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4.キセキ

 本社の営業経理部所えいぎょうけいりぶしょまで戻って来たが、僕は先程起きたことが頭から離れず、セラサイトに向かって声をかけた。


「さっきの……何だったの?石が短刀になって、亀裂が……何が、起きて……?」

「とりあえず、落ち着いてください」


 彼女はため息をつくと、ポケットから先程見たものと同じ石を取り出した。

 そして小さく深呼吸をするとあのときと同じようにセラサイトの手の中で石が光り、短刀に変わる。


「これは私のキセキ『桜石(さくらいし)』です。キセキには持つ人それぞれ違う力があり、私のキセキは『絶対に安全な空間を造ることが出来る短刀になる』力を持っています。もちろん、普通の短刀として使うことも可能です」


 そう言うと彼女は短刀で自身の頭から足元までの宙を切り裂いた。切り裂かれたところがまた亀裂として残っている。

 セラサイトはその亀裂に暖簾(のれん)をくぐるように手をかけると亀裂を広げた。亀裂の中はジオードのようにキラキラとした宝石に囲まれているような空間だった。


「ついてきてください」


 彼女は僕にそう声をかけると亀裂の中に入っていく。僕も恐る恐る中に入るが、中は案外広く心地よい空間だった。

 奥へ奥へと進むセラサイトに置いて行かれないよう、僕も彼女の後に続いて空間の中を進む。この空間は進めば進むほど壁の宝石のようなものが一層強く輝いているようだった。

 暫く進むとセラサイトは立ち止まって、僕の方を振り向いた。彼女の奥には机のようなものがあり、そこにはビルの中で放り込んだ書類とカメラが置かれていた。


「この空間の中では壊れることも汚れることもありません。つまり、ここにいる限りは全てが安全なのです」

「それって人間や動物も死んだりしないってこと?」

「傷付けることが出来ませんので、傷害や殺害は出来ないと思います。ですが、老衰については……試したことがないので分かりませんね」


 そう言ってセラサイトは持っていた短刀で自身の腕を傷付けるが、傷付けたであろう場所には傷どころか痕すら残っていない。

 彼女が言った『安全』とは良い意味でも、悪い意味でも安全なのだと、そのとき僕は理解した。そして、それと同時に僕が持つ翡翠(ひすい)のキセキにも何か力が秘められているのだろうか、と疑問に思った。


「僕のキセキにはどんな力が宿っているんだろう?」


 僕の何気ない呟きにセラサイトは顎に手を当てて考えた後、ニコッと微笑んで口を開いた。


新幸(にっこう)様の能力を活かすような力ですよ。そのうち力を発揮してくれることでしょう」

「僕の能力……」


 自分の能力が何かを僕は考えるが、これといったものは出てこない。強いて言えば『運』だろうか。僕は昔から他人より少しだけ運が良かったから。

 僕が首を傾げて考えこんでいると、空間のもっと奥から何かの羽ばたく音が聞こえ、僕の半分程もある大きなフクロウが凄いスピードでこちらに向かってきた。

 フクロウは彼女の足元まで来ると、甘えるように喉を鳴らした。


「その子は?」

「彼はアテナ、私の相棒です。神素(こうそ)エネルギーから生まれた動物ですね」


神素エネルギー。それは、神からの一瞥(いちべつ)或いは神との謁見で手に入れられるエネルギーのこと。なんでもそのエネルギーは魔法に近い力を使うことが出来るとかなんとか。

 僕はそのどちらにも当てはまらず、エネルギーを持っていない。だからこそ、僕には無縁の話だと思っていた。しかし、こうして見るとやはり羨ましいものだ。


「さて、そろそろ戻りましょうか。この空間は安全ではありますが、外の時間が止まってくれる訳ではありませんので」


 セラサイトの言葉に僕は頷いた。

 彼女は来たときと同じように宙を切り裂くと、亀裂の先に僕達が入ってきたときと同じ景色が見える。

 僕はキセキの不思議な力を目の当たりにして、自身のキセキが力を発揮するのを楽しみに思うのだった。

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