがセラサイトの求める資料を側に置いていたのかも分からないまま扉の前まで行き、ウレンさんに挨拶をしてから部屋を出る。彼女も同じようにしてウレンさんのいる部屋から出てきた。部屋を出た瞬間ペラペラと資料をめくり難しげな表情をしているセラサイトに、僕はずっと気になっていた質問をぶつけた。
「なんでアケトの事件資料が必要なの?僕たちは今からそこに契約を取りに行くのに」
「今回の契約を取るためには正攻法ではまず不可能でしょうから。先方の弱み、あるいは渇望しているものを知らなければいけません。これはその1つです」
セラサイトが言っていることの大半が理解出来ないが、彼女が持っている資料が今回の役に立つということだけは理解出来るような気がした。セラサイトはひと通り持っていた資料に目を通したあと、僕にその資料を渡してきた。
「貴方も目を通したかったら、どうぞ。少しはアケトのことが分かるかもしれません」
「あ、ありがとう」
セラサイトから資料を受け取ると、彼女は飛行船の方に向けて歩き出した。この世界での主な交通手段は飛行船であり、アダマスが所有する最高級の飛行船で僕たちはアケトへと向かう。
契約を取るという簡単な仕事にも関わらず、セラサイトが言った正攻法では不可能という言葉が頭から離れず、僕は大きな不安を抱えながら彼女の後を追って飛行船へと向かうのだった。




